今回の都知事選は、舛添要一前都知事の「政治とカネ」問題での任期途中での辞任よ
るものだが、その前の猪瀬直樹元都知事の同じく「政治とカネ」問題での任期途中で
の辞任、その前の石原慎太郎元都知事による、やはり任期途中で都政を放り出しての
無責任な国政への転進による都知事辞任という、5年4ヵ月の間に、連続3回もの任
期途中での都知事辞任による都知事選挙という異常事態の中で行われた。それも毎
回、本来は必要でなかった都民の税金50億円を浪費しての選挙である。しかも自民
党は増田寛也候補と小池百合子候補とに分裂し、保守分裂選挙となった。それら3代
の都知事を擁立してきた自民党、公明党の責任が問われ、彼らにとっては逆風の選挙
のはずであった。
それに対し野党側は野党統一候補(民進党、日本共産党、社民党、生活の党と山本太
郎となかまたちの国政4野党に加えて、東京・生活者ネットワーク、新社会党、緑の
党グリーンズジャパンを加えた7党の)という、これまでにない、野党側に有利な状
況で都知事選挙が行われた。それにもかかわらず、野党統一候補として擁立された鳥
越俊太郎氏は、1,346,103票(得票率20.56%)しか得票できず、小池百合子氏の
2,912,628票(得票率44.49%)にダブルスコアの票差をつけられ、次点の自民党、公
明党、日本のこころを大切にする党推薦の増田寛也氏の1,793,453票(得票率
27.40%)にも及ばなかった。惨敗というほかない。前回の都知事選挙で982,594票
(得票率20.18%)を獲得して次点となった宇都宮健児氏が野党統一候補勝利のため
に、苦渋の出馬断念をしたにもかかわらず、前回の野党票が割れた中でも宇都宮氏が
獲得した得票率20.18%と大差ない得票率しか鳥越氏は獲得できなかった。
<野党統一都知事候補選定擁立過程の問題>
今回の野党統一都知事候補としての鳥越俊太郎氏の選定・擁立には非常に問題があっ
たと思う。
①野党統一候補の擁立が自己目的化し、国政の課題が優先し、都政の課題が二の次に
されたこと。
しかも都政についてのきちんとした政策すら出馬会見や告示段階で何ら打ち出せな
かったこと。
安倍政治、安保法制に反対し、立憲主義を守るということは重要であるが、都政の具
体的な政策を示せないということでは、都民、有権者の支持は得られない。
②候補擁立に当たって政策協定もなく、擁立したこと。これでは、野合と批判されて
も仕方ない。
③知名度優先で、候補者の都政に対する識見や適格性を十分審査することなく、擁立
したこと。
人気投票ではないのだから、このような有名人、知名度のみを優先させる候補選定か
ら脱却すべきである。
④候補者の選定に当たって、公開の場で、候補予定者が都政に関する政策の相互討論
や論争をすることなく、一部政党執行部の人たちによる密室での人選が行われたこ
と。
候補選定に当たって、予備選挙や候補予定者間の政策論争が公開の場で行われる米国
の大統領選挙の方が、この点に関しては、よほど民主的である。
特に候補者選定を中心的に進めた民進党執行部の責任は重い。著名人頼りで、何人も
の候補者名が挙がっては消え、また別の人が挙げられるといった迷走を繰り返し、そ
の結果、有権者の不信感も買った。
⑤候補擁立に当たって、候補者候補に対する、いわゆる「身体検査」や資質、適格性
の審査が不十分であったこと。
鳥越氏の『週刊文春』『週刊新潮』が報じた「疑惑」が事実かどうか、私はわからな
いが、以前からそのような噂は一部で流れていたとも聞くので、民進党などの政党幹
部も調査が充分だったかどうかも問われる。
そして鳥越氏の高齢と体力の問題である。これらの問題に関しては、項を改めて、後
に述べる。
⑥これまで2度に渡り、猪瀬氏、舛添氏を批判して都知事選を戦い、両回とも100万
票近くの得票をして次点となり、前回は、野党側が分立したにもかかわらず、細川護
熙候補の得票を上回る得票を獲得し、得票率も伸ばし、そしてその後も、市民ととも
に都議会を傍聴し続け、都政に対する政策を練り上げてきた、そして次の都知事選に
向けた準備もしてきた宇都宮健児氏を候補者選定から排除する形で、出馬辞退の圧力
をかけた、政党幹部や市民団体の人々の責任も問われなければならない。
「野党統一」という名目であれ、そもそも他の候補者の立候補する権理を奪ったり、
圧力をかけたりする権理は誰にもないはずである。
私自身は、宇都宮健児氏が政策的にも、都知事の資質においても、もっとも都知事に
相応しいと思うが、鳥越氏ではなく、宇都宮氏を野党統一候補にしていたならば、こ
のような目も当てられない惨敗になることはなかっただろうし、保守分裂という中
で、宇都宮氏が勝利する可能性は充分あったと思う。少なくとも、野党統一候補の選
定に当たっては、宇都宮氏を含む都知事候補予定者の政策討論等を公開の場で、一般
の市民も参加する形で行って、候補者選定を行うべきであった。
民進党都連の長島昭久議員は、宇都宮氏の出馬断念後、「候補者の中で彼(宇都宮さ
ん)が一番準備されていたし、共感する政策が多かった」とツィートしたそうであ
る。https://mobile.twitter.com/nagashima21
もし彼が本当にそう思うなら、なぜ宇都宮氏を、野党統一候補に推さなかったのか!
もっとも石原伸晃氏の元秘書であり、彼自身、ゴリゴリの改憲論者であり、民進党
きっての右派(「日本会議」のメンバーでもあったとのこと)で、共産党や社民党と
共闘するのに反対してきた長島氏が本当に宇都宮氏の政策に「共感する政策が多かっ
た」と思っているとはとても思えない。しかしそのような人物でさえ、宇都宮降ろし
の理不尽さを痛感せざるを得ず、宇都宮氏の準備と政策に敬意を表さざるを得なかっ
たということの意味は少なくないと思う。
<鳥越俊太郎氏の都知事候補としての問題点>
敗北した候補に鞭打つことはしたくないが、今回の問題点を抉り出し、再び誤りを繰
り返さないようにするためには、問題点を厳しく総括する必要がある。そしてそれら
問題点の多くは、そのような人物を拙速に野党統一候補に擁立した政党幹部や市民団
体の人たちの責任である。
①都政に対する政策も見識も持ち合わせず立候補したこと。
出馬会見で、「がん検診100%」以外、具体的な政策を提示できず、事実に反する発
言(東京都の出生率の誤りと訂正等)や質問に窮する場面も。3日あれば、政策を作
り上げられるというような鳥越氏の思い上がった発言は、都政と都民をあまりにも馬
鹿にした発言である。
②政策を練り上げていなかったためか、政策に自信がないためか、都政の詳細を知ら
ないためか、公開討論会を欠席したり、避けたこと。
数少ない出席した討論会でも、精彩を欠いていた。これでは、有権者の支持は得られ
ない。政策論争こそ、都知事選挙の核心、本筋であるべきである。(前回の都知事選
では、細川護熙候補が討論会出席や相互討論を避けた。)
③高齢と体力面の不安。
76歳という高齢に加えて、癌を患い、4回の手術を受けたことは、本人は、自分は健
康だ、体力には自信があると言っても、また癌患者の勇気付けと癌患者に対する社会
の偏見をなくすためだとしても、もし任期途中で知事を続けられなくなった場合、連
続して4回目の50億円の都民の税金をかけて、無駄な都知事選を強いることになる
という重大な負担とリスクを都民に押し付けることになる。都民、有権者が不安が
る、懸念するのは当然である。都知事は激務であり、軽く考えてもらっては困る。途
中でやはり無理でしたではすまない。事実、鳥越候補の街頭演説、遊説の回数も他候
補に比して極端に少なかった。巣鴨では伝説となった40秒演説で、大顰蹙を買った。
都知事選は激務中の激務である。いくら本人が大丈夫と言っても、高齢の大病を患っ
た人を真夏の炎天下に街頭演説、遊説に駆り出すのは、それ自体、人権侵害ともいえ
る。元々、無理であったのである。下手をすれば遊説中に倒れるという最悪の事態ま
で考えなかったのであろうか。医師でもある日本共産党の小池晃氏は、医師として、
鳥越氏の体力を本当に診断したのだろうか?
④週刊誌報道の女性疑惑に対する鳥越氏の対応。
『週刊文春』、『週刊新潮』両誌が報じた鳥越氏の女性疑惑については、もしそれが
事実とすれば重大な女性に対する人権侵害であるが、私自身はそれが事実かどうか、
知りうる立場にないし、両誌のこれまでの報道姿勢やこの時期の報道には、私も疑問
を感じるところはあるが、女性の重大な人権にかかわる疑惑問題で、説明責任を果た
すことは、都知事候補者としても、ジャーナリストとしても、人間としても求められ
る。それを「事実無根」と言うのみで、本人の口から何ら一切の説明もせず、いきな
り両誌に対する刑事告訴、弁護士まかせというのは、言論に対しては言論で闘ってき
たジャーナリストとしての姿勢も問われる。
宇都宮氏が、鳥越陣営の応援要請に対して、それを受諾する条件として、鳥越氏がこ
の女性疑惑に対する説明責任を果たすことを求めたのは、弱い者の人権のために闘っ
てきた弁護士として当然である。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion6203:160801〕