破壊されたノルドストリーム・パイプラインからバルト海面に浮上する泡(ガス流出)[撮影:Swedish Coast Guard]
はじめに:ノルドストリーム・パイプライン破壊工作に関する新たな情報
3月7日、ニューヨーク・タイムズは、去年の9月に発生したノルドストリーム・パイプライン爆発事件について、親ウクライナ派のグループによる破壊工作だったことを示唆する新たな情報を米国政府関係筋から得たと伝えた。同日、ドイツのメディアも同様なニュースを一斉に流した。さらに、米独メディアは、爆発に関して1月にドイツ検察が捜索した船舶を特定したことを明らかにしたと述べた。船舶は”アンドロメダ”と呼ばれるヨットで、ドイツ検察は船室のテーブル上に爆発物の痕跡を検出した、という。
この新しい情報は、2月8日に、著名な調査ジャーナリストであるシーモア・ハーシュ氏が公表したノルドストリーム・パイプライン破壊事件に関する詳細に至った調査報道と比較すると、雲泥の差があり、情報源もストーリーも漠然としていて曖昧であり、直感的に「信じがたいなあ」との懐疑心を抱かせるものだった。
それで、誰かこの懐疑心をはっきりさせてくれる人はいないものか、とネットメディアをサーチしたところ、スコット・リッター氏が著した「ノルドストリーム – アンドロメダ 隠蔽工作 (The Nordstream-Andromeda Cover Up)」という記事が目に留まった。 かつて米海兵隊情報将校・国連の兵器査察官であったリッター氏は、この論評の中で、ご自身の見識を活かして、なぜ ”親ウクライナ派によるパイプライン破壊工作ストーリー”は信憑性に欠けるのか、論理的に、そのナレティヴが提示する問題点を見事に暴いている。
この論評をぜひ皆様にご紹介したいと思い、和訳させていただいた。
原文(英文)へのリンク:https://consortiumnews.com/2023/03/14/scott-ritter-the-nord-stream-andromeda-cover-up/
なおシーモア・ハーシュ氏のノルドストリーム爆破事件に関するスクープ記事の和訳が、ちきゅう座に掲載されている。 レイチェル・クラーク氏が翻訳してくださったものである。和訳へのリンクは: https://chikyuza.net/archives/125341
スコット・リッター氏について
元米海兵隊情報将校、旧ソ連で軍備管理条約を実施し、ペルシャ湾の砂漠の嵐作戦やイラクで大量破壊兵器の武装解除を監督する任務にあたった。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika (ペレストロイカ時代における軍備縮小 – 仮訳)』がある。
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ノルドストリーム – アンドロメダ 隠蔽工作
著者:スコット・リッター (Scott Ritter)
[翻訳:グローガー理恵]
2023年3月14日
米国情報部は、ドイツの調査に関する情報をニューヨーク・タイムズにリークするのが、あまりにも早すぎた。 それは、真犯人がシーモア・ハーシュの調査成果について神経を尖らせているのではないかという紛れもない印象を起こさせるのだ。
2000年、『スタートレック』シリーズの創作者であるジーン・ロッデンベリーの未使用資料を基にしたテレビシリーズ『アンドロメダ』が初めて放映された。その構想は、時間に凍結された宇宙船「アンドロメダ」が、時間を逆行させて歴史を元に戻す機会を与えられるという概念を前提にしたものである。
このシリーズは5年間続いた。
そして、現在へとファーストフォワードすると。
歴史は、4本のパイプラインを通して(ノルドストリーム1とノルドストリーム2は、それぞれ2本のパイプラインから成る)ロシアの天然ガスをヨーロッパに輸送するノルドストリーム・パイプライン・システムに『終止符を打つ』意図を公然と明かしたジョー・バイデン大統領の政権に、厄介な手を打ってきた。
それ以来 ー ピューリッツァー賞受賞者・調査ジャーナリストであるシーモア・ハーシュによる、2022年9月26日に起きた一連の海底爆発の責任をバイデン自身に投げかけた、きわめて不利な情報を詳述した爆発的なリポートが公表されて以来、バイデン・ホワイトハウスは、大統領が述べた意図を否定せざるを得なくなっている。(もしハーシュの報告が真実であるのならーしかも、それが真実でないと疑う理由はない。)
ハーシュのリポートは米国のメインストリーム・メディアによって無視され、シーモア・ハーシュが長年の間、国家安全保障問題について執筆してきたニューヨーク・タイムズも、そしてワシントン・ポストも、もっとも偉大な現役の調査ジャーナリストが超大作を発表したことを仄めかすことすらしなかった。
さて、アンドロメダのテーマに入ろう ー それは、エポニムとなったテレビシリーズの宇宙船ではなく、ドイツのバルト海の港市ロストックを拠点とした全長15メートル (49フィート)のヨット”ババリア C50 “ についてである。ハーシュが彼の記事をサブスタックに自己公表してからほぼ一ヶ月経った3月7日 、ドイツ公共放送連盟キャピタル・ストゥディオ(ARD Capital Studio)、コントゥラステ(Kontraste)、南西ドイツ放送 (SWR)、ディ・ツァイト (Die Zeit) のドイツ人記者のチームが共同で、「秘密作戦に使われたとされるボート」の存在を明るみにしたと報告した。
そのボートは、”ポーランドに拠点を置く、2人のウクライナ人が所有しているらしい会社から借りたヨットである”とのことだ。 そのストーリーによると、”海上の秘密作戦は6人のチームによって実行された”という。
ドイツの報道によると、ー 5人の男性 (船長、2人のプライマリー・ダイバー、2人のサポート・ダイバー) と一人の女性医師からなるこのチームは、アンドロメダを使ってチームと爆薬を犯行現場に輸送した。ヨットは”清掃されていない状態”でロストックに戻され、1月8日から11日にかけて船内捜索を行ったドイツ連邦検察は、船室のテーブル上に爆発物の痕跡を検出することができた。
ノルドストリーム攻撃の新しいナレティヴに関するドイツの報告が報道された同じ日に、ニューヨーク・タイムズは 『情報は親ウクライナ派のグループがパイプラインを破壊工作したことを示唆している、と米政府関係は 述べている (Intelligence Suggests Pro-Ukrainian Group Sabotaged Pipelines, US Officials Say)』とのヘッドラインで一面トップに記事を掲載した。
ここで、ニューヨーク・タイムズは初めてハーシュのリポートに言及し、「先月、調査ジャーナリスト・シーモア・ハーシュは、『バイデンの指揮で米国が作戦を実施したと結論する記事』をニュースレター・プラットフォーム ”サブスタック(Substack)” で公表した」と書いた後、「米国当局は、『バイデン氏および彼のトップ補佐官はノルドストリーム・パイプラインを破壊する作戦を正式に許可しなかったし、米国による関与はなかった』と述べている」と結んでいる。
2022年9月26日にノルドストリーム・パイプラインで起こった爆発を示すマップ
Source: (FactsWithoutBias1, CC-By-SA 4.0, Wikimedia Commons)
ニューヨーク・タイムズは、あたかもバイデン・ホワイトハウスの否定に共鳴するが如く、こう切り出した:
”ロシアからヨーロッパへ天然ガスを輸送するノルドストリーム・パイプラインを攻撃したのが誰であったのかについて、新たな情報報告は、これまでにおける最初の重要な手がかりとなっている。(強調表示あり ➛ 訳注:斜字体の部分)”
ニューヨーク・タイムズは、ハーシュの情報源を葬りながら、自分たちの匿名の情報源で報道を進めることに、かなり満足していたようである。
ドイツの報道とニューヨーク・タイムズの報道の両方の問題は (その情報源は明らかにドイツ人記者が報告したものと同一のデータを参照している)、アンドロメダのナレティヴが成り立たないことである。
例えば、かのトム・クランシーが書いたような、「ウクライナに結びつきがあるとされる4人のダイバーが、水深240フィート(破壊されたノルドストリーム・パイプラインの深さ➛ 訳注:約73.2m)の上昇に耐えるために減圧室を使用しなければならないような潜水を行い、生理現象をものともしない勇敢な行為をとった」という話である。減圧には、海水100フィート [訳注:約30.48m] あたり約一日かかり、100フィートごとに一日がプラスされるというのが経験則である。
すなわち、ダイバーのチームは一回の潜水で3日間の減圧を必要としたことになる。しかし、減圧するためには減圧室が必要である。2人のダイバーが潜水するために、アンドロメダには、2人用のクラスA減圧室か、もしくは、1人用のクラスB減圧室が2室、さらに、減圧室を長時間稼働させるために大型酸素ポンペも備えられていなければなかった筈である。
ババリアC50ヨットのキャビン・スペースを簡単に調べれば、どちらの選択肢も実行可能だという考えは、すぐに取り除かれることになるだろう。
簡単に言えば ー 減圧室もなし、潜水もなし、ストーリーもなしである。
高性能爆薬の痕跡
このストーリーには探るべき、もうひとつの側面がある。ドイツの報道によると、ドイツ連邦検察はアンドロメダ号のキャビン内のテーブル上に高性能爆薬の痕跡を検出したという。
スウェーデン検察当局が2022年11月19日に発表したステートメントは、スウェーデンの調査官が「爆発現場で見つかったいくつかの異物に爆発物の痕跡」を発見した、述べている。
ノルドストリーム1と2のパイプラインを所有するスイスの親会社・ノルド ストリームAGが発行した2022年11月22日付の報告書によると、これらの爆発物は、”テクノジェニック”[例、人間の技術によってつくり出されたプロセスもしくは物質に関係する] クレーターを生成した、という。 これらのテクノジェニック・クレーターは3メートルから5メートルの深さがあり、それぞれのクレーターの距離間隔がおよそ248メートルあったとのことだ。
デンマークとスウェーデンの両国は、国連にあてた報告書の中で、ノルドストリーム・パイプラインにもたらされた損傷は、数百キログラムの爆薬の威力に相当する爆発によって引き起こされたと述べた。
注意すべきことは、ノルドストリームで使用されているような水中パイプラインは、サイズが数百キログラムまでに及ぶ爆破装置からの近接爆発に耐えるように設計されている、ということである。事実、バルト海のように複数の世界大戦からの不発弾が散乱しているロケーションでは、漂流する爆破装置 [訳注:機雷や水雷など] がパイプラインを打って爆発する恐れは、きわめて現実的なものである。
コンピューターモデルは、ガスで満たされた厚さ34mmのスチールパイプラインから約5mのところで600キログラムの高性能炸薬を爆発させても、パイプラインの構造的完全性が損なわれないことを示している。
フィンランドのコトカに公共展示されたノルドストリームのパイプ撮影:Vuo氏 CC BY-SA 4.0
爆発した場所におけるノルドストリーム・パイプラインは、33.2mmのコンクリート・コーティングを加えた26.8mmの鋼管(計60mmの厚さ)から成っていた。一本のパイプの重量は11トン以上ある。
要するに、標準的な数百キログラムの高性能爆薬では、ノルドストリーム・パイプラインに起こったような破壊をもたらすには充分ではないであろうということだ。
シーモア・ハーシュは、使用された爆薬が 『成型炸薬 』であったと報告している。
成型炸薬は、爆発のエネルギーが 一方向に集中され、通常、金属板の内張りを付けた爆薬を凹型に成形することで、装甲やコンクリートを貫通させる効果を得ることができる。
あまり専門的にならなくとも、240フィートの水深でコンクリートライニングされた鋼管を貫通する水中用成型炸薬の設計は一般的な知識ではない。炸薬は、爆破装置の設計と機能を検証するために、資格のある爆薬専門家によって準備され、理想的には使用操作する前にテストされなければならないであろう。
これらは、ウクライナの水中サボタージュ行為者の小規模なアドホック・チームによって実施されるような作業ではなく、むしろ、軍用爆薬や試験施設にアクセスが可能な国家ぐるみの関係者によって実施される作業である。
ドイツの報道にストライク2。
ドイツの報道におけるもっとも顕著な欠陥は、アンドロメダの船上で『爆薬の痕跡』を検出したことに関してである。 この情報は、使用された正確な爆薬を特定することができただろう。さらに、ノルドストリーム攻撃の現場でスウェーデン人によって発見された『爆薬の痕跡』と比較対象すれば、アンドロメダと攻撃との間に明確な関連性を提示することもできただろう。
しかし、スウェーデンは国家安全保障上の理由からノルドストリーム攻撃に関する、その調査ファイルを封印した。 これは、スウェーデンがノルドストリーム犯行現場で見つかった爆発物の痕跡がアンドロメダのものと一致するかどうかを確認するために、ドイツと協力することはないということを意味している。
この決定の背後には明白な理由がある:それは、2つの痕跡が一致しないことである。一つは、スウェーデンのサンプルが犯人を指し示していること。 もう一つは、アンドロメダのサンプルが隠蔽工作の証拠となることである。
ストライク3、そしてアウト。
誰がノルドストリーム・パイプラインを攻撃したのかについて、別のナレティヴを捏造しようとするドイツ政府の粗雑な努力は、嗅覚テストで失敗している 。一言で言えば、臭いのだ。ドイツ政府のストーリーには、もっとも才能ある脚本家でさえもが、この歴史改変のアンドロメダ物語をどうにか信用できるようなものに変えることができないような欠陥があるのだ。要するに、ジーン・ロッデンベリーは感心しないであろうということである。
さらに、米国の情報機関がドイツの調査に関する情報をすぐさまニューヨークタイムズにリークしたという事実は、米国がこの隠蔽工作に関与しているという事実上の証拠であるように思われる。
そして、この隠蔽工作の動機は、きわめて明白である:ドイツ人もアメリカ人もハーシュによって作成された報告書を恐れているのである。
ー翻訳終わりー
以上
参考記事
https://www.cnn.co.jp/world/35201311.html
https://mainichi.jp/articles/20230308/k00/00m/030/025000c
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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