公的事業に要する費用の負担の公平化及び財政の健全化に資する方策の提案

 公的事業は、収入が全く得られないか不十分であるため営利法人が行う可能性はないものの社会的には必須であるサービスの提供を目的として、公金を投じて行われる事業であって、その公金は通常国民から調達された租税等を原資とする。
 その租税等の負担を極力公平化する方策の案を下記に示すが、この案は財政健全化に資するものともなる。(この案についてより詳細に述べた論文「公的事業における資金負担の適正化に関する論考」を別途用意している。)
 なお、この案については、東日本大震災後の3月末に震災復興資金調達案として内閣及び国会内各政党に意見提出したが、現在のところ政策に反映される気配はないようである。もっとも、政策実現のためには実現可能性、実効性、各方面への影響等、詳細な検討が必要であろうから目下検討中であるかも知れないし、問題点があって見送られたのかも知れない。
 この時点でここに投稿することとした理由は、案の内容が周知されるほど、問題点を指摘していただける可能性が増えるし、問題がない場合は案が実現する可能性が増えると考えたからである。

                 記

公的事業費用負担公平化方策案

 現在わが国における公的事業は租税と有利子公債とを原資としているが、それぞれに以下に記す問題点がある。
1)租税
 社会資本整備事業のように事業開始当初に施設建設等に巨額を要する事業では、施設建設当時の人々がその全額を負担し、事業による便益を享受する後世の人々は施設等の維持管理費のみ負担することとなるから、異世代間における資金負担の不公平が生ずる。
2)有利子借入金
 後世の人が負担する償還金の額に利払い費が余分に含まれ、その分は資金の債権者の所得となるから、同世代間における資金負担の不公平が生ずる注1)、注2)

 これらの不公平を避けるには、無利子借入金を用いて事業を行うとともに、事業が提供するサービスの受益者に対し極力その便益の評価額相当の金額を負担させるような制度を設ければよい。
 もっとも、この制度を実現すべく無利子公債を発行しても、これが購入される公算は小さい。強制割当をすることなく公債を消化するには次の方策が考えられよう。
 それは、所得税等の納税者が、課税額の一定割合分を上限として任意に選んだ額に、公債の期間別にそれぞれ設定された一定率の割増をした額の無利子公債を購入すれば、選んだ額分の税を免除される、という制度の導入である。例として、上記の一定割合を4割、10年公債の場合での一定率を1.0とし、かつ、納税者が10年公債を選ぶものとして、歳入が最大で何割増すか計算すれば、次のようになる。課税額(歳入額)を25万円とすると、その4割は10万円である。この額以内の任意の額が選べるから最大額の10万円を選び、その10割増に当る20万円の無利子公債を購入するとすれば、選んだ額10万円が免税額となる。そして、歳入は、公債による20万円と課税による15万円との合計の35万円となり、4割増す。
 この案が実現されれば、ある程度資金に余裕がある納税者の場合、納税額を減らせるほか安全な資金保管手段を得られるため、利子は得られずとも公債購入を選ぶ人はかなり存在するものと予想される。そして、その結果歳入額が増えればその増加分を景気回復のための投資や累積債務の償還に充てることができる。また、歳入額を増やす必要がない場合、歳入額を全体として圧縮できるので、当初の想定課税額を減らせることとなり、納税者全員が減税の恩恵を受けられる。もちろん上記両者を適宜組み合わせることもできる。
 すなわち、この案は費用負担の公平性を高めるとともに財政健全化に資することができるものである。公債発行残高が増えることにはなるが無利子公債であり、適切な限度額以内であれば問題はないであろう。

 ただし、この案の実施に際しては、次のことが行われる必要があろう。
1.歳出項目ごとに予算投入効果の発現状況を予測した上で、予算投入による便益の受益者ができるだけ公平に資金を負担することとなるよう、税収額及び公債の期間別発行額を試行錯誤しながら定めていく。
2.不況時における有利子公債の発行を回避するために、歳出に対してある程度余裕ある歳入が得られるようにし、かつ、政府予算の内部留保分が、増減はあるものの確実に保持されていく制度とする。

注1)債権者が国内在住者である場合について述べたものである。それが国外在住者である場合は、債権者が国内にないから国内在住者間での不公平は生じない。しかし、この場合は、費用便益分析による事業の経済的評価の結果に偏りが生じ、地域社会に悪影響を及ぼす(この点に関して詳細に述べた論文「費用便益分析の現行算定法における問題点とその解決案」を別途用意している。)。
注2)資金提供者が利子所得を得るのは当然であり不公平でない、とする見解もあろう。確かに、資金の提供を受けるのが営利事業である場合、事業者にとっては利子を支払わない限り資金調達が困難となるから、事業収入の一部を利子として資金の提供者に分配するのは当然であることになる。しかし、公的事業の場合は、利潤が見込めず事業を興す者がいなくても、地域住民等が自らのため資金を拠出して行うのが本来の姿であるから、その資金は極力節減されるべきである。にもかかわらず、無利子借入金の場合には存在しない利払い費分の資金を、有利子借入金の場合には便益受益者や納税者が余分に負担し、その分は債権者の所得になる。債権者は公的事業を利用して労せずに所得を得るとも言える訳であって、やはり不公平であると考えられる。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study425:111209〕