共産党兵庫県委員会幹部は、SNSを理由にして県知事選の壊滅的大敗の責任を回避することはできない、SNSが支配した兵庫県知事選挙(3)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その44)

               
 兵庫県知事選をめぐる情勢は、選挙前よりもむしろ選挙後の方が加熱してきている。当選した斎藤知事のSNSを駆使した選挙運動が公職選挙法に違反するとして12月2日、斎藤知事と西宮市のPR会社社長に対する刑事告発状が神戸地検と兵庫県警に提出された。PR会社社長は、選挙戦の広報戦略全般を取り仕切っていたと誇らしげにインターネット投稿サイトで発信していたが、これが問題になり始めるや否や当該箇所を次々と削除・修正している。これらの箇所を繋ぎ合わせると、兵庫県知事選におけるPR会社の役割がクッキリと浮かび上がってくるのだから、彼女は二重三重に疑惑を上塗りしていることになる。

 斎藤知事自身や代理人弁護士は、記者会見でPR会社社長の投稿は「事実ではない」と言い張り、この会社に支払った70万円はポスター制作費であって、公職選挙法で認められている範囲の対価であり「違法性はない」と主張している。検察側が立件するかどうかは目下未定だが、立件するしないにかかわらず、斎藤知事の政治的正統性が大きく揺らいでいることには変わりない。

 一方、マスメディアはほとんど関心を示していないが、私はこの知事選で壊滅的大敗を喫した共産党兵庫県委員会幹部の責任の取り方に注目している。2021年前回知事選の共産党候補得票数18万4千票(得票率10.1%)だったのに対して、今回は7万3千票(3.0%)と僅か4割に激減したのである。にもかかわらず、県委員会はその原因をSNSのフェイク宣伝にすり替え、自らの選挙戦略の誤りを認めようとしない。国政選挙では「野党共闘の要」と位置付ける立憲民主党との共闘を県知事選では追求しようとせず、立憲が実質的に支援する稲村候補を斎藤候補や維新候補と同列に位置付け、これに敵対して大敗するという〝致命的な失敗〟を犯したにもかかわらず――、である。

 ミソクソの区別もつかない県委員会の稚拙極まる情勢分析と政治判断の下に行われた兵庫県知事選は、今後このような誤りを防ぐためにも選挙総括が決定的に重要になる。ところが、投開票日から半月が経過した現在においてもキチンとした総括が出てこない。赤旗は、特報記事として「兵庫県知事選で何が起きた SNSと選挙を考える」(12月2日)でフェイク宣伝を批判しただけで、県委員会の誤りについては一言も触れようとしない。

 そしてまたもや全紙2面にわたって大々的に掲載されたのが、アジア政党国際会議総会に参加した「志位議長が語る」(12月3日)の特大記事である。「私たち日本共産党が、アジアの平和の本流の側に立っていることに誇りと確信をもって、東アジアの平和構築のために引き続き知恵と力をつくす決意です」との言葉で結ばれているこの特大記事は、国内の党組織の抱える矛盾を直視せず、党員や支持者の目を海外に逸らせるため――、としか思えない。

 赤旗が兵庫県委員会幹部の責任を追及しない(できない)のはなぜか。国政選挙にしても地方選挙にしてもその都度幹部の責任を追及すれば組織がもたないこともあるが、その根源は2021年衆院選の志位委員長発言にある。志位委員長は投開票翌日の11月1日、党本部で記者会見し、議席と得票数を減らしたにもかかわらず「責任はない」と明確に否定したのである。「総選挙の結果について」(赤旗2021年11月2日)と題する常任幹部会声明も同様の趣旨で展開されており、志位委員長をはじめ幹部役員の政治責任は一切棚上げされている。

 政治は〝結果責任〟が原則なのであるから、意図はどうあれ敗北した場合は幹部が責任をとらないわけにはいかない。だが、志位委員長の発言は「我が党は、政治責任を取らなければならないのは間違った政治方針を取った場合だ。今度の選挙では、党の対応でも(野党)共闘でも政策でも、方針そのものは正確だったと確信を持っている」(毎日新聞2021年11月2日)というものだった。しかし、この主張は選挙結果にあらわれた〝民意〟を軽視するものであり、それよりも上に党の政治方針を置く「革命政党」の体質を遺憾なくあらわしている。

 党の決定はあくまでも正しい。誤りやすい大衆を正しい方向に導くのが党の使命である。選挙結果などには一喜一憂せず、毅然として党の政治方針を貫徹しなければならない――というのであろう。だがこの主張を突き詰めていくと、有権者の生活感覚や政治意識の動向、時代の流れを察知できない無神経さと思い上がりにつながり、国民の心情から遊離した政治方針をいつまでも改めようとしない官僚主義、専制主義に陥ることになる。まして兵庫県委員会の場合は、稲村候補を斎藤候補と同一視するという決定的な「間違った政治方針」を取ったのであって、この論法でさえ通じないことは明白なのである。

 来年の参院選・都議選ではさらに大きな波乱が予想される。SNSを駆使する新党の登場が幾つか予想されるし、想定外の戦術展開も考えられる。変幻極まる情勢の変化に対応するには、その場その時の変化に応じて柔軟に選挙戦を展開できるセンスと能力が必要だが、それが従来通りの党決定学習と党勢拡大で身に付くとは思えない。支部活動のあり方を抜本的に変える「自由な議論」「多様な討論」が必要なのであり、それが党改革の第一歩にならなければならないだろう。

 だが、11月27日に行われた小池書記局長の「都道府県・地区役員、地方議員への訴え」(赤旗11月28日)は、いつも通り「常任幹部会声明」や「全国都道府県委員長会議」の読了と党勢拡大運動の推進を強調するばかりでまったく新味がなかった。そして12月2日の中央委員会書記局報告(赤旗12月3日)では、11月の党勢拡大運動は小池書記局長がいうように「党大会後最小の入党者数」になったのである。志位議長の華々しい海外活動にもかかわらず、共産党はいま「日暮れて途遠し」の状態に陥っている。

 〇1月:入党447人、日刊紙1605人減、日曜版5380人減、電子版94人増
 〇2月:入党421人、日刊紙1486人減、日曜版5029人減、電子版74人増
 〇3月:入党488人、日刊紙947人減、日曜版6388人減、電子版2 8人増
 〇4月:入党504人、日刊紙74人増、日曜版135人減、電子版72人増
 〇5月:入党477人、日刊紙111人減、日曜版564人減、電子版70人増
 ○6月:入党514人、日刊紙537人減、日曜版3498人減、電子版59人増
 〇7月:入党648人、日刊紙350人増、日曜版467人増、電子版67人増、
 〇8月:入党375人、日刊紙119人増、日曜版398人減、電子版58人増、
 〇9月:入党334人、日刊紙455人増、日曜版613人増、電子版11人増、
 〇10月:入党213人、日刊紙2006人減、日曜版3212人減、電子版309人増
 〇11月:入党211人、日刊紙1254人減、日曜版4916人減、電子版159人増

(つづく)

初出:「リベラル21」2024.12.06より許可を得て転載
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