円高恐怖を克服し、これを復興の契機にせよ

著者: 三上治 みかみおさむ : 社会運動家・評論家

7月29日

 日本人は日本列島という島群の中で生きてきたためか、時に内向きになりがちである。ここには鎖国時代が遺伝子のように存在しているためかもしれない。だから時には世界の動きに過剰に反応する。それとは無縁ではない。3月11日の大震災以降は人々の視線や意識は概ね内向きになってきた。「なでしこジャパン」の活躍は内向な気分に風穴をあける清涼剤のようなものだったのだろうが、円高恐怖は逆のことであるといえようか。大震災の打撃から回復しつつある製造業、とりわけ輸出中心産業にとっては悲鳴が聞こえると新聞は報じている。輸出中心の製造業にとって円高が厳しいものであることは理解できるが、それが日本の産業全般の問題であるというのは違うと思えるし、円高の度に恐怖を煽るメディアの見識にも疑問を感じる。

 今回の円高の動きはアメリカのドル安が基本にある。それが中心である。現在の円高は日本独歩ではない。ドルの独歩安で多くの通貨が高値を記録している。今回のドル安はアメリカの債務問題に端を発した財政不安から発生したものである。米国政府の債務上限(政府が借入可能な金額)問題は民主党と共和党での対立が解けずにあり、このままいけば米国債の返済が滞る「債務不履行(デフォルト)に陥る危険があるのだ。これは構造的なものであって、今回解決しても今後も繰り返すものである。この根本にあるのはアメリカが経済力に比して高いドルを維持してきたためである。アメリカの世界経済における力(地位)とドルのバランスが基本的に不均衡であり、ドルはドル高からドル安に推移して行く必然にある。アメリカがその経済力において力を回復することがなければドル安の推移は留まるところがない。問題はドルがアメリカの一国通貨であるとともに基軸通貨であることだ。ドルが現在の依然として基軸通貨として存在していることであり、そこに矛盾がある。例えばドルは貿易などの決済に使われる。ドル建てで決済すれば輸出代金を円に還元して受け取るときにはドル安(円高)の分だけ目減りする。これは円建ての決済にすれば解決がつく問題である。アメリカは簡単に許さない。アメリカはドルの基軸通貨制を維持しようとするからだ。ドルが基軸通貨であることの特権的利益を失いたくないのだ。ドルの基軸通貨制は形骸化し、無基軸通貨制になっているのにアメリカはその保持に注力する。日本が日米関係を見直し、ドル基軸通制から離れ無基軸通貨時代に対応して世界経済関係の改変に政策を転換しなければ円高恐怖はかわらない。円高を生かしそれを復興の契機にするためにはそれが必要だ。

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