選挙ポスターを見るたびに、誠実そうなお顔は随分盛ったもんなんだろうなと思っている。ポスターの写真と同じような大きさでみえる距離で拝顔したら、ポスターとのギャップにここまでかと驚くんじゃないかとも想像している。写真が文字通り「真」実を「写」したものではないのに、写真という漢字のせいでついつい写っているものを事実と思ってしまう。
ウィキペディアでみたら、下記の説明があった。
写真(しゃしん、古くは寫眞)とは、人類史上初めて登場した機械映像である。
穴やレンズを通して、被写体から発される光線を再構成して実像を結ばせ、感光剤に焼きつけたのち、現像処理をして可視化したもの。このとき、感光剤に焼きつけるまでを行う機器は、基本的にカメラと呼ばれる。
英語の “photograph” という語は、イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルが創案した。photo-は「光の」、-graphは「かく(書く、描く)もの」「かかれたもの」という意味で、日本語で「光画」とも訳される。”photograph” から、略して「フォト」と呼ぶこともある。
しばし英語の方が何をいっているのか分かりやすいことがある。身近なところでは、掃除機=Vacuum cleanerや電子レンジ=Microwave ovenがある。海外から技術や文化を導入する際に、漢文の知識から漢字で日本語に訳したのだろうが、最近のようにカタカナにしておいたほうがよかったのかもしれないと思うことがある。
ご存知のように、写真は撮るときから印画紙に焼き付けるまで、全ての段階で人の手が入っている。コンピュータによる処理が普及してからは、補正というレベルを超えて原画からは想像もつかないものに仕上げられるようになった。
女性にもかかわらず、明け透けになんでもいってくる同僚がいた。ある日、いつものように文句を言いに部屋にはいってきた。またかと思いながら顔を挙げたら首から下がったIDカードが目にはいった。よくできた写真だなと思っていたら、それに気がついて一言。「撮る前に手を入れて、足りないところは補正してますから……」どうだ、畏れいったかという口調につい顔とみくらべてしまった。追い打ちをかけるかのように、「手間かけてますからね……」なんともつきあいやすい仕事仲間だった。
あれからざっと二十年、画像や動画の編集アプリケーションも大きく進化して、今やプロでもどこにどういうふうに手がいれられたのか見つけ出すのもむずかしくなってしまった。見せられているのはすべて編集、加工されたもので、(本物をみてがっかりしないように)本物とは別物になっていると思ったほうがいい。
別物というのか作り物が本物にとってかわって本物として扱われている。分かってはいたし、いつかはこうなると思っていたことが起きた。四月一八日付けでBBCが衝撃的なニュースを伝えてきた。日本語なので分かりやすい。
「AI作成画像、有名写真コンテストで最優秀賞を獲得 作者は受賞辞退」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65308190
要点を書き写して置く。サイトに入って、最優秀賞を獲得した作られた写真(?)を見ることをお勧めする。
「最優秀賞に選ばれた『Pseudomnesia: The Electrician』は写真ではなく、AIで作成された画像だ」
「著名な写真コンテストで最優秀賞を獲得した作者が、受賞作品は人工知能(AI)で作成したものだと明かし、受賞を辞退した」
「ドイツのアーティスト、ボリス・エルダグセン氏は、今年のソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワードに『Pseudomnesia: The Electrician』(直訳で「偽の記憶:電気技師」)と題した作品を応募。先週、一般応募のクリエイティブ部門で最優秀作品に選ばれた」
人類史上初めて登場した機械映像の写真が、コンピュータの登場によってComputer Graphics(CG)にまで進化した。CGは今にはじまったことでもないが、著名な写真コンテストで最優秀賞が意味するところは大きい。キャンバスと絵具を駆使した絵画から感光フィルムと印画紙を手段とした写真が生れたように、CGが進化して新たな映像芸術を生み出した。CGのアプリケーションソフトウェアが感光フィルムと印画紙を置き換えた。そして生み出された作品はインターネットで瞬時に世界中の人々に提供される。アプリケーションソフトウェアの進化はまだまだ続くだろうから、いくらもしないうちに、従来の手段では想像もできなかった映像作品が生み出させるだろう。
そしてもう一つ、とんでもない革命的なことがおきる。証拠写真や証拠動画が、それだけでは証拠にはならない時代になる。資金や時間に限界のある巷の人たちと違って、公安や諜報機関には資金もあれば豊富な人材もいる。ということは、公的機関が出してくる証拠写真や証拠動画が編集どころか捏造されたものでないということをどう立証するかが問題になる。捏造ではないと立証できなければ、証拠にはならないだろう。AIを駆使した画像認識が人権侵害だというのは分かるが、それ以上にそこで集めたという画像や動画が証拠にはならない時代になってきた。
こんなことを書いていたら、Al Jazeeraが五月二三日付けで驚くニュースを伝えてきた。
「Fake Pentagon explosion photo goes viral: How to spot an AI image」
表題を機械翻訳すると、「ペンタゴンの爆発写真の偽物が流行:AI画像を見分ける方法」になる。
記事の冒頭を機械翻訳した。
「ペンタゴン付近で大きな爆発があったかのように見える偽の画像が月曜日にソーシャルメディアで共有され、株式市場は一時的に下落した」
「数分後には、認証済みのアカウントを含む多くのソーシャルメディアアカウントが偽の画像を共有し、混乱はさらに拡大した」
「オンラインニュース検証団体BellingcatのNick Watersを含むソーシャルメディア探偵は、この画像について以下のような顕著な問題点をすぐに指摘した:」
「特にペンタゴンのような人通りの多い場所では、この出来事を裏付ける他の直接の目撃者がいなかったということです。ウォーターズ氏は、このような出来事を信じられるようなフェイクを作るのは非常に難しい(事実上不可能だと言える)」
「建物自体がペンタゴンと明らかに違って見えること。これは、Googleストリートビューなどのツールを使って2つの画像を比較すれば、簡単に確認することができます」
「その他にも、異様に浮いているランプの柱や、舗道から突き出ている黒いポールなど、細部に至るまで、この画像が見かけとは違うものであることを示す材料となった。人工知能は、ランダムな人工物を導入することなく場所を再現するのは、まだ難しいのです」
巷の素人にできることは、センセーショナルであればあるほど、慌てないことと鵜呑みにしないこと、さらに複数の情報元からのニュースと較べることぐらいだろう。
2023/5/27
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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