ラザル・リストフスキというセルビアでは有名な俳優がいる。彼の監督第2作「白いライオン達」が2011年4月にベオグラードで公開され、かなり注目を集めた。
「ちきゅう座」4月8日に「チトー大統領=神様」で紹介したチャチャク製紙工場の労働者集会は、この映画におけるチトー大統領の復活の反映なのかも知れない、と思った。勿論チャチャク製紙工場のような無数の絶望例が集積して来たからこそ、チトー復活の映画が作られたのだが。
たまたま You tube で観ることができた。社会主義から資本主義へ移行する格差超拡大社会のなかでまちがいなく没落する勤労者大衆の心情風景を少数のしかし強力な新興成金の横柄さに対照して、コメディー風に描いた作品である。
民有化され、やがて閉鎖された工場の前で主人公の仲間だった数十人の失業労働者達がハンガー・ストライキをしている。主人公の息子の映画監督志望者は成金達の結婚式や葬式の映像をとって糊口をしのいでいる。息子の恋人のオペラ歌手はアリアの門付けをして、恥辱と小銭をもらっている。彼等は、主人公の発意で、成金達の小児連中から宝石など金目のものをだましとろうとして、逆に子供達にしてやられる。
映画の圧巻は、主人公の息子の結婚式が労働者達の抗議祝祭の場に転換する所だ。会衆達は乱舞し、主人公は労働者ラップを熱演する。それが3分余も続く。「労働者達、農民、誠実な知識人、あつまりつどえ、御用学者はノーだ。」「ウラー、革命だ。」「私達は労働者だ。今のあなたがたよりずっとチトーは私達を愛してくれた。革命だ!」
この映画における結婚式がチャチャク製紙工場における病気回復祈願式に、この映画の労働者ラップの「チトーは私達を愛してくれた。」がチャチャク製紙工場の立て看の「独裁者は私達のことを考えてくれた。」に対応する。
言うまでもなく、労働者ラップは夢である。乱舞する労働者達の背後にプラカードを高く掲げる人物がいる。そこには「働く人々の夢をあざわらうな!」とある。映画の冒頭で主人公は言う。「他の人々の夢をあざわらうな! ダライ・ラマの言葉だ。」
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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