北朝鮮-その理由は

著者: 藤澤豊 ふじさわゆたか : ビジネス傭兵
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北朝鮮のミサイル発射と核実験に関係したニュースを聞かない日がない。テレビも新聞も、ミサイルと核兵器の開発が進んで日本の安全が今まで以上に脅かされていると繰り返している。起きていることは、報道されている通りなのだろうが、なぜ北朝鮮がミサイルと核兵器の開発に血道をあげているのかについての納得のいく説明がない。

マスメディアとして日々起きている「新しいこと」を伝えなければならないのはわかる。わかりはするが、起きている現象までにとどまって、現象を起こしている「理由」なり「原因」なりを報道しないのは、なにか特別な理由があるのではないかと気になってしょうがない。このなにか特別な、ないとは到底思えない理由は、伝えられる北朝鮮のミサイルや核開発より大きな、日本全体のありようにかかわっている。

いずれにしても、目に見える現象を問題とするまでで、現象を起こしている理由を見ようとしない報道では、報道の報道たる価値がない。現象に右往左往していては、いつまでたっても問題の本質はわからない。それは問題の解決にいたる道筋を示さないだけでなく、世論をとんでもない方向に導きかねない。

現象としての問題とその原因、発熱がいい例かもしれない。熱があるから解熱剤では、熱がある原因である病気の治療はできない。発熱は現象にすぎない。熱を出している病気が原因で、これを把握しなければ治療にはならない。もっともはなから治療などする気もなく、発熱を理由になにか別のことを目論んでいるのなら話は別だが。

北朝鮮と日本、歴史も違えば培われてきた文化も違うし、おかれた社会や経済状況も違えば価値観も違う、そこから生まれるさまざまな限界や思いも違う。ただ何がどう違ったところで、似たように感じて、似たように考えて結論するだろうという、漠然としてはいても同じ人間として理解し合えない、話し合えもしない違いなどあろうはずがない。

他人は常に自分とは違う。その違う他人を理解しようとすれば、理解したいと思う相手の立場に自分をおいて、自分だったら、何をどう見て、どう考えて、どのような結論をだすのか類推してみるしかない。他人を理解するというのは、鏡のなかの自分を想像するのに、いつもではないにしても似ている。相手が宥和に見えるのは自分が宥和だからで、相手が戦闘的に見えるのは自分が戦闘的だということに他ならない。歪んでいない鏡はないし、曇っていることもある。それでも、できる限りのバイアスを排除して他人をみようとすることで、はじめて話し合いが、そして社会生活が可能になる。

餓死まで出しかねない経済状況のなかで、なぜ北朝鮮政府がミサイルと核兵器開発にまい進するのか、しなければならないのか。

報道からではその理由がみえてこない。合理的な「なぜ」の説明がつかない。北朝鮮政府は世界の多くの人たちと似たように考えることはないのかという素朴な疑問がでてくる。その素朴な疑問から、うちらの合理的と彼らの合理的に違いがあるのでないか、そして、彼らの合理的な思考とはどのようなものなのか、そしてその思考を生み出した環境を想像してみなければ、「なぜ」に対する答えはでてこない。

彼らの状況認識とそれに基づく合理的な考えはおそらく次のようなものだろう。

  • 米国とは朝鮮戦争以来、いまだに交戦状態にある。
  • 米国の圧倒的な軍事力に互角に対抗できる軍事力は持ち得ない。

核兵器を含めようが含めまいが、「軍事力のバランス」ということでは北朝鮮の軍事力が米国の脅威になることはない。

  • もし、戦争になれば、たいした時間もかからずに北朝鮮は廃墟になる。米国との戦争は絶対に避けなければならない。
  • イラクのフセイン政権は大量破壊兵器を保持しているという「難癖」をつけられて、米国に侵略された。通常兵器では米国の侵略を思いとどまらせる力にはならないことをイラクが証明した。
  • 核兵器を搭載した大陸間弾道弾までもって、米国が侵略してきたときには、米国の大都市に核爆弾を打ち込む能力のみが米国の侵略を阻止できる。
  • 日本は、いつでも通常のミサイル(二百基はあるといわれている)で攻撃できる。ミサイルで原発を破壊すればいいだけで、核兵器はいらない。ミサイル防衛などといっているが、日本は防衛のしようがない。
  • 日本は米国の衛星国にすぎず、自らの判断で侵略してくるとは考えられない。
  • 中国は北朝鮮が混乱に陥って、大量の難民が押し寄せるのを恐れている。
  • ロシアは東ヨーロッパと中近東で手一杯で、朝鮮問題に関与する余裕がない。トランプがブッシュのように馬鹿なことをしないようにけん制するまでしかできない。
  • 韓国との経済格差は拡大する一方で埋める手立てがない。核兵器までもって軍事力で存在を誇示しつづけたとしても、もし南北の緊張緩和が進んで、軍事的対峙から経済協力へと進めば、韓国に併合されるのは時間の問題だろう。どのような妥協をしいられたとしても、建国以来の社会体制の瓦解だけはなんとしても避けなければならない。現在の国体を維持するにはどうするか。国家(支配体制)の存亡にかかる問題だが、答えがない。

常識で考えて、米国や日本ができること、しようとしたほうがいいことは、軍事力を誇示することでしか国家体制を維持しえないという考えに縛られている北朝鮮政府に経済支援を提案することだろう。経済発展こそが国体の護持を可能にするという考えがあることを北朝鮮政府に理解してもらう努力が求められるのであって、軍事的挑発に軍事的圧力で対応するのは、問題の解決にならないばかりでなく、社会福祉や教育予算の削減につながり、(日本の)軍需産業以外のすべての人たちを貧しくする。

経済発展が途について、飢えのない穏やかな社会がみえてきたとき、国体をどうるすか。北朝鮮の人々が決めることで、外からとやかくいうことではない。

 

Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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