「南ドイツ新聞ーSüddeutsche Zeitung」に「グリッドから外される原子力ー原子力なしで日本はどうやって生きているのか?」というヘッドラインで大変興味深いオンライン記事がありましたので、是非ご紹介させて頂きたいと思いました。原文へのリンクです:
日本は今、岐路に立たされています。原子力推進者の権力に屈服し、原子力を受け入れて日本破壊への道を進むのか?それとも、「脱原発し、省エネルギー策を受け入れ、再生可能エネルギーを開発しよう!」と日本を復興させるために残された唯一の建設的な道を選ぶのか?
この記事の筆者であるNeidhart 氏とBauchmüller氏は、日本の現在のエネルギー政策に対してポジティヴな見解を示していません。日本政府は「日本復興のために再生可能エネルギーを開発していこう!」なんていうことは考えてもいない、ダイナミズムに欠けるスケールの小さい政府と見なされているようです。
最後に一つだけコメントがあります。: 下記の文は翻訳文ではなく概説です。これはコピーライトに関する事で、ちきゅう座編集長のA氏からもアドバイスを頂き、敢えて翻訳文にはしてありません。筆者は先ず、原文の記事を訳すことから始め、それから出来るだけ記事のエッセンスを失わないように概説を書くように努めておりますが、至らないところもあるかと思いますので、その旨どうぞご了承下さい。
概説:グリッドから外される原子力-原子力なしで日本はどうやって生きているのか?
(南ドイツ新聞ーSüddeutsche Zeitung 記事ー2012年3月27日付)
筆者: Christoph Neidhart & Michael Bauchmüller
日本にとって最も厳しいエネルギー供給テスト
5月5日から日本の全ての原子炉が稼動停止されることになる。先ず、日本には大陸と繋がったグリッドコネクションがない。そして、日本政府は国のエネルギー政策を変革するために、殆ど何の対策も打ち出していない。しかし、日本国民はもう原子力のリスクに冒されたくはないという。
-夏の電力不足の警告があるにも拘らずである。
3月26日月曜日、スキャンダル会社・東京電力は定期検査のため、柏崎刈羽原発の原子炉6号機を停止させた。東電がオペレートする17基の原子炉のうちで、これが一番最後に停止される原子炉で、首都東京に電力を供給していた。そして5月5日には、最後に残った、北海道の泊発発電が送電網から外されることになっている。
その結果、極東の経済大国、日本における原子力からの電力供給は「ゼロ」ということになる。-つい一年前までは、総電力量の30%が原子力から供給されていたという国においてである。 さて、そうなったら、日本ではブラックアウトがあったり、電力を割当てたりするような事になるのだろうか?
いずれにしても今までのところ、日本人は、国内の殆どの原発が停止してる事に気づいてないようだし、今までと変わりなく、日常生活は続けられている。
日本の省エネルギー
日本の多くの私宅の建物には絶縁材が用いられていないため、暑さや寒さから防護されることがない。そして、暖房・冷房には電力が使用されている。町の中心部にある特にデパートなどは、フクシマ事故以前と変わりなく、ぎらぎらとネオンやら照明やらを輝かせている。日本の産業が、もうずっと前から節電することに専念している一方で、商業・通商関係者や官庁・役所、また一般のプライベート消費者たちは、電力をほんの少しだけ浪費しているという具合である。
去年の夏は、政府の節電アピールに応えて、日本国民は国内総電力消費量を10%削減することをやり遂げた。ところが、9月に節電アピールが解消されてからは、国内の電力消費量が7%以上増えている。
ドイツの脱原発
ドイツは現在、最も急進的な脱原発国家として見なされている。フクシマ事故から一週間後、ドイツでは既に8基の原子炉が送電網から外され、その数ヵ月後、これらの原子炉は法令により閉鎖された。残された9基の原子炉は未だ電力を生産しているが、2022年までには徐々に閉鎖されていく予定である。この次、閉鎖されるのはSchweinfurtにあるGrafenrheinfeld原発で、2015年に閉鎖されることになっている。
ドイツの送電システムと日本の送電システムの違い
ドイツの送電システムはヨーロッパの送電網に含まれているので、電力不足の場合は近隣国から電力補給をしてもらえる。
一方、島国である日本は、電力不足の場合は大陸から電力補給をしてもらったり電力過剰の場合は大陸に電力供給したりする送電融通が出来ない。日本はこういった電力交換を可能にするために送電融通システムを確立する必要がある。
問題はそれだけではない。日本の送電網は分離していて、*東日本の商用電源周波数はヨーロッパと同じ50Hz(ヘルツ)で、西日本は60Hz(ヘルツ)という商用電源周波数となっている。-この事は、日本国内において電力交換・融通することが非常に困難であるということを示している。
日本とヨーロッパの電力価格
東電は、これまでずっと保管されていた石油・石炭火力発電所を再稼動させた。石油高価の煽りを受け、また火力発電所の電力生産効率が低いこともあって、これらの発電所を稼動させることは却って高くつくことになる。スウェーデンのエキスパートTomas Kåberger 氏は、「これらの石油・石炭火力発電所が電力生産するのに掛かるコストは、東電にとって、キロワット時あたり40円から50円(ユーロで36セントから45セント)である」と、経費を見積もっている。
これと比較してみると、ドイツのLeipzig電力市場におけるヨーロッパの電力価格は現在、最高額でもキロワット時あたり4セントである。-この価格はドイツが脱原発宣言した以前の価格よりも安くなっている。
日本のエネルギー革命は遥かに遠いところにある。
未だに、日本のエネルギー変革への道は遙かに遠い。東電は以前と同じように代替エネルギー開発のために投資はしていないし、他の原子力産業も同様な状態である。その上、日本政府は国のエネルギー政策を変革するために、殆ど何の対策も打ち出していない。電力市場の自由化も為されていないし、送電業務と発電業務とを別々に分離させることもしていない。
民間の再生可能エネルギー推進者の一人、ソフトバンク社長、孫正義氏は個人資産で太陽熱発電所(メガソラー発電所)を建設したいというプロジェクトがある。しかし、孫氏は大きな壁にぶつかっている。それは、地方自治体が、メガソラー建設するために必要な敷地を提供することに協力的ではないことである。そして、孫氏のプロジェクトを妨害しようとする、政府当局・自治団体からの動きがあるという事である。
日本の環境省は去年、「日本が風力源をはじめとしたグリーン・エネルギー源から900ギガワット近くの電力量を出力できる潜在的可能性を持っている」との算定を出した。これと比較してみると、日本の原子力発電所の総定期出力容量はたったの50ギガワットにすぎない。しかし未だに、このグリーンエネルギーの潜在的可能性は開発されることもなく利用されないままでいる状態である。
夏の電力不足について
政府は、「今年の夏の電力消費ピークタイムには、およそ10%の電力不足が生じるであろう。 とりわけ、大阪、京都、神戸といった大都市のある関西地方や九州の電力不足は深刻な問題となるだろう」と警告している。関西地方、九州の電力供給は原子力に依存することが多く、原子力依存率が東京よりも高い。
予測される今夏の電力不足問題に関して、枝野経済産業大臣は「今年の夏は、国民に『節電せよ』との指令を出すつもりはない」と述べている。去年は、東電が電力不足問題を誇張したという噂があるのだが、その理由は、東電が原発の必要性を民衆に納得させたかった為という事らしい。
日本の原発停止について
いずれにしても日本では、54基の原子炉全てが同時に稼動したということはない。柏崎刈羽原発は過去に2回、長期間稼動停止したことがある。一度は、2007年に起こった新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発は辛うじて大災害を免れたものの、変圧器火災発生して原発所は全面停止し、その後21ヶ月の間、稼動休止されていた。また、2002年、東電は過去に保守点検データを偽造していた事が発覚したため、政府に7基の原発を停止するように命じられた。
しかし、産業界は原子力停止を認めたくない。電力会社の代弁者ともいえる経団連は、「原子力停止は深刻な問題」と警告する。原子力がないとなると、産業は益々、生産ラインを海外に移すことになる。もっとも最近は、400の中小企業が急速な原発再稼動に対しての反対をはっきりと表明している。
-「停止中の原子炉を再稼動するには地方自治体の承諾が必要」と法で制定されている。-
福井県にある大飯原発の第一号と第二号は、ごく最近、保守点検を受け検査されたばかりである。だが、福井県の西川一誠知事は、大飯原発再稼動決定の前に、日本政府に確かめたておきたい事がある。:知事は、「日本政府が、フクシマ事故からどのような教訓を得たのか」ということを知りたいと謂う。
その他にも近隣府県である京都府、滋賀県も大飯原発再稼動決定についての話し合いに加わりたい意向を示している。結局、滋賀県にも京都府にも、リスク・ゾーンとして定められている、大飯原発から30キロ圏内の区域に含まれてしまうような地域があるからである。
そして、このようなリスクはもう断固として受け入れたくないというのが、多くの民衆の声である。
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*1) 日本の商用電源周波数についてWikipediaへのリンク-
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%95%86%E7%94%A8%E9%9B%BB%E6%BA%90%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0
*2) 日本の送電システムに関して、興味深いBloombergの記事がありました。- 「ソフトバンク社長:日本縦断する直流の高圧送電網を-電力融通で提言」へのリンク-