2月6日、最近、話題になっている国会パブリックビューイングを見に行った。国会パブリックビューイングは国会での質疑応答のビデオを公衆の場で人々と一緒に大きなモニターで見ながら、ところどころにそのイシューに詳しい人が解説をはさむ、という形で行われている。最近始まったこの運動についてインターネットでは知ってはいたが、やはり一度現場で見ようと思ったのだ。
新宿駅西口地下、午後6時20分。訪ねてみると小田急線と京王線につながる地下通路の合流するあたりにスクリーンが設置され、小型のカメラやスピーカーなど、セッティングはほぼ終わっていた。司会は法政大学の上西充子教授と全国労働組合総連合の伊藤圭一氏(雇用・労働法制局長)だ。予定通り6時半にまず、上西教授がマイクを手に今回のテーマについて語り始めた。今、国会で審議中の、厚労省の統計「毎月勤労統計」の算出基準が安倍政権に入って急に大きく変えられた問題だ。統計が政治目的でかさあげされた可能性はないかと、野党・小川淳也衆院議員が自民党と公明党の内閣に質問を繰り出す。今回のパブリックビューイングはこの小川議員の質疑応答だけにフォーカスして行われたのだが、確かに小川議員の質問は調査に基づいた鋭い追及だった。周囲には50~60人の人だかりができていた。小川議員の言葉に周囲からため息や歓声が何度も上がった。拍手も起きた。安倍首相が「私たちが統計をいじってアベノミクスを良くしようとしている。そんなことできるはずがないじゃないですか」と語ったシーンでは大きな笑いが起きた。
上西教授はVTRのところどころで区切りを入れ、フリップ画面で解説してくださる。その映像と解説がいいテンポだ。しかもTVのニュースよりも説明がゆき届く。伊藤氏も全労連に勤務して官僚と長年、接してきた経験から興味深い話をしてくださった。1時間の報道番組であれば国会ニュースはせいぜい長くても10分以内だろうが、国会パブリックビューイングは80分近い時間を当てられるのだ。この違いは大きい。今のニュース番組の構成では庶民は国会で問われている問題を十分理解できるだけの時間配分がないのだと思う。
僕が今回、話を聞いて得した気がしたのは、今更ながらではあるが、厚労省の統計の問題がいったいどんな経緯で浮上してきたのか、その立ち上がりが多少なりともわかったことだった。それが上西教授の以下のフリップである。
<無理をした結果、長年、陰に隠れていた不正が明るみに出た>
・不正な抽出調査を続けたまま、それまで行っていなかった「復元」を断りなく開始(伸び率が過大に)
・全数入れ替えを「ローテーション・サンプリング」に変更
(今回は半数)
・入れ替え時の遡及改定をやめた
・常用雇用者の定義から日雇いを除外
安倍政権下で毎月勤労統計の方法を改め、そこで「無理をした結果、長年、陰に隠れていた不正が明るみに出た」ことが出発点だった。その結果、雇用保険や労災保険の追加支給の必要が出てきたと言うことのようである。フリップは他にも何枚もあり、小川議員の質問を理解するうえで、それぞれとても有益だった。
国会パブリックビューイングを始めた上西教授は、「国会の審議を一緒に見ることが大切だ」という。その理由は国民が見ているぞ、ということを議員たちにわからせることにある、と。国民が政治家の動きをウォッチすることで政府は印象操作をすることができなくなるし、やったとしても見破られてしまう。もし印象操作というものがあるとしたらその一端を担っている者が今日のTVであるように思う。TVがある意味で政治家を作り出し、選挙を演出しているように思える。その意味では国会パブリックビューイングは今日のTVのあり方への批判でもあると思えるのだ。
国会パブリックビューイング。新宿駅西口地下にて。画面の中は質問に立った小川淳也衆院議員(立憲民主党・無所属フォーラム)。
女性が多数立ち止まって政治の話に真剣に耳を傾けていたことは政治の変化の兆しではないか。
司会は法政大学の上西充子教授(右)と全国労働組合総連合の伊藤圭一氏(雇用・労働法制局長)
「統計の政治化」
小川淳也議員の言葉「彼らのモラルは、今、どうなってしまったんだ」小川氏はかつては総務省の官僚だった。
使われているのは小さなカメラ。こうした機材を自前でそろえての手弁当の運動だ。
*「日刊ベリタ」からの転載
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201902062355103
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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