奇々怪々

 福島第一原発事故が起きて以後、政府の原発事故対策は、「止める、冷やす、閉じ込める」ではなく、「隠す、騙す、はぐらかす」である、ということはすぐにわかった。だから、政府が情報を隠蔽し、操作し、ごまかそうとしていることは明明白白であって、今さら驚くことではないが、それにしても、このところの情報の混乱はひどすぎる。

 東京新聞は4月19日の特報面で、文科省所管の緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク(SPEEDI)と、経産省原子力安全・保安院所管(運用は原子力安全基盤機構が受託)の緊急時対策支援システム(ERSS)がこれまでに収集した放射性物質の拡散予測情報を政府は握っているにも拘わらず、国民に対してほとんど公表しておらず、予測情報の原則公開を定めた国の防災対策マニュアルに違反している、という記事を報じていた。SPEEDIについては、1時間ごとに、数時間から数十時間後までの拡散予測を官邸や原子力安全委員会に上げており、これまで約2000枚の予測図を作成しているにも拘わらず、SPEEDIの運用を文科省から委託された原子力安全委は3月23日と4月10日の2回、住民の被曝線量を公表しただけで、これもSPEEDI本来の将来予測ではない。ところがこうした情報隠蔽の理由について、班目春樹原子力安全委員長は、「社会を混乱させるのではないかとためらった」と述べたと伝えていた。

 ところが、5月2日の夕刊で、東京新聞は突如として、ERSSは福島第一原発事故発生直後から電源喪失のため使えなくなっていたことが2日わかったとし、SPEEDIも機能しなかったことが判明している、という記事を報じた。4月19日に記事では、「ERSSは正常に動いている」と強調している原子力安全基盤機構広報室の話を伝えていたのに、これは一体どういうことなのか?

 すると今日(5月3日)の東京新聞朝刊は、政府と東電の事故隠蔽対策統合本部はSPEEDIで公表していない試算結果が約5000件あるが、統合本部は「パニックを懸念した」などと説明したと報じている。やはりSPEEDI(2010年までの予算投入額は約120億円)情報は隠蔽カンテイ団が隠匿していたのだ。では、ERSS(同約155億円)は機能していたのかいなかったのか? 4月19日の報道と5月2日の報道の取材源のどちらかが嘘をついている(それとも両方?)ことは明白なので、新聞記者にはこのあたりをしっかり追究してもらいたい。