安保の悪夢と九条の悪夢

著者: 岩田昌征 いわた・まさゆき : 千葉大学名誉教授
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昨夜、近未来の悪夢を二つ見た。

一つは、日本国防軍が友軍の米軍と共に南米でブラジル(?)軍とその同盟国軍とに対して戦闘している夢である。世界第6位の経済大国・地域大国に成長したブラジル(BRICsの中で唯一原爆を持たない:岩田)が従来の非核武装路線を否定する動きを活発化させはじめると、超大国アメリカは、北朝鮮やイランの場合以上に強硬に反応して、とうとう両国の軍事衝突に至った。サッチャー時代のマルビナス=フォークランド紛争、アルゼンチン・イギリス戦争の大規模再現である。

憲法第九条の無効化を達成していた日本と日本国防軍は、再編強化された安保体制の下に南米へ出兵せざるを得なかったわけである。ベトナム戦争における韓国軍のようなものである。

アメリカが超大国として全世界の秩序形成に没入できた最大の根拠は、足下の新大陸にアメリカの行動を邪魔しうるような諸列強が存在しなかった事に在る。安心して、グローバルに行動できた。考えてみれば、これは、ナポレオンのフランスもヒトラーのドイツもスターリンのソ連も持っていなかった好条件であった。しかしながら、今や、その好条件が消失して、アメリカは、新大陸の諸列強と全力で事を構えざるを得なくなった。唯一頼りになる極東の大国日本を友軍として戦っているのである。

このような事態が数年続いてみると、東アジアやヨーロッパにおけるアメリカの存在はほぼ消えてしまって、ヨーロッパの政軍秩序は独仏露の手中に、東アジアのそれは中国と新興核武装経済大国「韓鮮共和国」とによって保証されるようになっていた。

二つは、日本の市民護憲連合が選挙で圧勝して、念願通り、日米安保体制を放棄し、かつ憲法第九条の実効化に舵を切った夢である。文字通り、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」のである。

近隣諸国民は、「公正と信義」の心をもって、その決意と実践を受け止め、尊敬さえした部分と、これは日本の第二の無条件降伏であって、その安全と生存を丸事自分達にゆだねたと理解した部分とに分裂した。次第次第に後者の力が近隣諸国民の中に強まって行った。そして、次のような密約さえ成立しようとしていた。すなわち、東日本の「安全と生存」の保障は露国、西日本のそれは中国、九州のそれは「韓鮮共和国」。そして沖縄県は、三国のバックアップで独立。まるで19世紀のポーランド分割を思わせるような情報に直面して、21世紀の市民護憲連合は空中分解する。

「安保頼みも、九条頼みも駄目だ。文武大国日本の新生だ。」と寝言で叫びながら、目が覚めた。

ところで、来年の今頃に見たい夢がある。文武強国日本の最高指導者グループの誰一人靖国神社を参拝しない。隣国の政治家やマスコミに言われたからではない。東京駅から靖国神社・千鳥ヶ淵墓苑まで静々粛々と歩む国民大衆の長蛇が「この日、自分達の祖父達の英霊を追悼するとともに、祖父達が異国の地で不幸死させてしまった方々の霊に頭を下げ、日本人として恒久不戦を誓う。」と無言のメッセージを発しているからであり、政治家は政治家として、「文武強国の指導者たる者は、自国民の心を心とするだけでなく、近隣諸国民の心を理解せねばならない。」と言う政治哲学を有しているからである。

ところで、次は夢ではない。今年の8月15日、私は、日本独立国士木村三浩氏に以下の歌を贈った。

あな哀し 葉月三五の昼下がり やしろとよもす 争街宣車

大和 左彦

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion1424:130823〕