完全護憲の会より 違憲性への警告010号- 党利党略の衆院解散は憲法違反!

安倍首相が、夏の参院選に合わせて衆議院を解散し、衆参同日選挙とするのではないかとの観測がこのところしきりと取り沙汰されている。3月2日付朝日新聞によると、首相周辺は「いまが憲法改正に踏み出す千載一遇のチャンス」と見て、参院選の獲得議席を少しでも底上げするため、政権与党に有利な衆参同日選が検討されている模様である。そして、そのために検討されているのが、消費税増税の再先送り案である。

朝日新聞によると、首相はこれまで、消費税率の10%への引き上げは、「リーマン・ショックや東日本大震災のような重大な事態が発生しない限り、確実に実施する」と繰り返していたが、最近、「重大な事態」を「世界経済の大幅な収縮」などと言い換えるようになっている。そして、首相が1日、新たな立ち上げを表明した世界経済を分析する有識者会合は、最近の世界経済の変調を「大幅な収縮」と認定して、消費税の引き上げを再び先送りするための大義名分を整えるためのお膳立てではないかとの見立てなのである。そして、「予定通り消費増税をしたら景気が悪化して、衆院の解散はなかなか難しくなる。先手を打って早めに総選挙をやるのも一つの選択肢だ」という閣僚の言葉を紹介している。

確かに安倍首相のやりそうなことである。首相は2014年11月18日、前回の衆院選から2年も経っていないにも関わらず、消費税増税の1年半延期と同時に衆院解散を表明した。これは、沖縄知事選で普天間基地の辺野古移転に反対する翁長雄志候補が当選した2日後、同年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が発表され、2期連続でマイナス成長となり、アベノミクスの行き詰まりが明白になった翌日のことであった。そしてそれから1年3カ月経った今日、アベノミクスの失敗はさらに明白となっているが、低所得高齢者への3万円バラマキや口先だけの「同一労働同一賃金」や辺野古工事中断などで目眩ましをし、さらに「消費税増税再先送り」を口実にした同日選突入の可能性は高いと見ておかねばなるまい。

 

しかし、このような全くの党利党略に基づく衆議院解散は憲法違反である。

憲法は第7条で、天皇の国事行為の一つとして「衆議院を解散すること」を挙げ、第3条で、天皇の国事に関するすべての行為は「内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ」と定めている。しかし、内閣が衆議院を解散できる場合を具体的に定めているのは69条だけであり、同条は、内閣が衆議院で不信任決議案を可決、または信任決議案を否決したときは、衆議院を解散するか総辞職するかを選ばなければならないと規定している。したがって、当会では、内閣が衆議院を解散できるのは69条所定の場合だけであり、同条に基づかない解散はすべて違憲であると考える(解散権の69条限定説)。

ただし、実務や判例や最近の憲法学界の通説は、69条限定説を採っておらず、7条の「衆議院を解散する」天皇の国事行為に対する「内閣の助言と承認」に実質的な解散権を読み込むことにより、69条によらない解散も合憲と解している(69条非限定説=7条解散合憲説)。ただし、その場合でも、有力な憲法学説は、内閣がいかなる解散も自由になしうるとは解釈していない。むしろ、「解散は国民に対して内閣が信を問う制度であるから、それにふさわしい理由が存在しなければなら」ず、「内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は、不当である」(芦部信喜『憲法』)とか、(国民の意思を問うような)「必然性が全然ないのに政権党の党利党略で解散するなどのことは許されない、とすべきである」(浦部法穂『憲法学!

教室』)などと説かれている。

したがって、参院選での獲得議席増を目論む安倍首相が、同日選のために衆院解散を行うならば、69条限定説からはもちろん、69条非限定説に立ったとしても、権限濫用により憲法違反と言わざるを得ない。

 

「完全護憲の会」公式ホームページより転載

http://kanzengoken.com/