前回、定期検査(定検)中の『核燃料の再配置問題』を指摘しました。
しかし、これとは別に、定期検査(定検)中のもうひとつの、更に重大な危険があります。
『インターロック(安全装置)解除問題』です。
この「インターロック(安全装置)」とは、一般的には、安全装置・安全機構の考え方の一つのこと。ある一定の条件が整わないと、他の動作も稼働しなくなるような仕組み(システム)になっていることを意味します。
例えば、燃料や水位が一定レベル以下の低いレベル(ある一定量以下)の時はボイラーは燃焼を始めないとか、バスなどの乗降ドアがまだ閉っていない時には運転手はアクセルペダルを踏み込めないなどがその例。
原発の場合も、勿論、「多重防御システム」は「設計段階では」いくつも組み込まれています。しかし、定期検査(定検)などの実際の作業現場では、この「インターロック(安全装置)」が、原子炉設置許可違反を承知で、定期検査(定検)現場では「意図的に解除され」て「運用」されてきているのです!
定期検査(定検)では、炉心内部にカメラを(丁度「胃カメラ」のように)挿入して炉内構造物を点検しなくれはなりません。また(核分裂連鎖反応が始まっている)稼働中の炉心内の燃焼状態の確認には炉心内の中性子線量の検出が不可欠なのですが、その中性子線検出器の定期的交換も必須不可欠の作業です。超高濃度の放射線に長期間被曝され続ける検出器の寿命は大変短いからです。
一方、前回も指摘したように、数十億単位のカネの問題が、すなわち原発効率の問題が、常につきまといます。その関係から原発会社は、検出器交換は最短日時で済ませたい。しかし、検査や点検・交換など、各種作業の効率アップを図るためには、炉心内を大量に占拠している制御棒が邪魔になるという訳です。
そこで、核燃料棒を炉心から引き出さず、「燃料棒を炉心内に残したまま」の状態で、定期検査(定検)作業の邪魔になる制御棒だけを炉心から引き抜くことが必要になります。そための制御棒引き抜きを稼働させる装置と連動している「インターロック(安全装置)」も意識的に解除しているのです!
東京電力側も、この原子炉設置許可違反に反して、定期検査(定検)現場での「インターロック(安全装置)」の「意図的解除」の事実を認めています。
しかも、その説明(開き直りの言い訳)が傑作です!傑作というより「子どもダマシ」の「おふざけ」以外の何ものでもありません!
以下が東京電力原子力管理部マネージャーの渡辺沖氏の、その「子どもダマシ」の「言い訳」です。
「インターロックを設置しなさいと(設置基準で)いわれているのは、きちんと未臨界を確保しなさいということだと思います。同等の管理をすることで安全上の担保をしたのだから、十分に安全な状態なのだから、インターロックの解除(除外)は問題ない。したがって設置許可違反ではない」と開き直っている。
要は、設置許可と同じような状況の安全策を施したからOKだ!という考えなのですね!
ご多分に漏れず、国(原子力安全・保安院)も、また、ここでも東京電力のこの「たわけた」考えを支持してきています!
原子力安全・保安院の原子力発電検査課班長の今里和之氏も、以下の3点を挙げることで、インターロック(安全装置)を、「造る」と「運用」とに巧妙に使い分ける「詭弁」を駆使して、東京電力の上記の主張を援護射撃し、開き直り、国民を欺いている。
(1)、インターロック(安全装置)が設置許可通り造られていれば保安院としてはOK。
(2)運用は保安規定に定める。
(3)東京電力がインターロックに関する条項を保安規定に盛り込んだのは2000年以降からだが、それ以前にも、保安規定には「必要な制御棒が炉内に挿入されていることを確認すること」との文言がある
(4)以上(1)~(3)をもって保安院はインターロックの解除はOKと判断する・・・
と述べている。
(1)は当たり前の事!設計製造段階で設置許可を満たしていないものなど論外であるから・・!
(2)設置許可基準とは切り離して、別に「運用」という形で、現場でどう運転稼働操作するかの権限は、更に別の「保安規定」で定めるという、いわば二重帳簿(裏帳簿)方式で、ホンネとタテマエ論を使い分けることで、ここでも国民を欺いている!
設計製造段階と現場の運用段階とでは天と地ほどもの「違い」があることは、元原子炉設計現場主任で一級配管士資格者の故平井憲夫氏の数々の重要な証言からも明らか!
(3)に至っては、噴飯ものである!「必要な制御棒が炉内に挿入されていることが必要だ」などは、子どもにも解る当たり前の話しだ!そもそも、必要な制御棒が炉内に挿入されていないような状態の原子炉炉心に、一体誰が近づけるというのか!!確かに停止状態であっても制御棒が完全に引き抜かれた状態で核燃料棒集合体だけが「丸裸状態」に置かれていることは動かせない事実であるにも拘わらず・・!
核燃料棒が炉心内から全て撤去され、炉心内には核燃料が完全にカラッポ状態であるのであるなら(3)の理屈も成立するであろうが、炉心内では、以下で述べるように、核燃料棒を全部引き出したくても、引き出せない事情が絡んでいるのだ。
炉心内部では上部から見ると、制御棒は、その断面が「十字形」をした細長い棒状の構造で、それが「田の字」型に並んでいる4個の「燃料集合体」で取り囲まれる形で装着されている。そして問題の制御棒は燃料集合体の中央部に挿入される構造になっている。その為、燃料を取り外してしまうと制御棒自体も倒れてしまう構造になっています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E9%9B%86%E5%90%88%E4%BD%93
こうした「制御棒の倒れ」を防ぐ方法として、本来の核燃料棒の代わりに、同じサイズの「模擬燃料棒」と「置き換える」方法があります。
しかし、それを満たすだけの模擬燃料棒を定期検査(定検)に備えて、常時炉心内に保管しておくとなると、その置き場所に困ることになる。たとえ模擬燃料棒であっても、高濃度放射線被曝環境に数日間置かれるのであるから、原子炉建屋以外の野外倉庫などに、軽々しく保管など出来ない、超高濃度放射線汚染物質というシロモノである!保管場所は、当然、」炉心内にならざるを得ない。
そんなこんなを合わせると、電力会社にとって、最も効率的かつ経済的な方法は、定期検査(定検)時には、この「田の字形」の「核燃料集合体」をそのままにしたままで、その中央部に挿入されている全部の制御棒を引き抜くしかないことになる。
以上が、定期検査(定検)中の『インターロック(安全装置)解除の危険』な問題点である。
以上が、停止状態であっても制御棒が完全に引き抜かれた状態で、核燃料棒集合体だけが「丸裸状態」に置かれているという危険な状態・・これが定期検査(定検)期間中に起こっているのです。
以上は
『朝日新聞』2012[H24]年2月14日(火)「プロメテウスの罠 原始村に住む7 違反ではありません」(依光隆明記者署名入り記事)
その他を参考にしました。
**転送/転載/拡散歓迎**