小山帥人 著『我が家に来た脱走兵~1968年のある日から~』(2020 東方出版) を読んで

半世紀も前のベトナム戦争脱走兵との出会い、そして今を描いた小山帥人氏の著書を手にし、一気に読んだ。きっかけは今月自主上映会を計画した高賛侑監督ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ」チラシの撮影にあった小山氏の名。元NHKカメラマンであり、ベトナム戦争時アメリカ軍脱走兵をかくまった人だったと地域の仲間から教えられたからだ。

小山氏がかくまった当時19歳だったアメリカ軍脱走兵キャル。半世紀近く経ち68歳を迎えた彼に再会した小山氏が問う。

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「戦争については、どう思う?」

「戦争には反対だ。・・・戦争は組織された殺人だ。わたしたち産業は武器を作って生産するように動いている。すべての産業が人生をよくするためでもなく、環境をよくするためでもなく、また飢えた人に食べ物を与えるためでもなく、戦争のために集中している。産業が生産したのは『死』のみだ。相手に爆弾を落として、敵を殺すことでは平和には決してたどりつけないのに。

人間がこの世に戦争をもたらしてこのかた、平和が訪れたことはない。銃は平和をもたらさないし、銃で平和を得ることもできない。戦争の結果はいつも同じだ。女性や子供が犠牲になる。ヒロシマのように」

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2015年6月、キャルと再会を果たした小山氏。小山氏の撮った当時の映像も含めたドキュメンタリーは、その年「映像15・我が家にやってきた脱走兵」として報道された(2015年度文化庁芸術祭ドキュメンタリー部門最優秀賞)。そしてその後の2020年、小山氏はキャルの物語を出版した。「脱走兵をめぐる問題が、過去の逸話というのでなく、今の時点で、現実の課題として、浮かび上がる状況が生まれて来たことを考えてのことだった」と、あとがきで述べている。

ベトナム戦争当時、韓国などアジア諸国と同じように日本もアメリカからベトナムに派兵することを求められた。しかしその時の首相・田中角栄は、憲法9条を根拠に参戦拒否の方針をはっきり示した。憲法を遵守することは自民党政権化であっても続いていた。

小山氏が述べる“浮かび上がる状況”とは、「2015年に安倍政権が集団自衛権を合憲とみなし、戦争法案(安全保障関連法案)を強行採決した」ことだ。

そして今、小山氏著書出版の2020年から3年経った今、岸田政権は、主権者国民の話に耳を傾けるどころか国会を無視して安保3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を閣議決定、「反撃能力」を明記、アメリカの戦争への参戦を可能にした。日本を危険な状況に押しやった。アメリカはじめ西側諸国が支援するウクライナとロシアの戦争、北朝鮮のミサイル発射、中国脅威論が毎日のように報道される中、国民の不安に乗じて強引にことを進め、大軍拡を行っている。

戦後78年間、憲法を生かし武力によらない解決を求めて、近隣諸国や世界各国と戦争をしてこなかった日本に生まれた、新たな変化。

「戦争については、どう思う?」

冒頭の、キャルの言葉を今一度噛みしめ考えたい。

日本国憲法はまだ生きている。

人間の営み、いのち、平和をなくさず、築いていきたい。

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☆お知らせ☆

高賛侑監督ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ」自主上映会

日 時:2023年5月14日(日)13:30~

ところ:岐阜県図書館 多目的ホール

参加費:協力券 一般 1000円 中高生 500円

主 催:ポラムの会

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion12995:230505〕