小数与党の政権を望む ー一つの正論が九十九の俗論を抑える政治を

 総選挙はご承知のような結果となった。政権を担ってきた自民、公明の両党が議席を大きくへらして、両党合わせても当選者は衆議院議員定数の過半数、233人に18人足りない215人にとどまり、どのような連立政権になるかが注目を集めている。
 確かにこのような場合、野党の一部の協力を得て、連立政党の数を増やして、その当選者を与党に取り込むことが真っ先に浮かび上がる解決策である。第二次大戦後のわが国でもいくつもの連立政権が登場した。戦後すぐの時期を除いて、1993年に自・社両党対決を主調とする「55年体制」が崩れた後、細川護熙首相の「非自民8党派連立政権」に始まって、村山富市首相の「自社さ連立政権」、小渕恵三首相の「自自公連立政権」と、今の「自公政権」以外にも多くの連立政権が生まれた。

 とはいえ、そうした連立政権が概して短命に終わったことも確かで、連立の難しさを感じさせる。そこで今度はどうか。まだはっきりした形にはならないが、やはり自民党は公明党以外の政党とも組んで、連立政権を目指すであろうと考えられる。今のところ石破首相は態度を明らかにしていないし、連立政権となると、真っ先に自民党から声がかかると予想される国民民主党の玉木代表も「連立は考えていない」と公言している。しかし、これらはいずれもとりあえずのポーズであろうから、ほどなく連立話が政界の焦点になるはずだ。
 そこで私の考えを聞いていただきたい。私は石破内閣にはあえて少数与党でこれからの政局に臨んで欲しいと思っている。なぜそう思うか。

 国会というところは国民の代表が集まって、国の進む方向をきめるところである。一方、国会議員から選ばれた政権担当者もまた自らが正しい、あるいは適切だと思う方向に国を運営したいと考える。両者の考えが一致するとは限らないし、国会議員の考えはそれこそ多種多様であるだろうし、それが望ましい。そこで政権担当者としては採決での多数の賛成をあらかじめ確保しておこうとする。もし選挙の結果、与党が多数を取れなければ、野党の一部を取り込もうとする。成功すれば「安定多数」をバックに議会での議論に安心して臨むことが出来る。
 野党の質問にうまく答えられなくても、かりに間違ったことを言ってしまっても、最後の採決に与党の出席者を必要なだけ用意できれば、すべてはこともなく進んでいく。本来、同一政党の人間でも政府、議会に分かれていれば、それぞれの立場で議論を戦わせるべきなのだが、実際の議会では与党の議員は政府の予定通りに法案を成立させることが、議会活動そのものとなっている。議論は二の次、三の次である。

 三権分立という以上、行政權と立法權は別物でなければならないはずである。ところが実際には行政權と立法權を握る人間たちは一体の場合が多い。むしろ一体と言われるくらいの状態が「うまくいっている」ことになり、両者が対立すれば「不都合な事態」と見られる。
 強権国家と言われる国々が世界にはいくつもあるが、その場合の強権とは、行政権のトップの権力を指すことが多い。大統領が議会などあってもなきがごとく眼中におかずに「特別軍事行動」を発動したり、敵対者の集合地にミサイルを雨あられと撃ちこんだり、といったたぐいである。近代以前の王権と同じような強い権力を、議会があるにもかかわらず、行政権のトップが握っている国があちこちにある。

 ということは、議会のあるなしが問題なのではなく、かりに議会があっても、大統領や首相といった行政權のトップが議会をないがしろにすることが、まさに現代の政治制度の問題であると私は考えている。
 行政権力の肥大化、横暴化が現代の問題の根源の一つである。とすれば、議会の多数派から行政トップを選び、立法と行政の間に矛盾・対立がないのが良い状態と見るのはとんだ錯覚ではないか。
 議会の議員は党派にかかわらず政府の決定を、それぞれが当否を判断するのが、三権分立というもののはずだ。政権のすることにあらかじめ賛成することが決まっているような議会は本来の役目を放棄していることにならないか。
 今回の選挙で自公両党が過半数の当選者を出せなかったことは、それこそ国民の意思であるはずだ。それをポストのやりとりなどで多数派を囲い込むのは民意に反する。政府の提案が議会で否決されたら、行政が非能率、不適切を強いられるなどと言うのは本末転倒である。

 99人の俗論を1人の正論が排することができるのが民主主義であり、1人の愚論・極論に99人が従うのは議会主義の恥じである。次の国会は石破内閣と衆議院が真剣に対峙してほしい。石破首相は多数派工作などはやめて、貴方らしく建前一本やりで進んでほしい。(241029)

初出:「リベラル21」2024.10.30より許可を得て転載
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