岩波書店の雑誌『世界』3月号が「脱成長」を特集

2011年3月11日の東北関東大震災で亡くなられた方々に、心より哀悼申し上げます。また被災によってご家族やご親戚、あるいはご友人を失われ、いまも避難所などで不自由な生活を余儀なくされている方々に、心よりお見舞い申し上げます。
福島第一原発の事故はなお進行中です。地震・津波の被害に加えて、原子力災害の不安の中で暮らしておられる地域の方々に、心よりのお見舞いと激励を申し上げます。

「世界」編集部

定価 840 円 (本体800 円) (送料 108円)
2014年3月号 2月8日発売
https://www.iwanami.co.jp/sekai/

特集 「脱成長」への構想

【対  談】
拡大成長の呪縛をどう断ち切るか──地球資源、人的資源の決定的限界に向き合う
田中洋子 (筑波大学)【執筆者からのメッセージ】
広井良典 (千葉大学)

近代化の中、私たちは成長を求めて進んできたが、既に20世紀後半に「成長の限界」が指摘され、金融工学で乗りきったものの結局行き詰まりを迎えている。地球資源はこの200年でほぼ採掘され、採取しにくかったり効率の悪いものしか残らず、大航海時代以降、地球規模で植民地化や経済支配などによる「格差の利用」で成し遂げてきた「成長」に、もはや客観的な伸びしろは、残されていない。現政権は成長依存の経済を掲げているが、はたして現実的な可能性があるのか。成長の「いま」を様々な観点から論じ合う。
たなか・ようこ 筑波大学大学院教授。1958年生まれ。東京大学大学院修了後、東京大学助手、筑波大学助教授を経て現職。専門は労働と企業の世界経済史・社会経済論。著書に『ドイツ企業社会の形成と変容──クルップ社における労働・生活・統治』(ミネルヴァ書房) など。

【執筆者からのメッセージ】

目の前の数値としての「成長」を追い求める。その結果としての「成果」は、社会経済の持続可能性を損なう危険性をはらんでいます。働く人々を消耗させ、社会の担い手を長期的に損なう可能性があるからです。
冷凍食品の農薬混入事件を起こしたアクリフーズでも、こうした「成果」のためのコストカットが、ここ1、2年で徹底化されたようです。家族もちの男性契約社員で、年収は200万代、さらにそこから早番、遅番、皆勤、家族手当、有給買上、準社員退職金が廃止される。ボーナスも成果主義の査定でカットされ、契約も半年で打ち切ると脅される。

不安になる人、不満をもつ人が全く出ない方がおかしい状況と言えるでしょう。

問題は、監視カメラや、現場の仕切りの有無にあるのではありません。なぜ会社で長く働いている人を、会社がそこまで追い詰めたか、そちらが問題です。目先の「成長」のためのコストカットが、どれだけ現場を荒廃させたか、「悪意」をはぐくんでしまったのか、会社は深く反省すべきでしょう。

こうした状況はアクリフーズに限りません。さまざまな現場で、働く条件が悪化し、働く場の楽しさが減り、将来の生活が不安定化しつつあります。日本的企業として評価されてきた、従業員の生活や教育の保障と全人的な貢献のコンビネーションは、いまや何の保障もない酷使へと移行しつつあります。

とりわけ、若い人たちを使い捨てるように働かせ、結婚や出産がしづらいどころか、心身の病気にまで追い込むような企業は、次世代の日本をつぶす存在と言えます。 私たちはこうした労働のあり方が、長期的には日本の社会経済の基盤そのものを損なうものであることをしっかりと認識し、企業の働かせ方を転換していかなければなりません。

田中洋子 (筑波大学)

【人間のための経済とは】
脱成長時代の新しい発展パラダイム──「国民総幸福」と「良い生活」
西川 潤 (早稲田大学名誉教授)

安倍政権は成長戦略を打ち出し、かつてのような経済成長に依存した社会を目指している。しかし、OECDなどでは、すでに1970年代の石油ショック以降、ポスト成長期の新しい社会発展目標の作成をはじめていた。また近年、ブータンがGNPに代わる指標として、「国民総幸福」(GNH)を打ち出していることなども注目を集めている。安倍政権による経済成長依存政策の歪みを指摘し、世界的な潮流となっている「脱成長」の新たなパラダイムシフトを、実例などを紹介しながら考察する。
にしかわ・じゅん 早稲田大学名誉教授。国連研修所特別フェロー、パリ第一大学や北京大学の客員教授を歴任。国際開発学会前会長、日仏経済学会理事。著書に『人間のための経済学』(岩波書店)、『グローバル化を超えて』(日本経済新聞出版社)、『新 世界経済入門』(岩波新書、近刊) 等。

【第三の矢を折る】
人口減少下の経済──安倍首相の現状認識は誤っている
伊東光晴 (京都大学名誉教授)

「15年つづいたデフレからの脱却」を訴える、安倍首相の現状認識は正しいか。
三本目の「矢」である成長戦略を考えるためには、「それが何を目的にしているのか」「戦略者が経済の現状をどのようにとらえているのか」「日本経済が直面している与件に大きな変化があるのか」を考慮しなければならない。
「どんより曇った景気」の正体を明らかにし、人口減少時代にふさわしい経済政策のあり方を提示する。
いとう・みつはる 京都大学名誉教授。理論経済学、経済政策。1927年生まれ。著書に『ケインズ──“新しい経済学”の誕生』、『現代に生きるケインズ──モラル・サイエンスとしての経済理論』、『政権交代の政治経済学──期待と現実』、『日本の伏流──時評に歴史と文化を刻む』、『原子力発電の政治経済学』など多数。

【暮らしはどうなるか】
何のための「負担増」か?──アベノミクスの一年とこれから
山家悠紀夫 (暮らしと経済研究室主宰)

4月に予定されている消費税の増税をはじめ、安倍政権下で国民の負担が増え続けている。しかも、減税政策などにより大企業を優遇し、公共事業を増大させる政策のもと、社会保障の再建はないがしろにされ、国民の生活は苦しくなるばかりだ。しかも、アベノミクスが目標とする経済再生さえ、危うい状況にある。アベノミクスは、この一年で、日本経済に何をもたらしたか。そして、今後、私たちの暮らしはどうなるのか。実際のデータをもとに批判的に検証する。
やんべ・ゆきお 1940年生まれ。「暮らしと経済研究室」主宰。著書に『「構造改革」という幻想』『景気とは何だろう』(岩波書店)、『暮らし視点の経済学』(新日本出版社) など。

【ル  ポ】
木質資源でエネルギー自給、「脱原発」を先取りする北海道・下川町の挑戦
藤盛一朗 (北海道新聞)

人口3500人。北海道北部の下川町が、エネルギー自給への挑戦を続けている。基幹産業の林業を生かし、自然エネルギーの木質バイオマス燃料で暖房熱供給から発電まで行う計画。市街地から離れ、著しい過疎が進む一の橋地区には昨年、「バイオビレッジ」を建設した。都市から下川に移り住む20代や30代の人も増えている。
小規模自治体を逆手に取り、独自政策で輝きを放つ下川の今を報告する。
ふじもり・いちろう 1961年生まれ。北海道新聞記者。ユジノサハリンスク支局駐在、東京政経部を経て2005年3月から2008年3月までモスクワ支局駐在。2011年7月から名寄支局長。著書に『日ロ平和条約への道』(東洋書店)、論文に「日ロ平和条約交渉打開への道」(『世界』2009年3月号) など。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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