この本の題名は『戦後左翼たちの誕生と衰亡』であって『戦後左翼の誕生と衰亡』ではない。従って、本書で取り上げているのは、戦後左翼運動の全般的な歴史や総括ではなく、あくまで戦後を左翼として生きた個々人の人生の軌跡である。ただ、単なる聞き取りによる証言集にせず、そこに著者の自分史に照らした追体験を絡ませ、相手との真摯な対話を計ったところに、この本の特色があり魅力もある。
一年にわたって聞き取りを行ったという10人は、社会主義協会、ブント赤軍派、社青同解放派、フロント、第四インター、革共同中核派、民青・共産党、とその左翼としての出自や所属は多岐にわたっており、年齢的にも1940年の生まれから50年生まれまでちょうど10年の幅がある。当然、彼らの選び歩んだ道はそれぞれであり、時に交差し時に大きくずれて、一つの流れに収斂することはなかった。それにもかかわらず、というより、そうであるからこそ、良きにしろ悪しきにしろ、そこには何らかの普遍が存在するはずで、それを明らかにし議論することで左翼衰亡の時代を切り開く鍵も見つかるのではないか、というのが著者の期待でもあったろう。
私自身は、この本でも言及されている小さなネットワーク(コレコン)の会合を通じて、10人のうち6人までとは面識があった。そこでまず、この6人がどのように自己を位置づけているか、著者によりいかに描かれたか、に興味を持って読み始めた。ふだん顔を合わせ議論していただけでは窺い知ることのできぬ人生的側面までもが、著者の的確微妙な突っ込みもあってあぶりだされて、単に面白かったというだけでなく、本人を身近に感じ、より正確に理解できるようになった。これは当人を知っているからこその醍醐味であろうと思いながら、直接面識のない4人についての章に読み進んだ。ところが、こちらは当人を知らない分だけ新鮮で興味深く、感心もしたし感動もさせられた。ということは、戦後左翼に関心がある限り、この本は誰でもが読めるし読むに値する本ということになる。
学者の間では、オーラルヒストリーの聞き取りにおいては、答えを誘導するような質問をしてはならない、とされているようである。本書はこうしたタブーに真っ向から挑戦し、その禁じ手を思うままに駆使して、語り手、聞き手、そして読者もが納得し満足する内容にまとめ上げた、まさに近来まれにみるユニークで貴重な本といえるだろう。
とはいえ、こうした本が出版され、個々に読まれただけでは、都知事選に示された若い世代がかってなく右傾化した、左翼が絶滅危惧種化しつつある衰亡の時代を切り開く鍵が見つかるわけではない。この本をベースとして活発な議論が展開されることを期待したい。
(『戦後左翼たちの誕生と衰亡―10人からの聞き取り』同時代社、2月刊 定価:本体2000円+税)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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