川内原発は再稼働するべきではない
2015年8月11日
原子力資料情報室
原子力規制委員会は7月24日に川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市、加圧水型原子炉、89万kW、1984年6月運開)の使用前検査のうち、原子炉の起動に必要な検査を完了し、九州電力は同機について8月11日に原子炉を起動した。14日に発電と送電を開始し、9月上旬には通常運転に復帰する予定だという。
東京電力福島第一原発事故を受けて策定された新規制基準に適合した原発の初めての再稼働となる。しかし、今回の再稼働にいたる手続きには極めて大きな問題がある。このような状況下での再稼働はとても容認されるものではない。
よって、わたしたちは、九州電力はこの決定を撤回するべきであるとかんがえる。
1.市民の原発再稼働反対・脱原発志向の高まり
2015年7月に時事通信が実施した世論調査では、原発の再稼働について反対と回答したのは回答者全体の54.3%を占め、賛成と回答した32.7%を大きく上回った。このことは原発の安全性に対する市民の懸念が依然根強いことを示している。こうした市民の原発再稼働への反対姿勢は2012年以来一貫したものであり、強引に再稼働を推し進めてきた政府、九州電力、原子力規制委員会はこの結果を真摯に反省するべきだ。とくに、原子力規制委員会はその組織理念に「我が国の原子力規制組織に対する国内外の信頼回復を図」る、とうたいながら、国内の信頼を得られていない。自らの3年間の活動が、信頼に値しないものであったことを顧みるべきだ。
また同調査では脱原発(現在、将来を含め)を求める回答者は全体の83.8%を占めており、原子力発電が市民から求められていないことが鮮明に表れている。この市民の脱原発志向も、2011年の福島第一原発事故以降、一貫した傾向である。日本国憲法が前文で指摘するように「国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し」ている。そして、同15条2項が定める通り「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」のであるから、政府はこうした市民の声に対して誠実に対応するべきだ。
この問題は単に原発の再稼働にとどまらない大きな問題を含有している。日本学術会議の提言「各種選挙における投票率低下への対応策」は、投票率の低下を、政治の民主主義的正統性を揺るがしかねない問題として捉え、その原因を「有権者の間での政治への関心や信頼感が低下したことによる」と指摘している。そして、政治への信頼感を低下させているその最たるものの一つが、福島第一原発事故とその後引き続く原子力政策ではないか。
繰り返されてきた世論調査や2012年夏の「エネルギー・環境の選択肢に関する国民的議論」において、市民はすでに脱原発への意志を表明している。しかし、現政権はエネルギー基本計画において「原発依存度を可能な限り低減する」としながら一向に低減へ動こうとはせずに、実質的にはむしろ原発依存度を強化する方向に政策をすすめてきた。そうした政府の行為そのものが政治への信頼感を低下させている。政府は、市民の意志を踏みにじることで、自らのよって立つ正統性自体を切り崩しているということを自覚するべきだ。
2.老朽化問題
川内原発1号機は運転開始から31年が経過した老朽炉(高経年炉)であり、運転開始30年の高経年化対策に関する審査が必要となる。
原発の高経年化にかんする技術評価は1999年に原子力安全委員会が事業者にたいして実施を推奨し、2003年からは「実用発電原子炉の設置、運転等に関する規則」によって事業者に義務付けられた。原子力規制委員会はこの高経年化にかんする技術評価は再稼働とは無関係とし、再稼働前に審査が終わらなくても手続き上は問題はないとしてきた。
確かに実用炉規則は82条で「発電用原子炉設置者は、運転を開始した日以後三十年を経過していない発電用原子炉に係る発電用原子炉施設について、発電用原子炉の運転を開始した日以後三十年を経過する日までに、原子力規制委員会が定める発電用原子炉施設の安全を確保する上で重要な機器及び構造物(以下「安全上重要な機器等」という。)並びに次に掲げる機器及び構造物の経年劣化に関する技術的な評価を行い、この評価の結果に基づき、十年間に実施すべき当該発電用原子炉施設についての保守管理に関する方針を策定しなければならない。」と定めており、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」43条3の24は、それによって変更される保安規定の審査期限を定めていない。しかし、経年劣化にかんする技術的な評価をしたうえで作成される30年目以降の保守管理方針の審査の終了が、30年を過ぎても構わないとする考え方には大きな問題がある。実際、原子力安全・保安院時代の高経年化審査では、「評価期限(法定)」として、各原発が稼働から30年もしくは40年を経過する月を示し、それまでに評価を実施するとしていた。
なお、8月5日、第23回原子力規制委員会において、2013年12月18日に提出(一次補正:2015年7月3日、二次補正:7月30日)をうけた川内原発1号機の高経年化技術評価等(運転を断続的に行うことを前提とした評価及び冷温停止状態の維持を前提とした評価)に係る保安規定の変更申請を認可した。この保安規定変更申請の補正は新規制基準を反映した工事計画が認可されたことを受けておこなわれたものだが、申請受領後、認可までの期間はわずか一ヶ月であり、実質的な審査がおこなわれたか極めて疑わしい。
わたしたちは原子力規制庁との7月30日の交渉で、補正申請にともなう追加の現場検証を要求したが、原子力規制庁担当者は、新規制基準適合性審査時に確認しているので不要であるとの見解を示した。しかし、高経年化でもとめられている内容は機器・構造物の劣化評価や長期保守管理方針であって、新規制基準でもとめられる内容とは別個のものだ。今回の川内原発1号機の老朽化をめぐる原子力規制委員会の決定は、再稼働前に手続き上の瑕疵を指摘されることを免れるために、駆け込みで認可したとのそしりは免れえず、規制当局にたいする信頼を大きく損ねるものだ。わたしたちが福島第一原発事故で学んだことは、そのような緩い規制はもはや許されないということではなかったか。
3.住民避難問題
川内原発の再稼働にあたっては住民の避難計画も大きな問題を抱えている。避難計画は訓練を実施して初めて課題がみえてくるため、訓練実施は必要不可欠だ。にもかかわらず、鹿児島県では避難訓練は2013年10月以降実施されていない。2015年8月7日付の佐賀新聞によれば、伊藤祐一郎鹿児島県知事は「電力会社は使用前検査で精いっぱい。とても対応できないので再稼働前の訓練は時間的に無理」と述べた。再稼働を優先させる姿勢を明確に打ち出しているのだ。昨年11月、伊藤知事は再稼働を承認した理由として、原子力規制委員会の審査で安全性が確認されたことをあげていたが、そもそも原発事故の防止や事故の被害拡大を防ぐための基本的な概念である深層防護は、安全対策を複数の層に分け、それまでの防護が機能しなかったことを前提に、その後段の層でどのようにして被害拡大を防ぐかを考えるものだ。避難計画は深層防護上、最後となる第五層に分類されるが、当然すべての防護が破綻したことを前提に検討しなければならず、新規制基準によって安全性が高まったから避難訓練をおこなわなくていいという考え方は大きな誤りだ。
さらに、鹿児島県は自力で避難できない要支援者の避難計画は10km圏内(17施設)までしか策定せず、10~30km圏内(227施設)は避難計画を事前に策定せず、状況次第で対応するとして、国もこれを追認している。
しかし、現実に避難が必要になった際、本当にこのようなことで避難が可能なのか。特に要支援者は特別なケアが必要な人々であり、そのような人々を受け入れる側の施設にもまた特別な対応が必要だ。福島第一原発事故で見られたように、10~30km圏の避難が必要になるような状況下では大きな混乱が生じることは明らかだ。そのような状況で、迅速に避難先を探し、移動手段を手配し、実際に避難することは現実的には不可能だろう。
同じく原発立地県である新潟県は、福島第一原発事故の原因が究明されないままに策定された新規制基準に懸念を示し、新基準では県民の安全を確保できないとしている。また、県が独自におこなっている福島第一原発事故原因の検証と総括が終わらない限り再稼働の議論をおこなわないともしている。そのような新潟県の姿勢と、原発再稼働を優先する鹿児島県の姿勢は好対照をしめしている。
鹿児島県は県民の命をないがしろにしているというそしりを免れ得ない。
4.火山問題
原発にたいする火山のリスクを評価するために原子力規制委員会が策定した「火山影響評価ガイド」では、原発近傍160km圏内に第四紀(約258万年前迄)火山が存在するかどうかを評価の第一条件としている。その条件に当てはまる原発は日本には5箇所(泊、東通、伊方、玄海、川内)存在する。その中でも川内原発は、圏内に5つのカルデラが存在する、巨大噴火による被災リスクが国内で最も高い原発の一つである。そのため、原子力規制委員会による川内原発の火山影響の評価は十分慎重におこなう必要があった。しかし、結果としてその審査は多くの瑕疵のあるものだったと言わざるをえない。
とくに、モニタリングによる巨大噴火の発生予測を可能としている点や、巨大噴火の発生間隔予測に用いた噴火の恣意的な選択は、極めて大きな問題だと考える。
4-1 巨大噴火のモニタリングによる発生予測の問題点
現行の「火山影響評価ガイド」は、モニタリングを実施することで「設計対応が不可能な規模の噴火可能性を示唆する予兆」を捉えることが可能だとしている。そして、九州電力も「破局的噴火の場合は、地震などの前兆事象が数十年前から分かる」と主張している。
しかし、現在日本では多くの火山で噴火の兆候が見られているが、実際にいつどの火山が噴火するのか、噴火数日前でも予測が困難なことが多い。なぜそのような状況で巨大噴火についてはモニタリングを実施することで、噴火が起こる前に予測可能だといえるのか。実際、原子力規制委員会の「原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム」は提言で、「巨大噴火に関しては発生が低頻度であり、モニタリング観測例がほとんど無く、中・長期的な噴火予測の手法は確立していない。しかし、巨大噴火には何らかの短期的前駆現象が発生することが予想され、モニタリングによって異常現象として捉えられる可能性は高い。ただし、モニタリングで異常が認められたとしても、どの程度の規模の噴火にいたるのか或いは定常状態からの「ゆらぎ」の範囲なのか識別できないおそれがある」と指摘している。端的に言えば中長期的な噴火予測は現状では困難であるとしているのだ。くわえて提言では「モニタリングによる検知の限界も考慮して、“空振りも覚悟のうえ”で巨大噴火に発展する可能性を考慮した処置を講ずることも必要である。また、その判断は、原子力規制委員会・原子力規制庁が責任を持って行うべきである」と述べている。
「火山影響評価ガイド」に基づけば、原子力事業者は、「(1)対処を講じるために把握すべき火山活動の兆候と、その兆候を把握した場合に対処を講じるための判断基準 (2)火山活動のモニタリングにより把握された兆候に基づき、火山活動の監視を実施する公的機関からの火山の噴火警報が示された場合において、これに基づき対処を実施する方針 (3)火山活動の兆候を把握した場合の対処として、原子炉の停止、適切な核燃料の搬出等が実施される方針」を策定する必要がある。そして、中長期的な噴火予測が困難である以上、前駆現象が確認されてから、現実に噴火が起こるまでにはそれほど時間がないことをかんがえれば、こうした方針は極めて具体的かつ実効性のある内容でなければならない。たとえば川内原発に大量に保管されている使用済み核燃料や原子炉に装荷された核燃料はどのようにして輸送するつもりなのか。特に原子炉から取り出したばかりの核燃料は熱量も多く、放射線レベルも高いため、すぐに移送することは困難だ。また移送する手立てが見つかったとしても、各原発ともに使用済み燃料ピットの貯蔵能力は限界に近づいており、現状では受け入れは困難だろう。しかし、このような課題は、川内原発の審査の中では明らかにされていない。
最低でも原子力規制委員会は、巨大噴火がモニタリングで予測できることの根拠及び、巨大噴火時の核燃料の実効性のある対応計画について九州電力に求めるべきだった。
図1 九州電力の作製した川内原発に影響を与える可能性のある大規模カルデラ噴火の合成階段ダイアグラム(小山真人(2015)より引用)
4-2 巨大噴火の発生間隔予測に用いた噴火の恣意的な選択
九州電力は「鹿児島地溝(加久藤・小林カルデラ,姶良カルデラおよび阿多カルデラが含まれる地帯)全体」として時間―積算噴出量階段図(階段ダイアグラム)を作成し、川内原発付近のカルデラ火山群の巨大噴火平均発生間隔は約9万年でおおよそ規則的に発生していると主張し、直近の巨大噴火が約3~2.8年前であったことから、次の巨大噴火の発生には充分余裕があるとしている(図1)。複数のカルデラをまとめた階段ダイアグラムを作るためには、その噴火メカニズムが同様であることの説明が必要だ。しかしそのような説明は九州電力からはおこなわれていない。
なおかつ、川内原発の160km圏内には阿蘇カルデラと鬼界カルデラが存在しているが、それらについては、階段ダイアグラムから除外している。これら2カルデラを含む階段ダイアグラムを作成すると、巨大噴火発生間隔の規則性は失われ、比較的短期間で複数回の巨大噴火が発生する期間が存在していたことが分かる。
図2 川内原発から160km圏内にある全カルデラにおけるVEI7異常の噴火の合成階段ダイアグラム(小山真人(2015)より引用)
これでは、9年ごとに規則的に巨大噴火が発生しているように見せかけるために恣意的に巨大噴火を抽出したといえるのではないか。原子力規制委員会は、3カルデラを合成して階段ダイアグラムが作成できる根拠、および対象となる5カルデラすべてを含んだ階段ダイアグラムの作成を九州電力に求めるべきだ(図2)。
5 基準地震動策定の問題
基準地震動とは、原発周辺で起きると想定される地震によるもっとも大きな揺れのことだ。基準地震動にもとづいて施設の耐震設計等がおこなわれるため、この数値はきわめて重要な位置を占めている。しかし、川内原発には基準地震動策定における瑕疵がある。
各原発における基準地震動は二通りの方法で策定することが求められている。すなわち①敷地ごとに震源を特定して策定する地震動(内陸地殻内地震、プレート間地震及び海洋プレート内地震について、原発敷地に大きな影響を与えると予想される地震を複数選定し評価したもの)、②震源を特定せず策定する地震動(過去に起きた16の内陸地殻内地震を基に、地盤特性などを勘案して評価したもの)、である。
九州電力は川内原発の基準地震動中、①を検討する際、過去の九州地方の地震を調べ、原発敷地に大きな影響を与える地震の目安を震度5弱程度以上の揺れとした。そのうえで、最大規模のプレート間地震及び海洋プレート内地震ではそのような規模の地震は推定されないとしてこれら2つについては検討用地震は選定しないとした。原子力規制委員会もこれを追認している。
しかし、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」によれば、基準地震動の策定時には「プレート間地震及び海洋プレート内地震について、活断層の性質や 地震発生状況を精査し、中・小・微小地震の分布、応力場、地震発生様式(プレートの形状・運動・相互作用を含む。)に関する既往の研究成果等を総合的に検討して、 検討用地震が複数選定されていることを確認する」ことが求められている。そのため、九州電力の過去の地震だけにもとづく議論はこれに反していることは明らかだ。また、原子力規制委員会の認可も、自らが策定した基準に違反している。
6 おわりに
原子力規制委員会の田中俊一委員長が「絶対安全とは言わない」と繰り返し指摘する通り、新規制基準に適合したからといって、絶対の安全が確保されるわけではない。しかし、福井地裁大飯原発3、4号機運転差止請求事件判決要旨が指摘する通り、「ひとたび深刻な事故が起これば、多くの人の生命、身体やその生活基盤に、重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と、高度の信頼性が求められて然るべき」である。
さらに、過去4年以上の長期停止を経験して再稼働した原発は、世界で14基存在し、その全てが緊急停止などのトラブルに見舞われているとブルームバーグは報じている。長期間の運転停止によって、運転員の技術が低下したり、様々な機器や配管に問題が生じるのだ。川内原発1号機は2011年5月10日に定期点検に入り、すでに4年超が経過している。
であればこそ、絶対安全に一歩でも近づくために、慎重の上にも慎重を重ねた審査が必要だったはずだ。しかし、これまで述べてきたとおり、今回の九州電力川内原発の再稼働審査は極めて不徹底なものである。このような審査で了承された川内原発1号機が福島第一原発事故以降の原発再稼働第一号となっては、将来に大きな禍根を残すことになる。
原子力規制委員会は、認可を撤回するべきであり、また九州電力も川内原発1号機の再稼働を取りやめるべきである。
参考文献
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Stapcynski, Stephen and Yuriy Humber, 2015, “Japan Heads for Nuclear Unknown With Reactor Restart”, Bloomberg,(Retrieved August 8, 2015,www.bloomberg.com/news/articles/2015-08-05/japan-heads-toward-nuclear-unknown-with-post-fukushima-restarts).
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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