市民主体の被災者支援運動のささやかな第一歩

著者: 醍醐聡 だいごさとし : 東京大学名誉教授
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一刻を争う被災者のための安息の場の確保

3月18日の夜7時のNHKニュースによると、東北地方と関東甲信越を中心に大震災の被災者が身を寄せる避難所は2,304か所、避難している人の数は28万人余りに上るという。さらに、福島第一原発の事故を受けて、ここ数日、福島県の外に避難する人々が増加している。今後、屋外避難の圏が広がるにつれ、こうした遠隔地への「疎開」はますます増加するものと考えられる。
他方、これらの人々を受け入れる態勢はどうかというと、ここ数日の間に公共施設などへの被災者の受け入れを表明する自治体が南は九州まで全国に広がっている。しかし、それでも、18日夜の時点で、被害が大きかった岩手・宮城・福島の3県を除く44都道府県が一時避難の施設として受け入れを確保したのは10万7,000人分にとどまっている(『時事通信』調べ)。
その間、真冬並みの寒気に襲われた避難所では体力を消耗して死亡する高齢者が相次いでいる。それだけに今、過酷な避難生活を強いられている被災者のために安息の場を確保し、それら施設への確実な移動手段を確保することが一刻を争う急務となっている。

自治体に支援の輪が広がってきたというが
確かに全国の自治体の間に避難者を受け入れる支援の輪が急速に広がっている。佐賀県は18日、公営住宅や旅館、民間アパートなどを活用し、県民からもホームステイ先を募って、3万人規模の受け入れを発表した。関西を中心とした7府県による関西広域連合も数万人の被災者を受け入れる方針を決め、一時遠隔避難所には入浴設備やプライバシーを確保できる仕切りなども準備するという。そして、行政や市民団体などが受け入れた被災者のケアにあたる。関西までの輸送は、自衛隊や民間輸送機関に協力を求める方針だ。

しかし、被災者受け入れに積極的な自治体が大部分かというとそうではない。私が住む千葉県では、17日現在、459戸を県内3市1町(旭市、香取市、浦安市、九十九里町)の被災者にまず充当し、余裕があれば県外の被災者を受け入れることも検討中という。まずは県内の被災者の支援に当たるのは当然だが、「県外を受け入れる場合、国や当該県からの要請が前提となる」とのこと。何という主体性のなさか。これでは地域主権を語る資格はないに等しい。また、私が住む市では3日前までは、市内で被災し住居をなくした世帯を対象に4戸の公営住宅を確保したと公表するにすぎなかった。

そこで、私は自分の地元でできる被災者支援の方法は何なのか考え込んだ。思案のすえ、近所の知人に声をかけ、話し込むうちに、「わが市がこんな支援策とは嘆かわしい」、「もっと真剣に受入れ可能な施設なり空き部屋を調査するよう申し入れよう」、と同時に、「行政にただ、しっかりやれ、というだけでなく、自分たちも市の前向きな被災者支援に応えて、利用可能と思われる施設の情報提供、受け入れた被災者の生活支援のために募金も含むボランティアとして協力を惜しまないという意思も伝えよう」ということなった。

まずは自分が住む自治体に向けて
そして、昨日(19日)の午後、それまでばらばらに意見交換・情報交換をしていた知人6人が喫茶店に集まり、案文をもとに、わいわい議論をして市長宛の申し入れ文書(要望書)をまとめ、これをもとに知人らに賛同の署名を呼びかけることにした。また、数名ずつ分担して、市議会のすべての会派(の議員)に市長への働きかけに協力を要請することにした。市の担当部署との交渉の結果、22日に要望書を提出することになった。そして、その日のうちに申し入れに賛同の署名をしてくれた議員もあった。市議会自体にも全会派が共同で市に対し、もっと本腰を入れて支援策を打ち出すよう働きかける動きが出てきた。

私はこうした市民主体の被災者支援のささやかな運動が全国各地に広がり、大きな輪になるなら、大震災で今後長期にわたって苦難の生活を強いられる被災者の生活再建に少なからぬ貢献ができるのではないかと感じ始めている。そして、これが机上の言葉で終わらない、「共助」の実践の慎ましい一歩ではないかとも思える。
この記事をご覧いただいた方々が、ご自身の居住地域で市民が主体となって被災者支援の取り組みを行政に促す、そして、それだけでなく、自分たち自身にできることを考え、行政に提案し、実践する運動を起こしていただけたら、うれしく思う。
以下は、22日に提出する予定の市長宛要望書である。

「東北関東大震災被災者支援についての緊急要望」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/shicho_ate_yobosho20110322.pdf

2011(平成23)年3月22日
佐倉市長 蕨 和雄 殿
佐倉市市議会議員 各位

東北関東大震災被災者支援についての緊急要望書

3月11日に東北・関東地方を襲った空前の大地震と津波による被災者は今、暖房も食糧もままならない各地の避難所で過酷な耐乏生活を強いられ、体調不良に陥って一命を落とす高齢者が増えています。こうした現実をテレビで知らされた多くの市民は心を痛め、自分にもできる支援はないかという思いに駆られています。とりわけ、原発施設からの放射能漏れの情報が刻々知らされるにつれ、少しでも遠方へ避難しようとする人々がこの先、多数に上ることが予想され、そうした人々を受け入れる体制づくりが急務となっています。
そのような中、報道によれば、各地の自治体が公営あるいは民間の施設(旅館・ホテル、民宿等)に被災者を受け入れる準備を進めています。千葉県では旭市での津波による被災者を救援する体制づくりに取り組んでいますが、佐倉市は目下のところ、岩名青少年センター内の施設に受け入れる準備を進めるのにとどまっています。しかし、報道では遠く鹿児島県が福島県で被災した3世帯を受け入れ、千葉県でも松戸市が市の施設に入所できなかった5世帯のいわき市民をお寺に受け入れたと伝えられています。
そこで、私たち市民有志は、佐倉市ならびに佐倉市市議会議員各位に以下のことを緊急に申し入れいたします。各位におかれましては、被災者の切迫した状況に照らして、至急、この申し入れをご検討いただき、行政と市民が文字通り協同して、一刻も早く被災者支援の取り組みを進められるよう、リ-ダ-シップを発揮してくださることをお願いいたします。

1.まずは、公営はもとより、民間でも、一定期間、被災者を極力無償で受け入れることができる集合住宅なり施設が市内にどれほどあるか、至急、調査をしていただくこと。私たちが知る限りでも相当数の空き部屋がある民間集合住宅やセミナ-ハウス等が見受けられます。

2.上記のような集合住宅等にある程度まとまった空き部屋を一定期間、佐倉市が事業者から低廉な価格で確保し、被災者に無償で提供する構想をご検討下さい。事業者との交渉にはいろいろと難しい問題(市の財源、事業者への補償のあり方、退去時の原状復元等)があるとは思いますが、その財源については次項で提案いたします。

3.空き部屋確保に必要な市の財源については、市の予備費や不要不急の歳出予算を削減するなどして捻出する策をご検討いただき、その上で不足する分は広く市民に義捐金を募って賄う案を検討いただくよう、提案いたします。このような自分たちの身近な場所での目に見える被災者支援であれば、多くの市民の共感と賛同が得られると私たちは確信しています。

申し入れ団体:東北関東大震災被災者を支援する佐倉市を応援する市民有志

初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/

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