(2022年5月2日)
プーチン・ロシアのウクライナ軍事侵攻という深刻な事態のさなかに、明日75回目の憲法記念日を迎える。好機到来とばかりに、改憲派が日本国憲法の平和主義を侵攻している。とりわけ、維新がその尖兵の役割を担っている。これこそ「火事場泥棒」以外のなにものでもない。この火事場における泥棒の被害には十分な警戒を要する。
歴史を顧みたい。我が国近代にも反戦・平和の思想は脈々と息づいている。日露戦争開戦時における反戦・平和の言論には、今学ぶべきところが多々あると思う。とりわけ、平民新聞に拠った幸徳秋水の言説に耳を傾けたい。
日露の開戦は、1904〔明治37〕年2月の上旬である。その直前の同年1月17日付「平民新聞」第10号に、幸徳秋水の「吾人は飽くまで戦争を非認す」という論説が掲載されている。その中に下記の有名な一節がある。
「吾人は飽くまで戦争を非認す、之を道徳に見て恐る可きの罪悪也、之を政治に見て恐る可きの害毒也、之を経済に見て恐る可きの損失也、社会の正義は之が為めに破壊され、万民の利福は之が為に蹂躙せらる。吾人は飽くまで戦争を非認し、之が防止を絶叫せざる可からず。」
日本中が憎むべきロシアに開戦を叫ぶときに、敢えて戦争違法の本質を語り、「吾人は飽くまで戦争を非認し、之が防止を絶叫せざる可からず」という姿勢を宣言したのだ。
開戦後には、さらに悲痛な論陣となっている。
「戦争は遂に来れり。平和の撹乱は来れり。罪悪の横行は来れり。日本の政府は日く、其責露国政府に在りと。露国の政府は日く、其責日本政府に在りと。是に由て之を観る。両国政府も亦戦争の忌むべき平和の重んずべきを知る者の如し。少なくとも平和撹乱の責任を免れんことを欲する者の如し。」
「吾人平民は飽くまで戦争を非認せざる可らず。速に平和の恢復を祈らざる可らず。之が為めには、言論に文章に、有ゆる平和適法の手段運動に出でざる可らず。故に吾人は戦争既に来るの今日以後と雖も、吾人の口有り、吾人の筆有り紙有る限りは、戦争反対を絶叫すべし。而して露国に於ける吾同胞平民も必ずや亦同一の態度方法に出ると信ず。否英米独仏の平民、殊に吾人の同志は益々競ふて吾人の事業を援助すべきを信ずる也」
ここでも、「言論に文章に、有ゆる平和適法の手段運動に出でざる可らず。吾人の口有り、吾人の筆有り紙有る限りは、戦争反対を絶叫すべし」と咆哮している。立派なものだ。その姿勢を学ばなければならない。いま、幸徳秋水ありせば、「戦争反対」に続けて、「改憲反対」「9条を守れ」と絶叫するであろう。
幸いなことに、憲法改悪反対の世論は、ウクライナ侵攻後もけっして脆弱化していない。昨日発表となった共同通信の世論調査が「改憲機運は『高まっていない』とする回答が70%」というもので、護憲派に勇気を与えるものとなっている。
下記は、その共同の世論調査を報じる産経の記事(全文)である。
「9条改正、賛否拮抗 施行75年の共同世論調査
共同通信社は1日、憲法施行75年となる3日を前に郵送方式で実施した世論調査結果をまとめた。9条改正の必要性は「ある」50%、「ない」48%と賛否が拮抗した。昨年の同時期の調査で9条改正は、必要51%、不要45%だった。
岸田文雄首相が自民党総裁任期中に目指す改憲の機運は、国民の間で「高まっていない」が「どちらかといえば」を含め計70%に上った。「高まっている」は「どちらかといえば」を含め計29%。大規模災害や感染症の爆発的蔓延時の緊急事態条項として国会議員任期を延長できるようにする改憲は賛成76%、反対23%だった。
調査では、改憲機運に関し国会で改憲論議を「急ぐ必要がある」は50%で、「必要はない」49%と二分した。改憲問題に「関心がある」「ある程度関心がある」は計69%だった。
調査はロシアのウクライナ侵攻後の3~4月、全国の18歳以上の男女3000人を対象に実施した。」
自信をもって、私も声を上げ続けよう。「戦争反対」「改憲反対」「9条守れ」と。そう、私に口があり、ペンがあり紙があり、そしてパソコンがある限りは。この声は、必ずや世界の理性ある人々に通じるに違いないのだから。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.5.2より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=19070
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12000:220503〕