幸福度?住みやす?

著者: 藤澤豊 ふじさわゆたか : ビジネス傭兵
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幸福がどうのという話を聞かされても、分かったような分からなかったような感じで、あらためて何をという気になったことがない。巷の凡人、幸福には人並みの関心はあるし興味もある。ただ、幸福がどのうと気にして情報探しをした覚えはない。
Webで何か探していたときに偶然みつけた記事で、いってみれば揚げた網に予想もしたこともないものがひっかかっていたようなものでしかない。何があるとも思えないが、そんなものでも出てくれば気にはなる。そのまま捨てるにはちょっと惜しい。ざっと目を通して見てみた。

記事は『なぜフィンランドは「世界幸福度報告書」で3年連続首位に輝いたのか? 気鋭の哲学者が明かした国の成り立ちと「幸福度」の関係性』と題したもので、二月十四日つけの「WIRED」に掲載されていた。そこには下記の前書きがついていた。

『毎年春に国連が発表する「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」の2020年版世界幸福度ランキングで、3年連続首位に輝いたフィンランド。その背景には何があるのだろうか。こうした問いに迫った著書が話題となり、フィンランド語版と英語版に続いて日本語版の出版も予定されている若き哲学者、フランク・マルテラに訊いた。』 urlは下記のとおり。

https://wired.jp/2021/02/14/frank-martela-interview/

表題に続いて、「迫った」調査方法と調査項目が解説してある。バタ臭い訳文、ちょっと長いがそのまま引用させていただく。
『「世界幸福度ランキングはどのように算出されるのだろうか。調査項目の設計を主導したギャラップ社のジム・ハーター(Chief Scientist of Workplace Management and Well-being)は「ウェルビーイングの調査項目では、“体験“と”評価“の2つを尋ねています。体験は5つのポジティヴ体験と5つのネガティヴ体験を調査前日に経験したかどうか、評価は自分の人生を10段階で判断してもらっています」と回答している。そして、その調査に対して次の6項目が加味される。GDP、社会保障制度などの社会的支援、健康寿命、人生の自由度、他者への寛容さ、国への信頼度だ。その結果、フィンランドは2020年まで3年連続で首位に輝いている」』

なるほど、さすがプロのお仕事とありがたく拝読させて頂いたが、読みはじめてすぐ思わぬことが気になりだした。サンプリング方法はどうなんだろう。どの社会層をみるかで得られるデータには大きな違いがでてくる可能性もあるんじゃないか。さらに今に至るまでの経緯と将来に対する思いによっては現状に対する評価が正反対になる可能性だってあるんじゃないか。
たとえば、現状が一〇〇だったとしても、五年前には八〇だったのが急速に改善されて一〇〇になったのと、五年前には一二〇あったのに一〇〇にまで悪化してしまったというのがある。将来に対する気持ちにも二通りある。今は一二〇にまでになったけど、いくらもしないうちに一〇〇を切るところまで落ち込むかもしれないと心配するのと、数年のうちには一三〇も超えてもっとよくなるんじゃないかと思うのでは、全く違う回答になる(だろう)。

さらに評価項目に加味された他者への寛容さや国への信頼度はアンケートを受ける人に立場によって随分ちがうだろうし、世界中の全く違う社会や文化を一つの基準で数値化して、誰もが納得する評価基準を設定して他国との比較? そんなことがどこまで可能なのかという疑問がわいてくる。

記事を読んでいっても疑問は解消しない。いっそのこと原本『世界幸福度報告書(World Happiness Report)』を当たってみようかとGoogleで探したら、「World Happiness Report 2021」と題したPDFファイル「WHR+21.pdf」が出てきた。

https://worldhappiness.report/ed/2021/#:~:text=The%20World%20Happiness%20Report%202021%20focuses%20on%20the,over%20the%20world%20have%20dealt%20with%20the%20pandemic.

国連が関係したレポートでpdfファイル。また仰々しいものが落ちてきたんじゃないかと恐る恐る開いてみれば、グラフィック満載の212ページにもおよぶ、がんばって読めないこともないがという代物。内容の前にページ数で一本とられてしまった。
失礼と思いながらカーソルでページをすすめていったら、22ページ目にランキング表がでてきた。日本はどこにとスクロールしていってもなかなか出てこない。やっと見つけてみれば23ページに56位で載っていた。日本の上にはタイが54位で、ニカラグアが55位。日本につづいて57位にはアルゼンチンが、そしてポルトガル、ホンジュラスと続いている。

八十年代の思いあがりもとっくに冷めて、知り合いの中にもせいぜいいい国までで、世界に冠たる国だなんて思ってるのはいない。ちょっと引いて冷めた目でみれば、高度成長期までの成功体験と利権構造に縛られて、次の社会のありようを模索する能力すら失ってしまったのかのようにさえみえる。ただ、それにしても56位?日本人はそれほど幸福とは縁遠い、不満たらたらの人たちなのか。日本はそこまで満足しえない社会なのか。なにかずれているような気がして落ち着かない。

順位あらそいとか他の国と比較なんかしたところでと思いながらも、もしかしたら違う視点の調査もあるんじゃないかとWebで漁っていたら、これまたたまげるものがでてきた。

『2020年、実は日本が「世界最高の国ランキング3位」になっていた…!』中原圭介(経済アナリスト)さんの2020年6月5日付けの記事。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72171?imp=0

詳細は上記urlから記事を読んでいただくことにして、オープニング部だけ転記しておく。これで氏の視点はお分かりいただけると思う。

『「生産性」は低いけど、素晴らしい国』
『日本はいま「生産性が低い」ことが議論の俎上に載せられることが多くなっています。』
『生産性を上げることが日本の経済力に資することは明白ではありますが、ではどの程度、上げていくことが日本にとっていいのかという議論はおざなりにされています。』
『いいとこ取りの「生産性改革」はむしろ日本に害をもたらすというのが、実は私の主張です。今回はそんな「生産性改革」の表と裏を見ていきましょう。』

書かれていることは、多くの人たちが日常生活で目にして感じることまでで、その状況をもたらしているものにも、もたらしているもの大元の理由や原因にも、その歴史的背景にも踏み込んでいない。ふつうの人が読めば、多分、うん、その通りと思うんだろうなと思いはするが、落ちがほほえましいというのかちょっと寂しい。人の能力の有効活用や能力を発揮して頂く有形無形の環境(広義のインフラと呼んでいいか?)の問題を素通りして、個人のスキルアップの話に飛んでいる。うがった見方でもうしわけないが、誰しもが持っているであろう自分の能力に対する不安を説いて、自己啓発をメシのたねにしている人たちのお話のような臭いがする。

それにしても「最高の国ランキング3位」と聞くと、嬉しいというより、ほんとかよと俄かには信じられない。日本、どう贔屓目にみても、そこまでいい国だとは思えない。

国連まで関係した(という)調査では56位、高名な経済アナリスト(お名前も知らなかったが)の評価では世界3 位。ちまたの一私人、何を知ってるわけでもないが、どちらも、そう、そうなんでかすという気にはなれない。

うーん、幸福度か?確か買い物にいく途中に選挙かなんかの看板に似たようなことが書いてあるのがあったけど、近所にある事務所に訊きにいくものも億劫だし。そうだ、ちょっと俗っぽいが「世界住みやすい国ランキング」と入力してぐぐってみた。
「日豪プレス オーストラリア生活情報サイト」の特集記事がでてきた。

https://nichigopress.jp/ausnews/news/202720/

日本語を母国語とする人たち向けのオーストラリア生活情報サイトで分かりやすい。表題に下記がある。
「世界で最も住みやすい国ランキング2021」
「日本、オーストラリアは?」

掲載されている住みやすい国の表をみていったら、スイス、デンマーク、オランダ、フィンランド、オーストリアと並んで六位にオーストラリアが、そこからとんとんと下がって17位に日本があった。見たところExcelの左上だけをコピペしたようだし、ソースのExcelファイルは?と気にしてみれば、一番下にちゃんと「参考: Numbeo / Quality of Life Index by Country 2021」が載っていた。

早速その参考へといってみたら、ネタ本に相当するものがでてきた。

「Quality of Life Index by Country 2021」
https://www.numbeo.com/quality-of-life/rankings_by_country.jsp

一番左に順位、そして国名、住みやすさの総合評価(Quality of Life Index)と続いて、購買力平価、治安、医療、生活コスト、住居費/収入、通勤時間、環境汚染、気候と各項目が並んでいる。ジニ係数や相対的貧困率が入っていないのが気になるが、まあいいやと見ていった。

自然環境も違えば歴史も文化も大きく違うのに、比べてみたところでという気がしないわけでないが、ここまで綺麗に、まあそんなところかと納得する数字がならんでいると、ちょっと比べてみたくもなる。
上位にランキングされている国々の個々の評価項目を眺めていたら、日本の「住居費/収入」が特異的なような気がする。
英語ではProperty Price to Income Ratio、訳せば「収入に対する住宅購入費」
日本のランキングが17位にとどまっている最大の原因は、「衣食住」の三要素のなかでも「住」が高い、あるいは「住」の高さに比べて「収入」が少ないということから来ているようにみえる。この「収入に対する住宅購入費」が他の評価項目に影響する。例えば、生活コストが高い。通勤時間が長い。汚染がひどいなどなど。

素人がざっとみての感想を言わせていただければ、これは日本政府の経済政策がフローよりストックに重点を置いてきた事の証左じゃないのか。要は賃金労働者―普通の勤労者より不動産資産家を優遇してきた結果のようにみえる。

ここまで目を通してくださった読者にお願いがあります。お忙しいところ申し訳ないのですが、上記urlからサイトに入って表をご覧いただいて、住みやすい国として上位にランキングされている国々と日本を比較して、どの指標(index)をどのように判読すれば意味のある評価を得られるのか、そしてどの指標をどう改善したら、もっと住みやすい国にし得るのか、ご指導を頂戴できないでしょうか。

「Quality of Life Index by Country 2021」のExcelファイルを一ページに収めようとすると、どうしても小さくなって見にくい。なんとかならないかとあれこれやってみたが、ホームぺージに掲載するhtml言語で大きな表を掲載するのも気が進まない。
ちょっと見にくいが一位のスイスから二十位のカナダまでをpngファイルにして下記につけた。
Quality of Life Index by Country 2021

 

 

p.s.
原稿に手をいれていたら、今度は『日本は“納得”のワースト6位。「外国人が住みたい、働きたい国」ランキング【2021年版】』が出てきた。

Yahooが配信してきたニュースで、urlは下記の通り。
https://news.yahoo.co.jp/articles/bdde7b658e33e0e6327c77d66bd635bbda3fc5a4

決して自慢できる国だなんて思っていないけど、日本はそこまでひどい国なのか。政府の肝いりで、かなりの金もかけて「おもてなし」なんていってきたけど、ラックアップに多少は役立ったのかな? それでもワースト6位となると、もう日本人でも「住みたくない国、働きたくない国」って思っている人が相当いそうな気がする。あいつも、えっ、こいつもと周りの人たちになかに、日本脱出を考えている人が何人もいそうなんだけど、交友関係が貧弱なこともあって、気がつかいだけかもしれない。
2014/6/10
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11000:210612〕