徴用工裁判の核心とそれに関する資料

著者: 醍醐聡 だいごさとし : 東京大学名誉教授
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徴用工裁判をめぐる日韓外相会談で河野外相は相変わらず、居丈高な発言を

繰り返していますが、日本のマスコミは、「責任は韓国にある」「対応すべ

きは韓国」という論説を掲げ、日本政府の強硬姿勢を後押ししています。

 

このような日本の政府、マスコミの言動にいたたまれず、門外漢を省みない

で、いくつか参考となる情報をお送りさせていただきます。

先刻、ご承知の皆さまはご放念ください。

 

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日本のマスコミが<責任は韓国側にある>と主張するとき、決まって持ち出すのは

「韓国政府も2005年に、日韓請求権協定で日本から受け取った3億ドルの中に

『強制動員被害者補償金』が含まれるとの見解を示していた」という指摘です。

 

しかし、徴用工の請求を認めた韓国大法院判決(該当箇所の画像を添付します)

は、上記のような2005年の大韓民国の見解を承知の上で、それは行為の不法性

を前提にしないサンフランシスコ条約第4条に基づく「強制動員被害補償金」で

あって、今回、徴用工が求めている反人道的な不法行為に対する「強制動員慰謝

料請求権」は1965年の日韓請求権協定による補償の範囲外だったと判断しました。

 

 

 

その際、大法院は、当時、原告らが強いられた過酷で危険な労働環境、外出も制

限された人権侵害、脱出の試みが発覚したときに受けた過酷な殴打などを認定し、

このような植民地支配下の軍需工場における反人道的な不法行為による精神的苦

痛は慰謝料請求の根拠となることは明白と判断しました(該当箇所の画像を添付

します)。

そもそも日韓請求権協定の第1条第1項では「前記の供与及び貸付けは、大韓民

国の経済発展に役立つものでなければならない」と明記され、日本が韓国に無償

供与する3億米ドル相当は全額現金でではなく、日本の生産物、及び日本人の役

務で供与するものとされています。

 

「1965年日韓協定の実質は経済協力協定、個人の請求権は未解決」

http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/1965-a005.html

 

現に、日韓請求権交渉当時の外相・椎名悦三郎は国会で、3億ドルはあくまで経

済協力金と答弁し、前外相・大平正芳は「韓国独立のお祝い金」と発言しています。

(議事録を添付します。)

韓国大法院も判決の中で、日本政府が不法行為に連なる「賠償」という言葉を頑

なに拒んだ事実からも、3億ドルの中に強制動員慰謝料が含まれているとはいいがたい

と指摘しています(判決文、14ページ)。

 

今回の徴用工裁判をめぐって日本の政府とメディアに求められるのは、問題の第一

次資料というべき韓国大法院の判決文を予断を交えず読み込み、裁判で争われて

いるのは強制労働下の未払い賃金等の補償ではなく、「強制動員『慰謝料賠償

問題」だという事実を認識すること、その上で、慰謝料請求権を根拠づける歴史

的事実を真摯に直視する調査報道に徹することだと私は考えています

 

なお、日本の裁判所は、例えば、最高裁第二小法廷判決2007年4月27日。全文

後掲)は、中国人徴用工が日本企業に求めた戦時下の強制労働に対する請求につい

て、サンフランシスコ条約で放棄されたとして請求を退けましたが、末尾で次の

ような指摘をし、被告日本企業に道義的な責任を認識したうえで補償に応じるよう、

促したのが注目されます。

 

「なお,前記2(3)のように,サンフランシスコ平和条約の枠組みにおいても,個

別具体的な請求権について債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げ

られないところ,本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一

方,上告人は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相

応の利益を受け,更に前記の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみる

と,上告人を含む関係者において,本件被害者らの被害の救済に向けた努力をする

ことが期待されるところである。」

 

戦時に日本の植民地の人々を強制、甘言で日本の軍需工場に徴用し、過酷な労働を強

いた加害国の日本政府が、被害国の政府に向かって、傲慢で居丈高なふるまいをする

現実、そうした自国政府のふるまいを正すどころか、後押しする日本のマスコミ。

こうした恥ずべき日本の政府、マスコミを糾すのは、わたしたち日本市民をおいて

ほかにありません

 

「和解があるとすれば被害者の赦しから始まる」という朴裕河の言葉につけ入ってはな

らないと悟った言辞を弄しつつ、自ら、真っ先に、そうした被害国の人物の、加害国の

論壇に媚びる言葉につけ入り、日本軍慰安婦被害者に名誉棄損で訴えられた朴裕河を

終始、先頭に立って擁護した上野千鶴子を持ち上げる点にも、日本のジャーナリズム、

論壇の浅はかさが露呈していると私は考えています。

 

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参考資料

*2018年10月30日 新日鉄住金事件大法院判決(仮訳)全文

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf

 

*最高裁第二小法廷判決200年4月27日 中国人強制労働賠償事件、全文

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/580/034580_hanrei.pdf

 

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion8674:190527〕