志位議長が〝自由な時間〟と共産主義の未来社会の魅力を縦横に語る一方、「4月こそ」「5月こそ」「6月こそ」と毎月繰り返す党勢拡大運動の悲哀、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その28)

 第29回党大会で決定した党勢拡大方針はいまや「風前の灯火」となり、事態を打開する方向も見つからないまま、百年一日の如く「党勢拡大=強い党づくり」が呼びかけられている。この方針は(1)第30回党大会(2年後)までに、第28回党大会現勢の27万人の党員、100万人の赤旗読者を必ず回復・突破する。(2)第28回党大会時比「3割増」の35万人の党員、130万人の赤旗読者の実現を2028年末(5年後)までに達成する。(3)この方針を達成するため、今年7月末までに①毎月2万人以上に働きかけ、2千人以上の党員を迎える、②毎月1200人の日刊紙読者、6000人の日曜版読者の増勢をはかる、③党員拡大の6割、7割を青年・学生、労働者、真ん中世代で迎える――というものである。共産党は目下、毎月の目標を数字(目標水準)にして拡大運動を進めているが、それは進捗状況を毎月点検しなければ拡大運動を維持できないほどの危機的状況の反映でもある。

 それでは、今年7月末までに毎月2000人以上の党員拡大(うち6,7割は青年・学生、労働者、真ん中世代)、毎月1200人の日刊紙読者と6000人の日曜版読者増勢という〝目標水準〟はいったいどのようにして設定されたのであろうか。2028年末(5年後)に第28回党大会時比の「3割増」すなわち35万人の党員、130万人の赤旗読者を達成するには、60カ月で党員10万人、赤旗読者45万人(いずれも純増分)を増やさなければならない。月平均にすると党員1667人、赤旗読者7500人という大変な数字になるが、上記の〝目標水準〟はほぼそれに見合う形で設定されたのであろう。

 だが、この〝目標水準〟はこれまでも度々指摘してきたように、あくまでも「たられば」の仮定条件に基づく「架空の目標」であって、実現可能性に裏付けられたものとはとうてい言えない。政治目標だけなら幾らでも大言壮語を並べることができるが、党勢拡大になると具体的な数値目標が問われるので、党員や支部を納得させるだけのリアリティ(実現可能性)が求められる。ところが現在展開されている拡大目標は、支部や党員の自発的意思に基づいて積み上げられたボトムアップ型目標というよりは、党中央の上からの指導に基づくトップダウン型目標であり、それが「手紙=党中央からの指示」に対する「返事=支部の回答」を要求するという形で進められているにすぎない。これでは拡大運動が息切れするのも無理はない。

 その一方、志位議長はこうした党勢後退の現実から目を背けて、このところ共産主義の「未来社会論」の宣伝に熱中している。赤旗には連日関連記事がトップで掲載され、「志位議長縦横に語る〝自由な時間〟と未来社会論の魅力」(6月26日)、「『ワクワクした』『夢とロマン』〝自由な時間〟と未来社会論の魅力、志位議長講演に感想」(6月27日)などという大見出しが躍っている。志位議長の講演は、崩壊した旧ソ連や中国の現状をみて「社会主義には自由がない」というイメージを払拭しようとの思惑で行われたもので、結論は次のような言葉で結ばれている(赤旗6月26日)。
 ――日本共産党は、その名が示すとおり、共産主義を理想に掲げている政党であり、私たちは共産主義者の集団です。当面する国民の切実な要求にこたえるたたかいにとりくむとともに、「共産主義と自由」の問題を日本の社会変革を進める戦略的課題として重視して位置づけ、学び、語り合うことを強く訴えます。

 しかし、日本共産党の旧ソ連や中国との戦前からの関係や戦後の政治闘争における密接な繋がりからして、旧ソ連や中国との違いを国民に理解してもらうのはそれほど容易なことではない。むしろ最近の共産党の権威主義的な党運営においては、旧ソ連や中国との同質性さえ想起させるような事態が続いている。一方では「共産主義と自由」の命題を掲げながら、肝心の足元では「民主集中制」の組織原則によって党内の自由な議論が遮断され、党外との意見交換が「反党行為」とみなされるなど、その統制ぶりは際立っている。そこでは議論が(異論があっても)垂直的に統合され、党中央の見解以外は対外的に表明できない構造になっている。党内では志位議長のように「縦横に語る」言論空間が存在しないのであり、民主的組織に不可欠の「自由な時空間」が欠落しているのである。

 その上、第29回党大会決議では「民主集中制は社会変革の事業に不可欠」との主張の下に、(1)多数者革命を進める主体は主権者としての国民である、(2)「国民の自覚と成長」は自然成長には進まない、(3)「国民の自覚と成長」を推進するには先見性と不屈性を発揮する共産党が不可欠である、(4)支配勢力の攻撃を打ち破って社会変革を成し遂げるためには、民主的な議論と党の統一と団結を保障する「民主集中制」がいよいよ重要性と必要性を増している――という独特の論理で「民主集中制」が正当化している。多数者革命は「プロレタリア独裁」の否定の上に生まれてきた新しい社会変革の概念であり、それを指導する「前衛党」の存在も否定された。それにもかかわらず、共産党は依然として「前衛党」にも比すべき指導的立場に固執しているのである。

 多数者革命は、社会変革を願う市民と諸党派の統一戦線として推進されるものであって、共産党一党の独占物ではない。時に応じて多様に変化する政治情勢に即して統一戦線を組むには、それに対応できる民主的で柔軟な組織形態が不可欠となる。志位議長だけが縦横に〝自由な時間〟と共産主義の未来社会論を語り、それを受講した党員が「共産主義のイメージがガラリと変わり、うれしい衝撃を受けた」などの感想を寄せるような(上意下達の)組織では多数者革命には対応できない。志位氏個人が「夢とロマン」に酔いしれるのは自由だが、東京都知事選で「天下分け目の合戦」が戦われている最中に「共産主義と自由を学び取ることが戦略的課題」などと季節外れのことを言うのは、暇人の戯言(たわごと)としか思えない。こんなことが続くと党員は赤旗を読むのが嫌になり、減紙がますます加速していくのは避けられないのではないか。

 党勢拡大方針に話を戻そう。党員と赤旗読者を「3割増」にするというのはもともと第28回党大会の決定事項だった。だが、それが実現できずに党勢は逆に後退し、第29回党大会は党員25万人、赤旗読者85万人に縮小した。この事態は拡大方針の破綻を示す以外の何物でもなかったが、大会では討論も総括もなく「3割増」はそのまま次の目標として先送りされた。5年後に「3割増」を実現するとの党勢拡大方針が「天の声」の如く党中央から降ろされ、それが実現可能かどうかの実質的な議論もなく、ただ「シャンシャン大会」の空気の下で決定されたのである。

 この〝目標水準〟が現在の党の力量をはるかに超えるものであることは誰もが知っている。それでいて「毎月2000人(以上)の拡大目標を達成すれば60カ月で党員12万人(以上)が増え、5年後には37万人(以上)になる」「日刊紙読者を毎月1200人、日曜版読者を6000人拡大すれば60カ月で43万2000人が増え、5年後には130万人読者に近づく」といった機械的な拡大方針が掲げられ、赤旗では「やればやれる!」といった?咤激励が日々繰り返されているのである。

 だが、現実は正直で厳しい。第29回党大会(2024年1月)以降の拡大実績の推移がそれを仮借なく証明している。大会・2中総決定推進本部の眼からすれば、この実績は目標水準に照らして著しく不十分なものと映るだろうが、それは目標水準が高過ぎただけの話であって、これが現実の姿なのである。以下は、各月の拡大実績の数字である。
〇1月:入党447人、日刊紙1605人減、日曜版5380人減、電子版94人増
〇2月:入党421人、日刊紙1486人減、日曜版5029人減、電子版74人増
〇3月:入党488人、日刊紙947人減、日曜版6388人減、電子版28人増
〇4月:入党504人、日刊紙74人増、日曜版135人減、電子版72人増
〇5月:入党477人、日刊紙111人減、日曜版564人減、電子版70人増
○6月:入党514人、日刊紙537人減、日曜版3498人減、電子版59人増

 この6か月の入党者数は2851人(月平均475人)、毎月2000人(以上)の目標の僅か4分の1弱(23.8%)にすぎない。また、赤旗読者数は日刊紙と日曜版を合わせて4035人減となり、増紙はおろか減紙を防ぐのが精一杯という状態が続いている。この事実からして、毎月7200人増という目標がどれほど「現実離れ」した数字であるかが一目でわかるというものである。赤旗読者85万人を5年で130万人に増やすという目標がスタート地点で早くも躓き、この先の見通しが全く立たない状況に陥っているからである。

 この拡大実績を基に、今後の党勢拡大の推移を予測してみよう。まずは党員拡大である。2028年末(5年後)の党員現勢を予測する計算式は、「2024年党員現勢25万人+入党者数-死亡者数-離党者数=2028年党員現勢」である。入党者数を月475人、年5700人とすると、5年後は2万8500人となる。死亡者数は第28回から第29回大会までの4年間で1万9814人(年平均4953人)、これをそのまま延長すると2万4765人(4953人×5年)が減ることになり、入党者数の9割近い死亡者数が発生して(2万8500人-2万4765人=3735人)、1割程度しか残らない計算になる。

 赤旗(党員訃報欄)には死亡者氏名、死亡年齢、入党年などが毎日掲載されている。これを合算すると大会間4年間の死亡者数は7442人(筆者算出、年平均1860人、実数の37.6%)となり、死亡者数は年々増えてきている。2024年1月以降6か月の赤旗掲載数1001人を基に算出すると、死亡者数は年5324人(1001人×2÷0.376)、5年間で2万6620人となり、死亡者数が入党者数に近づく(2万8500人-2万6620人=1880人)。

 一方、離党者数は公表されないので、大会ごとに報告される党員現勢の差から推測する以外に方法がない。第28回党員27万人、前大会以降の4年間の入党者数1万6000人、死亡者数1万9814人、第29回党員25万人なので、計算式は「27万人+1万6000人-1万9814人-離党者数=25万人」となる。この結果、離党者数は1万6186人(年平均4046人)になり、この数字が今後も続くとなると離党者数は2万230人(4046人×5年)になる。以上から、予測される2028年党員現勢は「25万人+2万8500人-2万6620人-2万230人=23万1650人、減少率9.3%」となり、第28回から第29回党大会にかけての党員減少率7.4%よりも一段と増加することになる。要するに「30%増」などという目標水準はまさに「砂上の楼閣」であり、「長期にわたる党勢後退」が今後も続くと思わなければならないのである。

 赤旗読者拡大については、毎月の増減数が明示されず差引合計だけが公表されるので一層わかりにくい。どれだけ拡大してもそれに見合う減紙が発生すれば「差引ゼロ」になり、何もしなかった場合と同じになる。しかし、現実には大量の減紙が発生しており、それを公表することは政治的ダメージになるので実態が覆い隠されている。2024年6月末現在、日刊紙と日曜版を合わせて85万人から4035人の減少となった。この6か月間は、拡大はおろか現状を維持することさえ危うい状況が続いていて、恐らく党の実力は「増紙」はおろか「減紙」を食い止めることが精一杯というところだろう。毎月7200人の読者を増勢して、5年後に130万人を実現することなど「夢のまた夢」と言うほかない。

 それでも赤旗は党勢拡大キャンペーンを止めることができない。今日7月2日の赤旗の党活動欄には、「6月の党勢拡大 入党514人、読者は後退」と小さく書かれているだけで、注目していなければ見逃すほどの小さな扱いだった。それでいて末尾には、「全党は党創立102周年を迎える7月、13日の記念講演会を最大の結節点に党勢拡大にスタートダッシュしましょう」と檄を飛ばしているのだから、今後も方針が変わることはなさそうである。一方、大見出しは「ミニ『集い』に入党相次ぐ」と、成果を挙げた個別事例の紹介に大きな紙面を割いている。党勢拡大方針の破綻をあくまでも認めない党中央の下では、拡大実績の客観的分析を通して事態の全容を知らせることはタブーになっているのだろう。だが、個別事例を「針小棒大」に仕立て上げ、「木を見て森を見ない」拡大方針は、遠からずして終末を迎えるに違いない。(つづく)
初出:「リベラル21」2024.07.06より許可を得て転載
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