志位議長は欧州訪問で「共産主義と自由=未来社会論」を語るだけでなく、「共産党と自由=現代政党論」についても語るべきだ、党の実態を語らない対外交流は単なる〝表敬訪問〟にしかならない、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その35)

 9月7日に立憲代表選が告示され、自民総裁選の候補者もほぼ出揃った現在、テレビ局では〝競馬予想〟まがいの報道が加熱している。これに対して党首公選制に背を向けている共産党は、志位議長の欧州訪問記事を連日掲載して「対抗」しているかのようだ。日付を追ってその足跡をたどってみよう。

 〇8月30日、ベルリンに到着した志位議長は、ドイツ左翼党国会議員団副団長と同党前国際部長の案内で社会主義者追悼記念公園を訪問し、コービン英労働党前党首(下院議員)とともに見学した。また、ドイツ外務省を訪問してアジア太平洋総協局長と会談した(赤旗、9月1日)。
 〇8月31日、ドイツのシンクタンク、ローザ・ルクセンブルグ財団主催の国際平和会議「今こそ外交を!」がベルリン市内で開かれ、志位議長はゲストスピーカーとして登壇し、欧州左翼の首脳らとともにウクライナ和平交渉を成功させるための対策を訴えた。また、会議に参加したコービン英労働党前党首とも会談した(同、9月2、3日)。
 〇9月2日、志位議長はローザ・ルクセンブルグ財団本部において同財団ビアバウム理事長の司会のもと、財団の理論・労働・社会分野の専門家らと「共産主義と自由」について理論交流を行った。志位氏は、日本共産党が「共産主義と自由」をテーマに取り組みを強めている背景と動機について、1961年に党綱領路線を確立して以降のマルクスの理論の本来の輝きを現代に生かす歩みを紹介した。党の前進に対して支配勢力が繰り返しの反共攻撃で応えるという政治闘争の攻防の教訓を踏まえて、「共産主義と自由」についての真実を広く国民に伝えることを多数者結集の戦略的課題として取り組んでいると語った(同、9月4日)。
 〇同日、志位議長はベルリン市内のドイツ左翼党本部でシルデワン共同議長と首脳会談を行い、発達した資本主義国の左翼・進歩政党として両党が多くの共通の課題に直面していることを踏まえ、互いに教訓を学びあい、一致点での協力関係を強化することを確認した。シルデワン氏は、極右政党が台頭するなかで左翼党が新しい形のファシズムに対抗し、人権擁護のために奮闘するなかで、この党と共にたたかいたいとこの数カ月で青年を中心に約8000人が新たに入党したことを紹介した(同、9月5日)。
 〇9月4日、志位議長はブリュッセルのベルギー労働党本部で同党のメルテンス書記長と首脳会談を行い、「同じ発達した資本主義国で活動する党として、共通の条件、課題、困難があると思う。教訓を学び合い、連帯と協力の関係を強化したい」と述べた。メルテンス氏は、党の立て直しの苦闘を振り返り、党勢が長く低迷していた中、2008年の党大会で教条主義やセクト主義から脱却する党の「刷新」方針を決め、旧ソ連とも中国とも異なる自主独立の路線を確立したことが、政策的にも組織的にも今日の躍進につながったことを紹介した(同、9月6日)。
 〇同日、志位議長はブリュッセル市内の欧州左翼党の党本部でバイア―議長と首脳会談を行い、軍事同盟強化と排外主義に反対し、平和と人権を守るための国際連帯を深めることに合意した(同、9月7日)。
 〇9月5日、志位議長はブリュッセル市内の欧州連合(EU)の欧州議会を訪問し、欧州左翼党会派議員と会談した。会談には、ベルギー労働党、スウェーデン左翼党、キプロス労働人民進歩党の各派議員が参加した。なお、9月7日には仏共産党のルセル全国書記と首脳会談を行う予定(同、9月7日)。

 志位議長の欧州訪問は、国際平和会議への参加と報告、専門家らとの「共産主義と自由」についての意見交換、欧州左翼首脳との「発達した資本主義国における左翼・進歩党活動の共通課題」に関する意見交換など多岐にわたっている。しかし、志位議長の欧州訪問記事が赤旗の1面トップあるいはそれに準じる扱いで連日大々的に報道され、しかも志位発言の全文が掲載されているように、その重点はあくまでも「共産主義と自由」をめぐる国際交流の意義と成果を党員や読者に印象付けることにある。志位論文の意図を理解するためには読了が前提になるので、「前衛」特大号の「『自由な時間』と未来社会論――マルクスの探求の足跡をたどる」(2024年9月号)に挑戦した。

 当該論文は50万字近い長大なもので(やたらに「注釈」が多い)、読了するには結構時間がかかる。志位氏がなぜこの論文を執筆し、共産党が党組織を挙げて学習運動を展開しようとしているかは、終章に記されている結語を読めば分かる。終章「十、むすびに――戦略的課題として、『共産主義と自由』を学び、広く語り合おう」には、以下のような結びの言葉がある(要約)。
 ――私は、一昨年(2022年)来、日本共産党の『百年史』編纂と二回にわたる党創立記念講演(2022年、23年)にとりくむなかで、日本共産党が1980年以降、長期にわたる党勢の後退傾向が続いていることについてさまざまな角度から検討し、全党のみなさんとともにその打開方策を探求してきました。後退傾向が続いたのはなぜか。そこには党員拡大の「空白の期間」の存在という主体的対応の弱点があったことを、大会では中央自身の反省点として明らかにいたしました。ただ同時に、党勢後退の客観的要因の最大のものが、旧ソ連・東欧崩壊など「社会主義・共産主義の問題」があったことは疑いない事実だと思います。
 ――「社会主義・共産主義には自由がない」。まだ少なくない国民のなかにあるこのマイナスイメージをいかにしてプラスに転じるか。これは大きな課題ですが、決して難しい問題ではないと思います。それをいかに分かりやすく国民に伝えるか。こうした立場から、私たちが第29回大会決議に書き込んだのが、「人間の自由」があらゆる意味で豊かに花開くことにこそ私たちが目指す社会主義・共産主義の特質があることを、「三つの角度」――「利潤第一主義」からの自由、人間の自由で全面的な発展、発達した資本主義国の巨大な可能性――から特徴づけた未来社会論でした。
 ――私は、「共産主義と自由」についての党の理論的探求の成果、すなわち新しい社会主義・共産主義論を全党が深く身に着け、広く語りぬくならば、強く大きな党をつくるための決定的な力になることは間違いないと確信しています。日本共産党はその名が示すとおり、共産主義を理想に掲げている政党であり、私たちは共産主義者の集団です。当面する国民の切実な要求にこたえたたかいに取り組むとともに、「共産主義と自由」の問題を日本の社会変革をすすめる戦略的課題として重視して位置づけ、学び、語り合うことを強く訴えます。

 志位論文の結語は3つの段落で構成されている。(1)日本共産党の党勢後退の最大要因は、旧ソ連・東欧の崩壊によって「社会主義・共産主義には自由がない」というマイナスイメージが国民のなかに浸透したことにある。(2)党勢回復のためには、社会主義・共産主義に対するマイナスイメージを払拭してプラスイメージに転換することが必要であり、これは決して難しい問題ではない。(3)このため、人間の自由は社会主義・共産主義によって全面的に開花することを理論的に明らかにしたマルクスの理論を解明し、学び、広げることが、社会変革の決定的な力になる。

 しかしながら、この結語には重大な問題点が含まれている。
 第1は、旧ソ連・東欧の崩壊が社会主義・共産主義のマイナスイメージをもたらしたことには間違いないが、そのイメージは一片のマルクス主義理論の「解明」によって「プラス」に転換できるほど、そう簡単なものではないということである。社会主義・共産主義に対するマイナスイメージは、旧ソ連・東欧の崩壊によってはじめて広がったようなものではなく、長年にわたって歴史的に植え付けられてきた根強いものだからである。我々世代は幼い時から「アカは怖い!」と絶えず吹き込まれ、それが遺伝子レベルで骨肉化している。若い世代はそれほどまでではなくても「近寄らない方がいい」といった感覚が強い。志位氏は、国民のなかにある社会主義・共産主義のマイナスイメージをプラスに転ずることは「決して難しい問題ではない」などと豪語しているが、これは普通の社会生活を経験したことがない「党活動専従者」としての感覚であって、一般的な社会感覚からは著しくずれている。

 日本国民の多くはなお、旧ソ連・東欧と日本共産党とは無関係ではなく「同質同根」の存在ではないかとの疑念を捨てていない。だから、共産党が国民に開かれた「自由な政党」などとは端から考えていないし、旧ソ連・東欧で起こったことは決して「他人事」ではないと感じている。日本共産党が政権に加われば、旧ソ連・東欧と同じようなことになるかもしれない――との懸念が払拭されていないのである。そうでなければ、2021年総選挙で立憲民主党との間で結ばれた「閣外からの限定的協力」が有権者の思わぬ不安を引き起こし、共産党が議席減(11議席から9議席へ)、比例得票数減(440万票から416万票へ)、得票率減(7.9%から7.2%へ)の三重苦をこうむったことの説明がつかない。

 第2は、日本共産党のイメージを根本から変えるためには、マルクス主義の理論を解明するだけでなく、党改革によって党の体質を抜本的に変えなければならないことである。周知のごとく、日本共産党は「民主集中制」の原則によって、党内外の自由な交流や議論はもとより党内の水平的な意見交換や議論でさえが禁止されている。「党首公選制」を主張した党員が即刻除名されたことも記憶に新しい。党内および党内外の自由な交流や議論が「分派活動」と見なされて処分されるような政党が、いくら「共産主義は自由だ」と叫んでも多くの国民を納得させることはできない。〝論より証拠〟である。共産党のイメージをプラスに変えるためには、「共産主義と自由」を宣伝する前に党改革を自らの手で実行しなければならず、党改革が実現して初めて党のイメージを変えることができる。

 第3は、党改革の一丁目一番地として指導部の新陳代謝が行われなければ、党のマイナスイメージを払拭することは難しいということである。旧ソ連・東欧では特定の指導者が長期にわたって独裁体制を敷き、それが体制崩壊の引き金になったことはよく知られている。日本共産党の場合、定期的な党大会の開催によってその都度指導部の選出が行われることになっているが、「民主集中制」によって自由な議論が制限され、指導部には任期制も定年制もなく党首公選制もないことから、新陳代謝が(きわめて)起こりにくい構造になっている。不破氏は40歳で書記局長に抜擢されてから94歳で引退するまで、実に半世紀以上にわたって党の最高権力者の地位にあった。志位氏もまた35歳で書記局長に選出され、45歳で委員長、69歳で議長になり、不破氏とまったく同じ道を歩んでいる。しかし旧ソ連・東欧といえども、実は〝半世紀以上〟にわたって同一人物が最高権力者の地位にあったことはほとんどないのである。

 私が志位議長の欧州訪問で特に注目するのは、志位氏は「共産主義と自由=未来社会論」を語ることがあっても「共産党と自由=現代政党論」については滅多に語らないことである。志位氏はドイツ左翼党やベルギー労働党などとの首脳会談で、「発達した資本主義国の左翼・進歩政党として両党が多くの共通の課題に直面していることを踏まえ、互いに教訓を学びあう」ことを確認している。ならば、欧州左翼党や労働党との間で「共産党と自由」に関する現代的課題を縦横に論じ、党内外にわたる自由な交流や議論のあり方、指導部選出・交代の具体的条件や方法、新しい党員の迎え方などについて忌憚のない意見を交わすべきであった。ドイツやベルギーをはじめ欧州左翼の多くは党改革に取り組み、旧来の教条主義から脱却してすでに新しい歩みを始めている。「長期にわたる党勢後退」に悩む日本共産党にとっては「共産主義と自由」に関する議論よりも「共産党と自由」に関する経験交流の方がはるかに実りある成果をもたらすと思うがどうであろうか。いずれにしても、志位議長が帰国後どんな報告をするかが楽しみである。(つづく)

初出:「リベラル21」024.09.11より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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