政治・社会の動きと指向線(弐)(参)

著者: 三上 治 みかみおさむ : 社会運動家・評論家
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(弐)

アメリカの大統領にオバマが登場した時のキャッチフレーズは「チエンジ」だった。今さら思い出したくもないという言葉かもしれないが、僕らは時に振り返った方がいい、これは世界的に現在の動きに対して政治や社会の制度が壊れ、その変革を要求する声が強かったということだ。この声はもうオバマの周辺では反故にされたものであれ、オキュッパイ(占拠)などとして存続しているのだ。オバマはアメリカの政治経済的の衰退と軍事経済と金融経済の肥大化による矛盾の深化の変革《転換》による解決をという欲求を背景に登場した。これは戦後の体制と権力の歴史の意志と国民の声の双方からの変革《転換》要求だったが、体制や権力の側から自己保存(既得権益護持)の動きに抗しきれずに妥協し取り込まれた。アフガニスタンへの増兵とリーマン・ショックでの金融機関救済は具体的なその現れだった。オバマは対アジアを軸にした新戦略を提起しているが、これはユーロ危機のため欧州よりアジアに対応軸を移動させているだけで、金融経済と軍事経済が基軸をなすアメリカの政治経済の基盤と構造の保持という点では変わらないのだ。戦後体制を転換しえない限り衰退を続けるアメリカの矛盾(軍事経済と金融経済肥大化の矛盾)である。

日本の民主党は日本においては日米関係の見直しが重要な課題であり、これはアメリカ民主党にもある程度受け入れられる余地もあると踏んでいたきらいがある。しかし、アメリカの民主党政権はこれを撥ねつけ、東アジア共同体へという戦略に対しては拒絶を露わにする形で対応した。自衛艦のアフガニスタン沖からの撤退などが反感を促したといえるが、日本の戦後体制や権力の転換に危機感を持ったのである。この根本はアメリカのアジア警戒があるが、それは軍事的警戒というよりはアジア地域の経済的自立にアメリカの地位の相対的低下(衰退)をより進めるという危惧である。中国の軍事的脅威論を表の看板にしているが、アジアでの通貨の自立が基軸通貨ドルを解体させることを最も怖れているのである。アメリカのイラク戦争が誕生したばかりの基軸通貨ユーロへの対抗として存在したように、アジアでの経済発展に伴い日本や中国の通貨の自立を防ぐことを考えているのだ。基軸通貨ドルの解体は金融経済で世界経済の支配をやってきたアメリカ経済の転換をやらざるを得なくするからだ。アメリカは軍事力で基軸通貨維持を支えているがドルと金との交換停止以降はそれをより強めさせた。アメリカはこの矛盾から逃れられないがゆえに日本に対する政治的・経済的支配を強めるのである。日米同盟の本質だ。

(参)

民主党の政権交代後の変質にはアメリカの民主党政権の変質があることを見ておかなければならない。オバマ政権がブッシュ政権の政治に回帰しているのと日本の民主党政権が小泉―安倍路線に戻っているのと同じである。あるいはそれ以上に反動的なところに足を踏み入れつつあるのだ。この背後にあるのはアメリカの戦後世界体制(政治・社会制度)の保持である。第二次産業経済による高度成長経済の終焉後、かろうじて軍事経済と金融経済の支配力で保持しようとしてきたものの維持である。基軸通貨ドルはアメリカの世界経済支配の根幹だが、実態は失われつつあるのに、制度に固執する矛盾の象徴でもある。

世界史的段階としてアメリカの動向に日本の政治・経済の動向が深く関係していることは言うまでもない。政権交代後の民主党の変質はこれに対応しているのである。以前にアメリカで民主党支持の反戦活動家が民主党の党戦略にブッシュ政権を超えるオルタナーティブの欠如を危惧していたのを思い出すが、日本でも事情は同じだったのだ。曖昧だった民主党政権が急速に日米同盟論に傾斜し、東アジア共同体の重視という考えは消えてしまった。ここで重要な点があると言えば、日本では戦後は政党よりは官僚が政治的支配力を持ってきたというところである。アメリカでも官僚の支配力は弱くはないが、それでも政党の官僚に対する支配力は明瞭である。戦後の日米関係においてアメリカの対日統治の要として官僚を通じた統治があり、これは初期占領政策から続いてきた。アメリカは官僚を代弁者として自身は背後にあって日本に関与してきたがその巧みな構造は「支配なき支配」であった。そして日本では官僚は表に出ないで隠れた統治主体として政党や経済界をコントロールしてきたのだ。アメリカと日本の国家権力の関係は伝統的な官僚の権力を介在させているところが、ことを見えにくくしている。政権交代が目指す部分が対米関係の改変を掲げた途端に官僚主導政治の転換を主張せざるをえなかったのは必然だった。対米関係の改善と官僚主導政治の転換が結び付くのは不可欠だった。日本の政権交代後のアメリカの対日支配の巻き返しは官僚を通じてであり、それ故に官僚の復権を目指した動きだったとも言える。民主党内での小沢一郎や鳩山由紀夫に対する検察を使った排除と民主党首脳の変質である。この帰結はあらためて語る必要はないであろう。これは日本での政治権力が間接民主制であり、それが官僚に有利に機能する政治権力であるということだ。アメリカと官僚と日本の政治権力の特殊な構造を通じた再編劇が進んできたのだ。《続く》

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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