新型コロナウイルスで昨年失墜したのが安倍首相とトランプ大統領、ともに右翼政治家でした。彼らが失墜したのは新型コロナウイルスのリスクを軽視していたことが大きな原因でした。安倍首相は五輪開催のために新型コロナウイルスの危険性を直視することができず、マスク1つすら迅速に配布できない政治家としてその実力が疑問視され、支持率が萎んでついに復元力もなえてしまいました。一方、アメリカのトランプ大統領は失業率を抑え込んだことで年初は再選確実とみる向きもありましたが、新型コロナウイルスで失業率が一時跳ね上がり、世界最大の死者を出し、さらに自らも感染するなど、大衆の怒りと不安を呼んで自ら沈没する有様でした。
ではフランスはどうか、と言えばフランスの失業率は欧州経済危機の後に就任したオランド大統領時代の平均10%超からなかなか下げられなかったのですが、マクロン大統領の時代に7%近くまで下げてきました。ところが、昨年の新型コロナウイルスの広がりで再び9%超に上がり、何とか復興しようとして少し下がりましたが、昨年暮れの段階で未だ8%でした。以下はフランスの国立統計経済研究所(INSEE)の失業率の推移を示すグラフです。黄色い線がマヨット島をのぞくフランス全体の統計値です。
「黄色いベスト」が反マクロンの抗議デモで激しく活動し始めたのは2018年の秋で失業率は未だ8・5%以上ありました。今回のメーデーで黄色いベストが再び活動し始めたという報道もありますが、失業率が8%近くあると不満がたまってきます。ここから再び下げていくのか、また再燃して9%や10%に上がっていくのか、このことは当然来年の選挙に直結するでしょう。
2017年の大統領選挙の決選投票の後にニューヨークタイムズが報じた「フランスはどう投票したか」という分析記事では、マリーヌ・ルペンに投票した地域は失業率の高い地域とほとんどといっていいくらいぴったり符合していたのが印象的です。特に工業地域のフランス北東部では日本と同様に製造業が多く、それが欧州連合加盟の影響で空洞化が進み地盤沈下する長期的なトレンドにあります。アメリカでトランプ大統領を勝たせたラストベルト地帯をまさに思い出させます。さらにフランス東部の国境地域や南東部が国民連合支持者の一大拠点になっています。マリーヌ・ルペンと国民連合(旧国民戦線)はイスラム教の移民に対する敵意を駆り立てる言説を仕掛けて常に住民の不安をあおってきました。失業率がもっと全国的に高まればマリーヌ・ルペンの得票率はさらに増えていくでしょう。興味のある方はぜひニューヨークタイムズのこの分析記事を読んでみてください。
本来、失業率が高まれば社会党に勝機があっておかしくないのですが、フランスでは社会党が分裂と内紛のおかげで勢いを失い、左派統一戦線も選挙の惨敗から3年たっても未だ模索中という有様です。そして近年では絶望した左派の有権者の票を極右政党が吸収するという逆転現象まで起きています。
初出:「ニュースの三角測量」2021.5.3より許可を得て転載
https://seven-ate-nine.hatenablog.com/entry/2021/05/03/053211
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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