日米軍事一体化・指揮権を失っては、独立も失われる ――八ヶ岳山麓から(478)――

  7月28日、上川陽子外相・木原稔防衛相と、アメリカのブリンケン国務長官・オースティン国防長官のいわゆる日米外相・防衛相会談(2+2)に関する発表があった。
 アメリカ側は在日米軍司令部(横田基地)に新組織「統合軍司令部」を設ける。日本側はこれに対応する「統合作戦司令部」を2024年度末までに東京・市谷に設立する。もちろんこれは自衛隊の陸海空3部隊を一元的に指揮するもので、240人規模である。
 現在、在日米軍の実働部隊の指揮や自衛隊との調整は、ハワイにあるインド太平洋軍の司令部が行っている。日本とは時差があるため、この権限の一部を新たな統合軍司令部に移し、自衛隊と直接やりとりしようというものである。
 おもえば、4月のバイデン・岸田会談で同意された自衛隊と在日米軍の「指揮・統制枠組み見直し」が具体的に動き出したのである。パリ・オリンピックの影に隠れてひとびとの関心は薄いが、これは日米の軍事的連携がより一層強化され、自衛隊の指揮権が実際にはアメリカに移るかもしれないという重大な内容を含んでいる。
 
 「指揮・統制枠組みの見直し」には、日米の「軍事面での一体化」のほか、米英豪の安全保障協力の枠組みである「AUKUS」との先端技術分野を巡る協力に向けた協議の開始などが盛り込まれている。木原防衛相は、自衛隊の「統合作戦司令部Jと米軍のカウンターパート関係等の細部は今後日米の作業部会で議論されていくと承知している」と述べた。

 林芳正官房長官は29日の記者会見で、自衛隊と米軍の一体化につながるとの見方を否定し、「自衛隊の全ての活動はわが国の主体的な判断で行われる。(日米が)それぞれ独立した指揮系統に従って行動することに何ら変更はない」と述べた。
 だが、そうはいっても、日本とアメリカは、中国の脅威や北朝鮮の核ミサイルに対抗し、効果的に安全保障協力を行うために指揮統制だけでなく、装備の開発生産・情報の共有・サイバーや宇宙などの分野でも一体化しようとしているのだから、林官房長官の発言はあまり説得力がない。

 かつて中国で教員をしていた時、政治経済に敏感な学生から「日本に外交部があるか」と対米追随外交をからかわれたことがあるが、今日このままだと、「自衛隊は米軍の一部か」と言われそうだ。米軍が自衛隊との協力関係において指揮系統を調整すれば、軍事力・情報収集能力において、圧倒的なレベルにある米軍が主導権を握ることは素人にもわかる。
 そもそも、自衛隊が米軍と連合司令部を設けて指揮統制を一元化することは、元来できない話である。政府の憲法解釈に従っても、「武力行使の一体化」を招くことになるからである。

 7月30日の信濃毎日新聞社説は「指揮権さえ譲り渡すのか」という見出しで、「自衛隊が事実上、米軍の指揮・統制下に組み込まれかねない懸念がある。日米の軍事一体化が、これまでと質的に異なる段階へ踏み込んでいることに目を凝らさなくてはならない」と述べ、さらに「自衛隊の任務と活動は、安保法制や日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定によって大幅に拡大している。肥大化した日米安保体制の下、米軍の戦略に組み込まれ、(憲法の)平和主義がさらに空洞化するのを防がなければならない」と強調した。

 歴史的にも、アメリカは日本をアジア戦略の拠点としてきた。冷戦時代は、在日米軍基地は矛先をソ連に向け、自衛隊もそれに従っていた。ソ連崩壊後の今日では、それを中国に向け、QUAD(=日米豪印戦略対話)にみるように、日米を中心とした対中国略的枠組みを作り上げた。
 今回の2+2の共同声明で見逃すことができないのは、日米両国政府が、アメリカが軍事的に中国に対抗する上で日本を最前線に位置付けていることだ。専守防衛の原則からすれば、自衛隊は日本の領域外で防衛戦を戦うことはできない。だが日本政府は、あえて敵基地攻撃能力を持つとし、アメリカの要請に従い巡航ミサイル・トマホークを購入することにした。米露協定によってアメリカが中距離ミサイルを持たなくなった現状を穴埋めしようというわけだ。

 一方、アメリカは、日本を対中国戦略の最前線に置きながら、他方で中国と首脳レベルの会談や閣僚レベルの対話努力を続けている。バイデン米大統領は、昨年11月、サンフランシスコで習近平主席と会談したとき、「米中が軍事衝突に転じないよう管理する必要がある」と呼びかけ、習氏との間でハイレベルの国防対話を再開することで一致した。 両首脳は4月上旬にも電話会談を行って、今後も緊張緩和に向けた取り組みを行うとした。
 その後、イエレン財務長官が訪中し、オースティン国防長官も董国防部長とのテレビ電話の会談をおこない、ブリンケン国務長官に至っては適時に中国側と接触している。アメリカと中国は対立しながら、台湾問題や南シナ海問題だけでなく、技術・環境・エネルギーなど幅広い分野で話し合いを継続しているのだ。

 それにひきかえ、日本政府はといえば、岸田首相が習近平主席と昨年11月に会談して以降、ハイレベルの日中対話は中断している。日中間には、貿易・エネルギー・投資・反スパイ法問題など課題は山積している。だが、アメリカの対中国戦略を忖度してか、閣僚級の日中対話を意図的に避けているようにみえる。
 そして、中国側もまた、日本をアメリカの目下の同盟国とみて、外交上ほとんど相手.にしない。南シナ海、東シナ海、さらには台湾問題などで、日本の出方に悪罵を投げつけるだけである。

 2+2の共同声明ではもう一つ、米国の「核の傘」による拡大抑止の強化が強調された。上川外相は「核拡大抑止は日米同盟の中核だ」と述べた。米国の核戦力を強調して、ロシアや中国、北朝鮮による核戦力の増強を牽制しようとする意図があきらかだ。岸田首相は、口では核廃絶をうたいながら、核軍縮への動きを牽制し、アメリカの核抑止力への依存を強めている。
 今回の2+2会談の内容は、少なくとも国会で討論し、国民に日米軍事一体化の現実を明らかにする必要がある。そうでなかったら、われわれはあいまいな話しか知らないうちに、アメリカの戦争に巻き込まれてしまう。        (2024・07・31)

初出:「リベラル21」2024.08.02より許可を得て転載
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