日韓両弁護士会の「慰安婦」問題解決の提言について

以下は、大森典子弁護士の投稿ですが、MLなどで、まだ、あまり見られないようなので、転送します。添付ファイルのできないMLもありますので、「提言」を最後に着けましたが、添付ファイルでほしい方は、ご連絡ください。

 本当に、日韓の法律家のプロの提言を、ぜひ、国会で取り上げて法制化し、敗戦後65年経っても未清算の侵略と植民地支配の過去…未だ過ぎ去らざる過去!?…を完了してほしいものです。尖閣問題や、竹島=独島問題以前に、まず、解決すべき課題はこちらだと思うのですけど…

> 弁護士の大森典子です。

> 先日来ご連絡しています日弁連と韓国大韓弁協の共同主催によるシンポジウムが11日に開かれまして、添付しました「慰安婦」問題の最終的解決についての両弁護士会としての提言を発表しました。

> これは内閣その他の関係省庁に弁護士会として持参し、執行するのですが、とりあえず皆様に公表し、ぜひ運動で使っていただきたいと思っています。

>  日弁連も大韓弁協もそれぞれの国のすべての弁護士の強制加入団体です。(すべて日弁連に登録しなければ弁護士としての業務はできません) 

>  したがって日本および韓国の弁護士会の総意として、この提言を日本政府に提言したという意味で、大きな意味があると思っています。是非活用してください。

>  改めて日弁連として何らかの方法でマスコミ等を通じて広げたいと思っていますが、この日弁連のワーキンググループのメンバーとして、皆様にお礼とご報告をいたします。                                   

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 日本軍「慰安婦」問題の最終的解決に関する提言

                            2010年12月

                                   日本弁護士連合会

                                   大韓弁護士協会

はじめに

 日本軍「慰安婦」問題は,女性に対する暴力であり,女性に対する差別の問題である。

 この問題について日本政府は,1993年8月,河野洋平内閣官房長官談話を発表し,この問題が,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であることを認め,被害を受けたすべての人々に対し心からのお詫びと反省の気持ちを表明した。そして,日本政府としての責任の取り方について検討するとともに,歴史研究と歴史教育を通じてこの問題を後世に伝え,歴史の教訓とすることを言明した。

 ところがその後,政権政党や閣僚の中からもこの談話を否定するような発言がなされるなど,この河野談話が日本政府の基本的な立場であることを曖昧にする事態が起こってきた。

 また,その後発足した「女性のためのアジア平和国民基金」は,被害者に対し国庫からではなく日本国民の募金から「償い金」を支払ったために,日本政府の責任を曖昧にするものとの批判を受け,事業を実施した国々においても多数の被害者がその「償い金」の受取りを拒否した。さらに,当初から事業の対象としなかった国も多く,基金自身が認めているように,多くの未解決の問題を残したまま,同基金は2007年に解散した。

 他方,国際社会は,1992年から国連人権委員会や差別防止少数者保護小委員会(人権小委員会)で議論がなされ,1996年にはラディカ・クマラスワミ特別報告者が,1998年にはゲイ・マクドゥーガル特別報告者が日本軍「慰安婦」制度を特に取り上げ,それぞれの報告書の中で日本政府に対する強い勧告を記載した。

 さらに女性差別撤廃委員会では,1994年,2003年,2009年の各日本政府報告審査の最終コメントでいずれも強くこの問題の最終解決を勧告した。同様に国際人権(社会権)規約委員会でも2001年に,拷問等禁止委員会では2007年に,国際人権(自由権)規約委員会では2008年に,それぞれ日本政府に対し勧告を行ったが,国際人権(自由権)規約委員会の勧告はそれまでの各委員会の勧告を集大成するかのように,謝罪と補償,加害者の処罰,市民の教育,事実を否定する企てに反論すること等を含む強力な勧告となっている。

 ILO(国際労働機関)も条約勧告適用専門家委員会の見解として,毎年のようにこの問題は強制労働禁止条約に違反するとの前提で早急な被害者の救済を求める意見を公表している。さらに2007年には,アメリカ下院,オランダ下院,カナダ下院,EU議会の決議として,日本政府に真摯な謝罪と補償等を求める決議が可決され,日本政府に伝達されている。

 このように10年以上にわたって,これほど多くの国際機関から勧告を受け続けた問題は,日本の歴史上かつてなかったといってよい。日本は,改組された国連人権理事会の理事国に自ら立候補し,世界の人権保障の模範となること,及び人権に関する国際条約等の率先遵守を国際的に公約した。この日本政府の立場からみて,女性への差別や暴力を根絶しようとしている国際社会において,日本政府がこの問題の最終的解決を図ることは絶対に避けて通れない課題である。

 日本の国内でもこのような国際社会の動きを受けて,全国で36の市町村議会(2010年11月5日現在)が,政府に対してこの問題を早急に解決するよう求める

意見書等を採択している。

 この問題が日本の社会に明らかになってから既に19年が経過し,名乗り出た被害者の多くが亡くなったり,健康を悪化させている。生きているうちに名誉の回復を,と望んでいる被害者にとって,残された時間はますます少なくなっている。今こそ日本政府は,最終解決に向けて本格的な取組を行わなければならない時である。

 今年は韓国併合条約100年の記念すべき年に当たり,本年8月10日には,菅直人内閣総理大臣が談話を発表し,「歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。

歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち,自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し,ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします。」と述べた。

 上記のように国際社会が日本政府のこの問題に対する対応を注視する中で,この内閣総理大臣談話の趣旨を具体的な本件課題においてどのように実現するのか,日本政府の取組が問われている。

 日本弁護士連合会は,既に1995年に「『従軍慰安婦問題』に関する提言」を発表し,日本政府に対し,①真相の究明,②公式謝罪と補償,③常設仲裁裁判所の利用,④歴史教育における事実の継承等を求めてきた。そしてその後も,繰り返し会長声明等により,この問題の早期解決を求めてきた。

 今年,韓国併合100年のときに当たり,日本弁護士連合会と大韓弁護士協会は,女性の人権の発展を祈念し,日本政府のこの問題に対する根本的最終的解決を求めて,両弁護士会の総意として以下の提言を発表する。

提 言

第1 日本軍「慰安婦」制度被害者の被害救済のための立法を行うこと。その法律には下記の内容を含めること。

1 日本軍が今次大戦及びそれに至る時期において,直接的あるいは間接的な関与のもとに設置運営した「慰安所」等における女性に対する組織的かつ

継続的な性的行為の強制が,当時の国際法・国内法に違反する重大な人権侵害であり,女性に対する名誉と尊厳を深く傷つけるものであったことを

認め,日本国として被害者に対し謝罪すること。

2 日本国として上記の責任を明らかにし,被害者の名誉と尊厳の回復のための措置として,金銭の補償を含む措置を取ること。

3 事業実施にあたっては,内閣総理大臣及び関係閣僚を含む実施委員会を設置し,被害者及び被害者を代理する者の意見を聴取して行うこと。

第2 日本軍「慰安婦」問題のより徹底した全容解明のために,国会あるいは行政府内に調査機関を設けるなど適当な措置を取ること。

第3 教育,広報等を通じて,この問題の真相が社会に広く定着し,さらに広く広がるように配慮する。特にこれまでくり返し明らかにされた日本政府の見解を貶める言説については,政府として反論をし,政府の立場を明確にすること。

提言の説明

1 「日本軍『慰安婦』問題」の名称について

 従来,日本弁護士連合会では「, 従軍慰安婦問題」と呼称してきたが,この呼称に被害者から異論が出ていることも踏まえ,両弁護士会協議のうえ,「日本軍『慰安婦』問題」とした。

2 被害者救済のための「立法」提案であること

 法律を制定するまでもなく,内閣のもとに,この問題解決のための特別委員会あるいは関係閣僚委員会のようなものを作って,内閣の主導のもとで直接行政手続として事業を実施すればよい,という意見もある。

 しかし,事業の目的を明確にし,安定的に事業を実施すること,受給の条件等を客観的に明確にしておくことなどのために,法律の制定は必要である。

3 被害把握の対象期間

 1931年から1945年までとするが,表現としては「今次大戦及びそれに至る時期」とする。

4 対象事実

 旧陸海軍が直接的あるいは間接的な関与のもとに,女性に対し組織的かつ継続的な性的行為の強制を行ったこと,とし,旧陸海軍の行為であることを明確にする。

5 対象事実の評価

 当時の国際法・国内法に違反する行為であったこと,そしてそれが女性の名誉と尊厳を深く傷つけた行為であったことを明確にする。このことは,河野内閣官房長官談話をあらためて再確認することでもある。

6 法の目的

この法律は,日本政府として事実を認め,すべての被害者に対し謝罪し,その名誉と尊厳を回復する措置を定め,実施するための手続を定めることを目的とする。そしてこの「慰安婦」問題の最終的な解決を図ることによって,日韓両国のみならず被害国と日本との間の真の友好関係を強め,人権の伸長と国際平和に貢献することを目的とする。

7 名誉と尊厳の回復のための措置

 名誉と尊厳回復のための措置としては,金銭による補償を含み,その他の方法(例えば医療給付やリハビリなど)もあり得るという含みを持った表現とした。

8 実施の具体的方法

 具体的な事業実施については委員会の設置が必要であると考える。そしてこの委員会の構成には,政府や関係省庁の協力を確保するため,内閣総理大臣をはじめ関係閣僚を含むこととする必要がある。また,被害者の意見を代理するものを含めるとするか,あるいは実施に当たってはこの委員会が被害者を代理する者の意見を聞いて行うとするか,いずれにしても被害者の意見を尊重する仕組みが必要である。

9 全容解明のための措置

 日本軍「慰安婦」問題は,いまだ十分に解明されていない。各政府機関に存在する記録等の開示を含め,日本政府としてさらに徹底した全容解明のための機関を作り,予算措置を講ずるなどのための立法措置,行政措置等可能な措置を講ずる必要がある。それらを含んだ表現として「適当な措置」としたが,内容は前記の実効的な方法を取ることである。

10 教育及び広報について

 1993年に河野内閣官房長官談話が政府の基本的な立場として明確にされ,その後の内閣総理大臣は例外なくこの河野談話の立場を承継すると言明してきた。しかしその内閣の中で閣僚からこの談話を否定するような発言が出され,しかもそのことについて日本政府の立場として非難したり,訂正したりすることなく放置されてきた。そのために,日本政府は極めて不誠実な態度をとっているとの国際的な非難を免れなかった。

 このようなことが再々起こる背景には,日本の社会のなかでこの問題の実情や問題の本質が十分に知られていないことがある。そこで,教育を通じて次代の世代に,また広報を通じて現代の日本社会のなかに,この問題の実相がきちんと定着するようにする必要がある。

 そして,もし今後河野談話を貶めたり,否定する言説が行われた時には,日本政府の立場としてこれを否定し,反論し,政府関係者であればその責任を問う必要がある。そのようにして初めて日本政府の立場が一貫するといえるからである。