朗報 昨年も自殺者減少――アベノミクスの効果か否か――

『朝日新聞』(夕刊)1月16日号によると、昨年1年間の自殺者数は、2万3917人で6年連続減少となった。着目すべきは、1997年以来18年ぶりに2万5000人を下回ったことである。1997年の自殺者数は2万4391人であった。その翌年1998年に爆発した金融システム危機を契機に一挙に3万人台にはね上がった。それ以来10年余3万人台が持続した。2003年には3万4427人の最多自殺者数を記録した。

私の個人的経験だけではないと思うが、最近通勤電車が人身事故でダイヤ通りに運行できなくなる頻度がめっきり減っている。人身事故のかなりが、いわゆる事故ではなく、覚悟のとび込み自殺であるとすれば、上記の統計数字の傾向に合致している。考えて見れば、1997年から1998年のたった1年間で自殺者が2万人台から3万人台へジャンプし、その後10年余その水準を持続していたと言う事実は空恐ろしいことだ。妙なたとえかも知れないが、大東亜戦争でアッツ島ではじめて5000人の兵士が大量玉砕した。それ以後玉砕を避ける戦争指導が目指されるのではなく、反対に玉砕を肯定する戦争指導が強化された。過度な市場競争は一種の戦争である。1998年に自殺者が一挙に1万人増加したとは、アッツ島玉砕が年2回起こった事に相当する。日本国の経済戦争大本営はその後も十数年間玉砕肯定型の酷薄な経済戦争指導を続け、合計すれば、30回近くアッツ島玉砕を惹き起こしたことになる。

マイナス金利政策にイエス票を投じた日銀審議委員の一人に原田泰氏がいる。原田氏の著作『日本を救ったリフレ派経済学』(平成26年・2014年11月、日本経済新聞社)は、一節「経済の好転は自殺者も減らす」(pp.38-40)において経済と自殺の相関を論じている。氏は、1980年から2012年の期間、自殺者数のグラフと失業率のグラフが見事に重なり合う事を図示している(p.39)。更に別の節で「リフレ政策で自殺者が3万人から2万人に減少していくだろう。リフレ政策は、1万人の命を救うことができる。」(p.45)と、経済政策と自殺の関係を書いている。

私=岩田は、『現代社会主義の新地平』(日本評論社、昭和58年・1983年)と『凡人達の社会主義』(筑摩書房、昭和60年・1985年)以来、市場経済の「象徴死」として自殺の持つ社会経済的意味についてエコノミストもまた――と言うのは、ソシオロジストにのみこのテーマをまかせておくのではなく――深考すべきだと主張して来た。今日、日銀審議委員の中に同じ問題意識をもつ人物を見出すとは嬉しいことだ。但し、原田氏がマイナス金利に賛成の意思を決めた時、株価か自殺者数か、どちらがより熱く念頭にあったかはわからない。

平成28年2月2日

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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