朗報・自殺者減はアベノミクスの効果か?

著者: 岩田昌征 いわたまさゆき : 千葉大学名誉教授
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私が近現代の経済社会を考えたり、観察したりする時、近代以前の経済社会的統合作用系である交換、再分配、互酬から出発する。それぞれが近代文明開化の理念である自由、平等、友愛によって牽引されて、市場メカニズム、計画システム、協議ネットワークに制度化・機構化される。すなわち、自由―市場、平等―計画、友愛―協議の三セットが出現する。人々が働きやすい、生きやすい経済社会は、三セットの然るべき節合体である。かかる節合コンビネーションにおいて、どれか一つのセットが突出して過剰になると、近現代経済社会の表の、光の正理念に裏で闇でぴったり寄り添う負理念が鎌首をもたげる。すなわち、市場的経済社会の象徴死=自殺、計画的経済社会の象徴死=他殺、協議的経済社会の象徴死=兄弟殺しである。これについては、私の旧著『現代社会主義の新地平』(昭和58年・1983年、日本評論社)等を参照してほしい。

現在のように自由過剰・市場過剰の経済社会においては、自由競争・自己責任の過剰圧力は、人々を常時不安心理にとらわれさせ、自殺の方向に押しやる。故に、私が11月13日の巴里における乱射大量殺人事件を見る時、殺人=他殺の相よりも乱射者達の自殺の相を重く見る。

ところが、我等が日本国において、私の気持をやや軽くさせてくれるニュースがある。平成26年の自殺者数が2万5427人となって、対前年比1865人減少している。平成10年・1998年以来14年連続して3万人を超える状況が続いていた。しかるに、平成24年、平成25年、平成26年と連続漸減して3万人を下回った。

日本社会における自殺者数は、平成9年・1997年までほぼ一貫して、2万人と2万5000人の間に納まっていた。それが突如として、平成10年・1998年に3万2863人に約1万人跳びはね上がった。それ以降平成23年・2011年まで3万人と3万5000人の間に高止まりしていた。平成9年・1997年のたった1年間で2万2000人台の自殺者が、3万2000人台と1万人も跳びはねる。これは異常だ。その原因とみなされる、病苦が1年で跳びはねるか?失恋苦が1年で跳びはねるか?家族問題が1年で跳びはねるか?やはり、それ以前10年間実行されつづけて来た市場化構造改革の圧力に日本社会が耐え切れなくなって何かが切れたのであろう。その不幸な総括表現が自殺者数の1万人ジャンプであった、と思う。

平成26年・2014年の自殺者数2万5427人は、平成9年・1997年の2万4391人に接近しつつある。平成27年・2015年のそれが更に下回る事を希望する。

かかる自殺者数低下傾向をどう見るか。一つは、あるアベノミクス支持経済学者の語るように、アベノミクスの重要なプラス効果である、とする。もう一つは、市場競争のレベルアップに耐えられなかった弱者はほぼ淘汰されて、強化された市場競争に耐えられる者達が今生きているので、必然的に自殺者数も減る、とする。あるいは、第三の見方があるかも知れないが、私にはわからない。

不快なことの多かった平成27年であったが、自殺者の連続的減少の確認は、唯一の朗報であろう。

平成27年12月22日

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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