(2014衆院選)沖縄、溶ける保革 知事選に続き、全区で自民に挑む
http://www.asahi.com/articles/DA3S11504456.html
2014年12月13日05時00分
候補者の街頭演説に拍手を送る有権者たち=11日午後、那覇市、山岸一生撮影
沖縄県の4選挙区では、米軍普天間飛行場の県内移設の賛否をめぐって政党の枠組みが溶け、従来の「保守」「革新」が入り交じった選挙戦になっている。11月の県知事選で勝利した県内移設反対派は、全区で自民前職に対立候補を立てるが、政党や属性はみなばらばらだ。政党の枠を超え、政策一点でまとまる形は、新しい選挙のあり方につながるか――。
■反辺野古移設、政権と対決
翁長雄志(おながたけし)・沖縄県知事(64)は10日、就任に伴う職員への訓示を終えると、その足で県庁前の選挙カーへと急いだ。車上には、共産党の志位和夫委員長と沖縄1区の候補者、赤嶺政賢氏(66)がいた。自民党沖縄県連幹事長まで務めた翁長氏の知事としての初の政務は、共産党候補の応援演説だった。
翁長氏は車上で「10万票という圧倒的な差で当選させてもらった。新辺野古基地は造らせない。衆院選で赤嶺さんを当選させることが、改めて民意を突きつけることになる」と叫んだ。志位氏も「安倍政権は沖縄県民の民意を一顧だにしない。日本の民主主義が問われている」と続けた。
沖縄では、政党の枠組みが溶解し始めている。
11月16日の知事選では、安倍政権が進める米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非が最大の争点となった。自民推薦で辺野古移設推進の現職、仲井真弘多(なかいまひろかず)氏に対し、那覇市長だった翁長氏が移設反対を掲げ、自民系の一部、共産、社民など党派を超えた「オール沖縄」を掲げて圧勝した。
翁長氏は知事選の余勢を駆って、1区では共産党の赤嶺氏、2区では社民党の照屋寛徳氏(69)、3区では生活の党の玉城デニー氏(55)、4区では沖縄県議長も務めた自民系重鎮で無所属の仲里利信氏(77)を支援する。出身はばらばらだが、辺野古反対の一点で共闘する「オール沖縄」を再現させた。
各報道機関の情勢調査で現有議席を超える優勢が伝えられる自民党だが、沖縄では前職4氏の表情はそろって険しい。
自民党の谷垣禎一幹事長は8日、4区の西銘恒三郎氏(60)の応援演説で「逆風の中、厳しい戦いをしている。安倍政権は沖縄の振興に力を尽くす」と叫び、西銘氏も各地で「アベノミクスで元気にする」と訴えた。
2年前の衆院選で、自民党沖縄県連は「普天間の県外移設」を公約に掲げ、4人の前職も同じように訴えて当選した。しかし、昨年、政権の求めで辺野古移設の事実上の容認へ立場を変えさせられた。西銘氏は「敵は基地問題の『逆風』だ」とこぼす。
ただ、安倍政権に危機感は薄い。知事選で大敗したが、「基地問題の県民投票ではない」として移設作業を進める考えだ。さらに、衆院選の結果にかかわらず「移設を淡々と進めさせていただく」(菅義偉官房長官)という方針を貫く。
全国を飛び回る安倍晋三首相と菅長官だが、沖縄入りだけは「かえって票を減らす」(党幹部)などの理由で見送られた。
■政策一点の共闘、もろさも
知事選で政党の枠を超えて一つになった「オール沖縄」体制。だが、政党が選挙区ごとにしのぎを削る衆院選では、もろさも見える。
「君はいつから共産党になったか、と文句を言ってくる人がいる」。那覇市のある1区。自民系同市議団「新風会」の金城徹会長は、赤嶺氏を支援する会合でこうこぼした。
新風会は、翁長氏とともに辺野古移設反対を訴えたため、自民党から除名されたり、離党させられたりした。知事選での勝利の原動力にはなったが、衆院選では一つにまとまりきれない。共産党の候補者を応援することに抵抗感もあるからだ。
こうした声に共産党側も配慮をみせる。赤嶺氏は翁長氏の選挙事務所を「居抜き」で借り受けた。はためくのぼりは共産の「赤」にこだわらず、知事選で翁長氏が使ったのと同じ、緑地に赤文字。政党色を抑えた。11日に街頭演説した不破哲三・前共産党議長も「共産党」という名前をほとんど口にせず、「知事選はすごかった。今度の選挙では4人全員当選させて、自民党に県民の総意をぶつけよう」と、「オール沖縄」の枠組みに徹した。
新風会では、赤嶺氏の応援は主に金城氏が引き受け、一部は自民党の国場幸之助氏(41)の支援に回る。維新の下地幹郎氏(53)に近い人もいる。別のメンバーは隣の4区に通い、自民系の仲里氏の応援に入る。「共産を応援できない分、こちらで頑張る」という。
「オール沖縄」のかけ声のもと、基地反対の一点で保守、革新の垣根を越えて自民党の候補を打ち破った知事選。衆院選でも政党の枠組みを超えて政策の一致で戦う構図が、「1強多弱」の国政の現状を変える野党の戦いのモデルにならないかという期待感はある。
一方で、翁長氏を支える那覇市議の一人は「我々はステンドグラス。遠目には美しいが、それぞれ色は違うし、もろい」。仮に一つの政策で強く結ばれても、国政レベルで社会保障や財政、憲法などさまざまな重要政策で一致できなければ、「ステンドグラス」がたちまち瓦解(がかい)することも予想される。
沖縄の試みは、小さいながらも、今後の政党や選挙のあり方を問う試金石でもある。(山岸一生)
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大学生 基地問題訴え全国行脚 沖縄犠牲で真の平和か
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014121302000255.html
2014年12月13日 夕刊
在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県の現状を伝えるため、那覇市の大学生知念優幸(まさゆき)さん(23)が、各地で講演をしながら日本一周の旅を続けている。基地問題は県民の暮らしに影を落とす一方、衆院選では議論が盛り上がらないまま。知念さんは「日本の『平和』の犠牲になっている沖縄に目を向けて」と訴えている。 (佐藤航)
フェンス越しに見える古びた石造りの建物。米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の敷地内にたたずむ沖縄独自の「門中(むんちゅう)墓」だ。
「先祖代々の墓がある土地も米軍に奪われている。沖縄には、自分たちのお墓を拝むこともできない人々がいるんです」
衆院選公示から二日後の四日、神戸市内の教会。知念さんはこの旅で百三十二回目となる講演会で、写真を示しながら基地と隣り合わせの日常を語った。米軍機の騒音や墜落、米兵による性犯罪やひき逃げ。「僕らは生まれた時から近くに基地がある。事件、事故が起きても『またか』と思ってしまう」と打ち明けた。
沖縄の現実と歴史を見つめ直そうと、知念さんは地元の沖縄キリスト教学院大に入学してすぐ、友人と地元の歴史文化を学ぶグループを立ち上げた。「学校で教えられる全国一律の日本史でなく、琉球独自の歴史を知りたかった」。修学旅行や研修で沖縄に来る中高生、大学生向けのガイドも担ったが、米軍基地に囲まれるような県民の生活を伝えると、「知らなかった」という反応がほとんど。「本土に問題を知ってもらうには、直接会って話すしかない」。四年生に上がる直前の今年二月に休学し、軽乗用車に乗って全国行脚を始めた。
沖縄から船で鹿児島に上陸。九州から中国、関西を通り、北陸や東北を経て夏には北海道に到着した。その後は太平洋側を南下し、今は再び中国地方を旅している。母校の紹介で各地の教会で講演を重ね、高校や大学でも沖縄の歴史と現在を伝えている。
「沖縄を犠牲にしている今の日本が、本当に『平和』と言えるのか」と問いかける知念さん。いま気がかりなのは、衆院選で基地問題がほとんど議論になっていないことだ。
普天間飛行場の名護市辺野古(へのこ)への移設は、住民の反対をよそに沿岸部埋め立てに向けた調査が進む。十一月の知事選は移設反対派の翁長雄志(おながたけし)氏が圧勝したが、政府は「粛々と進める」と姿勢を崩さず、衆院選でも目立った争点になっていない。
知念さんは「これだけ民意が無視され続けてきたからといって、『今さら何を言っても無駄』とあきらめてはいけない。全国の有権者には沖縄の現状を知った上で、投票に行って意思を示してほしい」と呼びかけている。