Reference: Satoko Oka Norimatsu, Canada’s “History Wars”: The “Comfort Women” and the Nanjing Massacre (Asia-Pacific Journal: Japan Focus)
2016年11月、バンクーバーのサイモンフレイザー大学で映画『沖縄 うりずんの雨』(ジャン・ユンカーマン監督)の上映&監督トークが行われた。ここに「潜入」した杉田水脈氏はその後、この映画会を「反日集会」と呼んで記事を書いたり、そこにいた参加者の写真を撮って無断でネット番組で晒したりの中傷活動を展開した。 |
今になって杉田水脈衆議院議員の差別発言が問題になっているのはなぜかと思ったら、それは、今年の8月に第二次岸田改造内閣で総務大臣政務官という役職につき、にわかに過去の発言が問題視されているからのようだ。山口智美氏(モンタナ州立大学准教授)に教えてもらった。それを受けて、かねてから発信したいと思っていたことをツイートしたのでここでまとめておく。
杉田氏もネトウヨたちも、私たちのことを「反日」「極左」呼ばわりする表現の自由はある。私が杉田氏を右翼、差別主義者と呼ぶ自由があるのと同様に。しかし事実と違うことだけは許せない。表現の自由を超えている。産経新聞があっさりと訂正を認めたのもここの線を引く主張が認められたからであろう。
一番許せなかったのは、英語記事でも書いたように、杉田水脈氏はこの映画会で、バンクーバー地元で歴史家・人権活動家として尊敬されている鹿毛達雄氏に親しげに語りかけ、正面の写真を撮って、カナダの反日活動報告と称して櫻井よしこ氏のネット番組で無断で暴露したことだ。
ここでも日系メディアがスルーするのは、鹿毛さんは日系人に対するカナダ政府の不当な差別を糾弾しただけではなく、大日本帝国の残虐な歴史についても積極的に発言し被害者に寄り添ってきたことだ。鹿毛さんの人権活動はナショナリズムに動機づけられたものではなかった。
先月、鹿毛さんを偲ぶ会が日系ヘリテージセンターで開催されたが、日系社会のたくさんの要人を含む、また先住民族の方々も含む、何百人もの人が訪れた。鹿毛さんを批判していた人もその中にはいた。考えは違っても鹿毛さんの人柄と業績をリスペクトしていたのだろう。
杉田氏が鹿毛さんに話しかけたときも写真を撮ろうとしたときも、きっと鹿毛さんは誰に対してもそうするように、好意的に応対したのだと想像する。その好意を無にして、櫻井よしこ氏の番組でネタにしてせせら笑った杉田水脈氏と櫻井よしこ氏、「恥を知れ」と言いたい。
ツイッターのスレッドはここです。
★★★
この12月は南京大虐殺85周年という大事な節目である。上述の英語記事でも書いたが、杉田氏は南京大虐殺否定にも積極的に参加している。2018年9月19日、「南京戦の真実を追求する会」第七回講演会「外務省目覚めよ!南京事件はなかった」が開催され、杉田氏はそこに招待された4人の国会議員の一人であった(あとの3人は希望の党の中山成彬衆院議員、自民党の原田義昭衆院議員、国民民主党の渡辺周衆院議員、すべて当時)。南京大虐殺は不完全とはいえ日本政府も認めている史実であるが、それさえも不服とし「外務省目覚めよ!」とのたまう集団である。その中で、その当時進行していたカナダの連邦議会が「南京大虐殺を記憶する日」を定めるという動きについて杉田氏や原田氏が発言していたのである。杉田氏は当時も「LGBTは生産性がない」発言で大変な問題になっていた時期だった。杉田氏はこの集会でも、私と鹿毛さんを「(カナダの反日活動の)中心人物」であると名指しで非難した。また、ここでも映画『うりずんの雨』のバンクーバーでの上映会(16年)に行き「潜入ルポ」を書いたことを報告していた。よほどこのときの潜入行動が気に入っていたらしい。議員浪人時代のスリリングで楽しい活動であったのだろう。しかしこの18年の南京否定集会の時点では杉田氏は国会議員に復活していた。国会議員が何百人もの聴衆の前で一般人を名指しで糾弾するその影響力を考えてほしかった。
いずれにせよ、杉田氏の過去の発言を問題視する国会議員やメディアや評論家は、杉田氏による日本軍「慰安婦」や「南京大虐殺」の歴史への攻撃、「沖縄」の歴史と現在を伝える映画会を「反日集会」と呼んで攻撃するヘイトの言動も問題視すべきであると思う。
初出:「ピースフィロソフィー」2022.12.6より許可を得て転載
http://peacephilosophy.blogspot.com/2022/12/blog-post.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12613:221208〕