核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)の声明:米国とロシアは「中距離核戦力全廃条約 」を維持し「 核兵器廃絶の交渉」を始めなければならない

2018年10月20日、ドナルド・トランプ米大統領は、米国が「中距離核戦力全廃条約 [*注1] 」から離脱すると発表した。トランプ大統領は、米国が条約を離脱する理由は、ロシアが条約に違反して兵器の開発を続けているためであると述べた。

この米国の条約離脱発表を受けて、10月24日、IPPNWが声明を出した。IPPNWは1980年に設立されて以来、核戦争を医師の立場から防止するために活動してきた国際組織であり、1985年にはその功績を認められてノーベル平和賞を受賞している。またIPPNWは、2017年にノーベル平和賞を受賞したICANを生み出した母体でもある。今、世界は核戦争がいつ勃発してもおかしくないような危機状況にある。それゆえ、今こそ、わたしたちは、核戦争を防止するために常に尽力してきた、この尊敬すべき国際医師団の重大な訴えに耳を傾けるべきではないだろうか。

IPPNWの声明(英文)へのリンク: https://peaceandhealthblog.com/2018/10/24/inf-treaty/

[*注1] 中距離核戦力全廃条約 (Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty-INF Treaty): アメリカ合衆国とソビエト連邦との間に結ばれた軍縮条約の一つで、中距離核戦力(Intermediate-range Nuclear Forces、INF)として定義された中射程の弾道ミサイル、巡航ミサイルを全て廃棄することを目的としている。中距離核戦力全廃条約は、1987年12月8日、ワシントンDCにおいて、当時のアメリカ大統領ロナルド・レーガンとソビエト連邦共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフによって調印された。条約は1988年5月27日に米国上院により批准され、その年の6月1日に発行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1987年12月8日、中距離核戦力全廃条約に調印するミハイル・ゴルバチョフとロナルド・レーガン(写真:パブリックドメイン)

IPPNW声明:米国とロシアは「中距離核戦力全廃条約 」を維持し「 核兵器廃絶のための交渉」を始めねばならない

〈和訳:グローガー理恵〉

2018年10月24日

[1020日(土曜日)、ドナルド・トランプは、米国が1987年に米ロ間で合意された「中距離核戦力全廃条約」から離脱することを決定したと発表した。今週、この条約離脱決定はジョン・ボルトン国家安全保障問題担当現大統領補佐官によって確認された。下記の声明が、今日(1024日)、IPPNW執行委員会によって出された。]

核保有国の計画や核保有国が続行する核兵器の近代化をめぐり、すでに緊張感が漂う世界状況の中で、トランプ政権による「米国は歴史的な中距離核戦力全廃条約から離脱する」との発表は、深刻な危険性をはらんだ歓迎できないニュースである。

「ようやく得ることができた核兵器配備を制限する条約 ー IPPNWが1980年代の間ずっとキャンペーンし続け、冷戦終結の始まりを記した条約 ー が、トランプ大統領によって、ぽいと投げ棄てられるかもしれないということ、と同時に、米国が正式にイラン核合意を離脱することになっていることに、ただならぬ不安を覚える」と、ビョルン・ヒルト医師・IPPNW議長は述べた。

この新たに生じた東西対立において大犠牲者となるのはヨーロッパであろう。「中距離核戦力全廃条約」が締結されたのは30年前だが、それ以前は、主要国の間で制御されていない軍拡競争があった。当時、もし核戦争が意図的に、もしくは思いがけないミスハップによって勃発していたとしたら、核戦争はヨーロッパで始まり、戦線前線の国々をはじめヨーロッパは全滅してしまったであろうという可能性が高い。1987年にアメリカ大統領ロナルド・レーガンとソビエト連邦共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフが調印した歴史的な「中距離核戦力全廃条約」は当面の急迫した危機を回避した。今、この歴史的な「中距離核戦力全廃条約」が破棄されようとしていることは、世界が再びヨーロッパ・グラウンドゼロの新冷戦状態に突入するのではないかという恐れを差し迫ったものにしている。

「条約に違反したのは相手国である、と米国もロシアもお互いを責め合っているが、このような状況に陥った責任は両国にある」と、アレックス・ローゼン医師・IPPNWドイツ支部議長は語り、さらに「近年の両国における核兵器の近代化や、とくに、準中距離巡航ミサイルの開発ばかりでなく、米国のミサイル防衛システムがルーマニアおよびポーランドに導入されたことやロシアが短距離ミサイルをカリーニングラードに配備したことも明らかに『中距離核戦力全廃条約』の精神に反している。今こそ、交渉のテーブルで、これらの問題を解決する時である」と述べた。

IPPNWは、プーチン大統領とトランプ大統領が、それぞれ異なった時点で、核兵器廃絶について協議する願望があると語ったことに言及し、ふたりの国家首脳に「画期的な核兵器制限条約を終結させることよりも、むしろ米国とロシアがそれぞれ保有する核兵器について幅広い話し合いを始めてほしい」と 訴える。

2017年、国連で122ヶ国賛成により採択された[*訳注]「核兵器禁止条約 (Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons-TPNW)」は、そのような話し合いを開始できる出発点を提供してくれるはずである。2007年にIPPNWによって共同設立された「核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN-International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)」は、大多数の国々が核兵器廃絶を要求した「核兵器禁止条約」を推進するために尽力した功績を認められて2017年ノーベル平和賞を受賞している。

「これらの核兵器禁止条約に賛同した国々、そして世界の人々は核保有国に『50年前に採択された  ”核拡散防止条約 (Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons-NPT) “ のもとに、核保有国は軍備撤廃するという義務に留意せよ』との明確なメッセージを発信している」と、アイラ・ヘルファンド医師・IPPNW共同議長は語り、さらに「米国のBack from the Brinkキャンペーンは、議会および米国大統領が、核戦争を回避する真のリーダーでありたいと願うのであれば、彼らが核戦争を回避するために、どのような手段/方法をとることができるか、を概説している。このことは党派問題であるべきではない。レーガン大統領が『核戦争に勝利することはできないし、核戦争は絶対に戦ってはならないものだ』と語った、あの名高いスピーチのように。是が非でも核兵器軍備縮小へ向かって前進することが必要とされている今の時点で、中距離核戦力全廃条約から離脱するということは核兵器軍備縮小への進路から大きく後退することになるだろう」と述べた。

以上

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[*訳注]  2017年7月7日に採択された核兵器禁止条約:賛成した国ー122ヶ国

反対した国ー1ヶ国(オランダ)

棄権した国ー1ヶ国(シンガポール)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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