12月27日の新聞によれば、非正規労働者の数がついに2000万人を突破したという(その内訳は、パートが967万人、派遣労働者が135万人)。-詳細は総務省統計局などが発表した次の統計表をご参照ください。
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/
http://ecodb.net/country/JP/imf_persons.html
これは大変な数字で、事態の深刻さを十分詳らかにしています。日本の2014年度の全就業者数が、およそ6300万人として、その約3分の1が非正規雇用者で占められていることになります。
しかも、ご存じのように、いわゆる「ブラック企業」が横行し、労働者の権利(まっとうな労働条件)どころか、健康保険なし、補償なし、低賃金、長時間無給労働の強制などによって、実際に労働者の基本的人権まで脅かされている状態が広く日常化してきています。このような劣悪な奴隷労働は、日本人労働者に対してもですが、外国人労働者に対しては、一層過酷な形で押し付けられています。慶応大学教授の金子勝氏は、12月28日付のtwitterで次のようにその現状を訴えています。https://twitter.com/masaru_kaneko
「総務省の労働力調査で、非正社員が2千万人を突破(表6)。正社員は減り、非正社員、特に派遣が増加。また女性やシニアが増加している。景気後退局面が続くと、真っ先にはき出される人々だ。この状況で雇用や社会保障の規制緩和が成長戦略とは狂気です。」
この様な現状一つとっても「アベノミクス」による「好景気招来」のうたい文句が、ただの口先だけの空文句、その場しのぎの「ウソ八百」であることは見え見えだと思われます。
その上更に、安倍政権は以下のような追い打ちをかけています。
「生活保護引き下げを検討―家賃、冬期光熱費相当分」(厚労省)
「原発廃炉費用転嫁容認―全利用者負担」(有識者会議)
「介護報酬引き下げ」…これによって、介護士の人員削減など、サービスの低下が懸念されています。
その結果、(先日12/21付「東京新聞」の「こちら特報部」によれば)「高齢者の貧困が増加している」という無惨な情況が生まれています。
日本の高齢者は2013年10月の統計で、3190万人(全人口の25.1%)で、その約6割が年金だけの生活を送っています。そして年金受給の平均は、年210万円となっていますが、そこには大きな格差があります。厚生年金の受給者は、夫婦で月に平均約23万円ですが、国民年金の受給者では一人月平均で6.5万円でしかありません。しかも年金はこのところ毎年削られています。
更に深刻なのは、無年金者(何らかの理由で年金をもらえない人)が、42万人(2007年の試算)もいます。生活保護世帯は161万2000世帯、そのうち高齢者世帯が75万9000世帯、その内訳は、一人暮らしが25.6%、夫婦世帯が31.1%(2014年9月)になります。
こういう人たちは、どうすれば生活できるのでしょうか。
堤未果さんが『貧困大国アメリカ』というベストセラー本(岩波新書)を書いて今日の米国社会への警告を発していましたが、今や日本もアメリカと並ぶ立派な「貧困大国」なのです。それを更に加速化し、社会的弱者を残酷に切り捨て、毎年大量の自殺者を生み出しながらも、非生産的労働者たる高齢者、障害者、社会的弱者から奪えるものを奪い取り、身ぐるみはぎ取った上で、早くあの世へ送ってしまえというのが、今の政権下で推し進められている「アベノミクス」という無慈悲な政策の本質ではないかと思います。
その一方で、もう一つ「アベノミクス」で注意されなければならない重要な点があります。
それは、こういう国内での社会的格差助長(底辺切り捨て)の一方で、主に大手法人企業への減税措置(2年で3%以上の法人税引き下げ―2015年度税制大綱大枠)、新築住宅などへの税制優遇措置の延長などの富裕層優遇策です。また、「武器輸出三原則」を廃棄し、逆に武器輸出(武器製造会社など)への資金援助を検討し始めたことです。つまり、官民一体(産軍複合体)で武器輸出を促進することで、日本の将来を、防衛産業主軸の武器輸出大国化へと舵を取り、再び武器商人、戦争商売人の手に委ねようとしているのです。だからこそ憲法の平和条項(第9条)は邪魔になるわけです。景気浮揚といういい加減な笛や太鼓を打ち鳴らし、実際には露骨に再軍備化、軍事産業中心の産業再編成を意図しているのが「アベノミクス」でしょう。
社会の二極化はますます進展してきています。富裕と貧困、戦争と平和、強者と弱者、…。
二極化の一方の側の繁栄は、他方の側の犠牲(一層の貧困化と平和の放棄)の上に成り立っています。このままでは、この繁栄が民衆の側に還って来ること(貧困からの脱出と再び平和がもたらされるということ)は決してありえないのです。現政権側に協力すればするほど、ますます自分たちに危険や貧困化が襲いかかって来る構造になっています。このことは明らかな「構造的矛盾」です。
先日(12月20日)の現代史研究会で、白井聡さん(ベストセラー『永続敗戦論』の著者)は、このような戦後日本を支配する悪しき「永続敗戦レジーム(体制)」からの脱出には、「自民・公明」与党政権に対抗する広範な「人民戦線」を作って行くしかないのではないか、と提唱されていました。なかなか説得力のある提案でしたが、その実現には多くの問題があることも考えておく必要があります。
例えば、「反原発」路線一本に絞って考えたとしても、中には、日本で原発を作ることには反対だが、他の外国ではかまわないと考える人もいます。また、憲法9条廃棄を公然と唱える人もいます。原発には反対だが、それ以外では安倍政権に賛成するという人もいます。そういう人たちとの共同戦線(かりに「永続敗戦レジーム反対共同戦線」と呼ぶ場合でも)構築には、もう一つ忘れてならないことがあるように思います。それは、闘いの過程で絶えず新たに生み出される問題に対して、永続的な、かつ真に問題解決を目指す首尾一貫した戦いを求めて行くという姿勢(そのための自覚的な運動の構築)ということではないでしょうか。
そうした基本姿勢に基づいて、その上で白井さんが提唱された「人民戦線」論を真剣に検討していくべき時期に来ていると思います。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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