正月NHK 西高東低

著者: 岩田昌征 いわたまさゆき : 千葉大学名誉教授
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 今年の正月、一日に上野の東照宮、二日に地元の代田八幡、四日に明治神宮に初詣をした。願い事の主筋は、以下の腰折れ二首に示されている。

        冬牡丹元和偃武の神柱烏露のいくさを止めさせ給へ

        木漏れ日のいと清々し神奈備に露烏の偃武を乞ひ願ひけり

 インディペンデント・ソシャリストを自任する大和左彦/岩田昌征としては、モスクワ・レーニン廟に向けて遠くから同じ祈願を送りたい所ではあるが、遠慮しておいた。1920年代、ロシア革命後、ウクライナ建国に関するボリシェヴィキの諸政策にも今日の露烏戦争の一因がありそうだからである。

 正月一日と三日、NHKテレビは、夜の黄金時間帯に例年の如く、ウィーンフィルハーモニーのニューイヤーコンサート(19時~22時)とNHKニューイヤーオペラコンサート(19時~21時)を放映した。第一は、欧州オーストリーの近代古典民族音楽である。第二は、欧州諸民族の近代古典歌唱演劇である。
 それでは、日の本大和の民衆が創作した近代古典民族音楽・舞台芸術は番組のいづこに?! 
 二日の歌舞伎座生中継(18時~20時45分)と芸能きわみ堂(20時45分~9時45分)の中に二演目を見付けた。「二人椀久」と「越後獅子」である。共に古典長唄の歌舞伎踊りである。しかし、中継された歌舞伎は新作であり、演奏された筝は古典筝十三弦ではなく、新筝二十五弦であった。
 古典三曲(筝、三味線、胡弓、あるいは尺八)合奏が完全に消されていたのである。それでも番組を楽しんだかと自問すれば、楽しかったと答えるしかないだろう。満足だったかと自問すれば、足りない所があって、欠けている所があって、十分に満足とは答えられない。そこで夜寝る前に、1990年代の終わり頃買ったCDをいくつか引っ張り出して聴いた。欠乏感がやや静まった。たとえばCrown Record Coの「筝曲手事集 第2集」である。「六段の調」から「千鳥の曲」や「夕顔」など14曲が収録されている。そして面白い事に気付いた。「六段の調」の作曲者八橋検校はバッハの生まれた年に没している。そんな江戸時代初期の八橋検校を除くと、この「手事集」に収録されている日本近代クラシック音楽の作曲者、吉沢検校、光崎検校、菊岡検校等はすべて19世紀の、すなわち江戸後期と明治期に活躍した芸術家であった。
 奇しくもウィーン・ニューイヤーコンサートとニューイヤーオペラコンサートに登場したヨーロッパ近代クラシックの音楽家達、ヨハン・シュトラウス等と同時代を生きていた。
 にもかかわらず、令和日本の正月では、和の古典は姿を見せず、洋の古典は過剰に前景化する。あまりに調和に欠けるのではないか。
 音楽音痴の私=岩田が今年もNHKTVに感じた不満感は、両クラシックの同時代性への世間の無関心に依るのかも知れない。

 去年のNHK大河ドラマの藤原道長を正月に呼び招かば、次のように詠むのではなかろうか。

     この世をば我が世にたらじそ三ヶ月の欠けたることの多しと思へば

          令和7年正月5日

                 岩田昌征/大和左彦

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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