経営を任された米国系コングロマリットの日本支社では派遣社員が本社が開発したコンピュータシステム上で発注作業をしていた。システムは作業者に裁量の余地をほとんど残していない。決められたことを決められたようにしなければシステムが受付けない。それでも経験から派遣社員はシステムのどこにどの程度の抜けがあるのか、その抜けの大きさや癖から、どのような場合ならその抜けを使っても問題にならないかまで知っていた。
派遣社員の頭痛のタネは融通のきかないシステムにではなく、昔ながらのどんぶり勘定の営業が引き起こす支離滅裂な無理難題をどう整理してシステムに通すかということと、派遣社員を見下した正社員の横柄な言動とどう付き合い、自分のなかでどう折り合いをつけるかにあった。
営業マンが客と代理店、その横にくっついているパートナー?と居酒屋営業をしてくる。しばし注文内容もはっきりしなければ、先に処理した注文内容との重複やキャンセルと、認定代理店とその下の代理店の在庫との関係、前回の受注価格と今回の受注価格の違い、今回の受注価格とシステムを通して承認された価格との違い。。。もうごちゃごちゃし過ぎて、営業マンご本人も何がどうなっているのかわからなくなっている。社外の関係者が少なくとも二社あるが、それを営業担当が掌握しきっていない。それをごちゃごちゃのまま、何の事前処理もせずに、注文として派遣社員に発注業務の指示を出したから、いつものように一騒ぎが起きた。
作業しようにも、新しい受注をシステム上で処理する前に、現状の三社に渡る(社内ではないことになっている)在庫と今回受注したとしている製品の重複を調べなければならないし、在庫品の短くなってしまった保証期間を通常の保証期間として客に提供するための社内処理。。。いつものことだが、筋の通らないというか処理しようのない指示がくれば、実務担当者としてのプライドと派遣社員としての鬱憤を晴らさんばかりの、実に論理的な“できない”と“まず、これをはっきりしろ”という押し返しが営業マンに戻ってくる。
寝技や禁じ手を屁とも思わない昔ながらの営業で、実に営業営業した、それしかない営業が派遣社員からのクレームに派遣の分際で何を言ってる、苦労してやっととってきた注文を処理できないはないだろう。言われた通り機械的に処理すりゃいいだけだろうが。いったい何年やってるんだと腹をたてる。英語がろくに分からないから、本来営業が事前にコンピュータシステム上できちんと処理しておかなければならないことをしていない。受注してしまってから後追いの、辻褄合わせだから余計手間がかかる。これも英語の問題で人任せになるから、発注作業の前にかなりの準備作業が必要になる。
超優良企業と評され世界にその名を知られたコングロマリットだが、内実は中小企業を買収してコングロマリットの看板をつけただけだった。社員は買収された企業からきた人たちがほとんどだから、国際ビジネスの環境で英語で仕事とはならない。そこにもってきて、コンピュータシステムが人泣かせで、米国ですらまともに使える営業マンがいなかった。財務の視点しかない経営管理層が自分たちに分かり易いかたちでオペレーション情報を取ることを目的として導入したシステムのため、日常の営業ステータスや受発注、クレーム処理やリペアリターン、何もかもが実務部隊には使い難いというより使えないシステムだった。
あのシステムは絶対にやっちゃいけないことを見せてくれる典型だろう。実務をろくに知らないエリート候補が上の要求をさっさとまとめて外注に放り投げたシステムで、いくらトレーニングしても、使用することを営業マンの成績評価の重要項目とすると言っても、誰もまともに営業ステータスを入力しなかった。しなかったというより、あまりに操作が煩雑すぎて日々の業務で忙しい営業マンにはできなかった。
営業マンと派遣社員、メールでやりとりしたところで、何も前に進まない。数回もメールが行き来すれば発火点に達する。発注業務の担当者では処理のしようのない注文書、そこには前回、前々回の営業のミスを相殺するごまかしすら滑り込ませてあったりするから質が悪い。
メールのやりとりが始まったら放っておけない。放っておけば、口頭での詰(なじ)り合いになるのに大して時間はかからない。発注業務をできるようにするために、まず派遣社員に前処理として何をしなければならないかを確認する。怒る営業をなだめて、こっちで前処理を始めようとする。ここで、しばしば営業の抵抗にあう。派遣社員が生意気だ。。。どうだのと言って前処理に協力しようとしない。その理由は、注文に紛れ込ましたごまかしが発覚するからにあるのだが、頑として認めない。
認めようが認めまいが、頂戴した注文、処理しなければ問題はもっと大きくなる。なんでこんな後始末を社長自らしなきゃならないんだと思いながらも、ごちゃごちゃの解きほぐし、関係者の関係を最低限機能するように保つ、。。。あれもこれも一筋縄じゃゆかない。自分を殺して、明日のために一つでも二つで実際に汚れ仕事をしてみせる。相手あっての作業になるので、気を使うが、作業としてはあきらめないでごちゃごちゃを解きほぐして、コンピュータシステムに突っ込めるかたちにするだけなのだが、誰もしようとしない。
こんなやあんなで、毎日のように営業マンと発注業務の派遣社員の間で一悶着起きる。起きれば必ず営業マンから派遣のくせに、文句ばかり言って仕事をしない、社長のお前が何とかしろと文句を言ってくる。言ってくるのはいいのだが、どちらに理があるのかははっきりしている。文句を言ってくる営業マンの能力が低すぎる。能力が低いだけではなく自覚に欠ける人たち、それも群れをなしたとき、必ずと言っていいほど起きる現象がある。自分や自分たちより立場の弱い人や人たちに自分や自分たちの至らない点の後始末を押し付けた挙句に、xxxの分際で。。。という、口に出すか出さないかは別にして、自分(たち)の正当性、相手の非正当性を当然のありようとして主張する。
xxxの分際でという言葉には言う側の不当がある。
正社員と派遣社員の二重構造が嫌で、上司に承認を得て派遣社員の人に正社員になって頂けないかと何度かお願いしたが、何度お願いしても、きっぱりと断られた。個人の事情もあるのだろうが、その言葉には、あの人間として失格の正社員と同じになる気はない。失礼なことを言うなという響きがあった。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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