消費税増税は本当に参院選の争点なのか-「増税なしの財政再建はありえぬ」は常識

著者: 早房長治 はやぶさ ながはる : 地球市民ジャーナリスト工房代表
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7月11日の参院選が24日公示され、選挙戦がスタートした。だが、雲行きは序盤から異様である。菅直人首相が17日、民主党の参院選マニフェストを発表する記者会見で消費税増税に言及したのをきっかけに、これがにわかに参院選の争点になってしまったからである。

通常国会中から消費税増税を主張していたのは自民党と、与謝野馨氏が所属する立ち上がれ日本の両党である。その意図は、財政についての危機感もあるが、主として民主党の財政に関する無責任さを浮き彫りにすることにあった。

菅首相が消費税増税に言及した狙いは3つあると思われる。第1は、野党から攻撃された場合、民主党にとって最大の痛手となる政治とカネの問題を争点から外すことである。第2は、民主党の財政についての配慮の薄さに対する自民党などの攻撃を逸らすことだ。第3は、菅内閣の大看板である「経済の第3の道――強い経済、強い財政、強い社会保障」を実現するには消費税増税が不可欠となるためである。

菅首相の狙いはほぼ当たった。政治とカネの問題はマスコミの報道や論説からほとんど姿を消した。自民党は財政に関して自らと民主党を差別化することが非常に難しくなった。国民は「第3の道」を信じるまでには至っていないが、菅内閣の経済政策を鳩山内閣と比べて現実的と感じ、受け入れ始めている。

しかし、いま起きている現象は、国民、マスコミとも民主党を中心とする政権に甘過ぎるのではないか。とりわけマスコミが過去の失政に対する責任を十分に問わず、消費税増税についての菅首相の発言を鬼の首でも取ったかのように大騒ぎすることは、国民の判断を誤らせる結果を生むのではないか。

大部分のテレビと新聞の報道では、消費税増税は国民生活を破壊する恐れのある元凶のように扱われている。だが、本当にそうであろうか。生活必需品には軽減税率を設けたり、低所得層向けに戻し税制度を新設すれば、逆進性は相当、解消できる。また、今日のような赤字財政を今後、4,5年続けたら、財政そのものが破綻するだけでなく、経済成長の可能性をなくしてしまう恐れがある。

日本の経済・財政をギリシャと同一視するのは間違いであるが、消費税増税は日本経済の将来にとってマイナスではなく、プラスが大きいといえよう。各種の世論調査を見れば分かるように、「消費税増税なしの財政再建はありえない」ことはむしろ国民の方が理解している。

菅首相だけでなく、自民党も表明しているように、消費税増税やこれと関連性が強い年金など社会保障問題は超党派での協議が望ましい。党派を越えた協議を始めた場合、結論を得るまでに最低1年程度の時間を要するだろう。また、増税に備えて納税番号制度の新設など、制度改革も必要になる。そうしたことを考慮すれば、消費税増税の実施は、菅首相がいうように、2,3年かそれ以上先になると見るのが常識的であろう。

以上のように、消費税増税の実現へのさまざまな要件を考えると、参院選の争点とするのは不適当で、むしろ数年間をかけて国民全体で検討するテーマではないであろうか。
(6月25日記す)

初出:「リベラル21」 許可を得て転載  http://lib21.blog96.fc2.com/

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