三上 治
ある新聞にこんな日本なのに何故円高(?)なのかというコラムがあった。答えは単純でアメリカやヨーロッパは日本よりももっと悪い状態である、というのであった。悪い状態というのは経済的にということであろうが、妙に説得力を感じた。そう言えば新興国として力を誇示していた中国も一時の勢いはない。大震災や原発震災の問題を抱え、円高で苦しむ日本経済の状態が他国より評価されるにしても、日本の経済が悪いことは明らかであるし政治は混迷状態にある。やがてこれが経済の動向に反映されることも予想される。そしてなによりも混迷する日本の政治はその原因が政党や政治家に分かっていないところにある。そこに深さがあるが脱出路もまたそこら辺に発見できるはずだ。
民主党への政権交代が実現した時、誰もが抱いた懸念は彼らの掲げた外交・内政・権力運用について政治理念(構想)を遂行し深めて行く上での基盤形成ができるかどうかだった。官僚の抵抗に対する専門家や知識人の協力によるブレーン編成がその一つだった。同時に大衆的な声にアンテナを延しそれを聞きとる装置がもう一つだった。これはメディアの民意操作に対抗する国民の声の結集ということだった。官僚とメデイアの抵抗に対する基盤形成だった。民主党の政権誕生後の動きはどちらもそれに失敗し自らが変質して行った過程であり、誕生時の政治的理念が解体していくことであった。彼らは何をめざし、何をやりたいのか分からず場当たり的な行動をやっているだけに思える。大震災や原発震災への対応はそれを具現化しただけである。民主党の面々は自分たちの政治力を自覚し、官僚やメディアの抵抗の中で戦略として基盤形成を考えていたかどうか疑わしい。つまり、彼らの政治戦略にそういうものがあったかどうかである。なるほど官僚の抵抗について民主党はある程度は予測しそれなりの構想をもって対処しようとしていた。戦略室の設置などはその一つであった。官邸などに人材を集める努力もしていたように思える。しかし、それらが官僚の抵抗に対抗するものとして機能したかといえばそうではなかったと思う。菅首相のブレーンの位置にいた松本健一(思想家で政治学者)の『週刊文春』上での発言から見ても、民主党の面々にはブレーン形成の重要性が理解されていたとは思えない。官僚の使い方以前にブレーンの使い方が分からなかったように推察できる。それは民主党の政治家の未熟ということになるが彼らの政治理念の曖昧さに起因するのである。民主党に好意的で協力しようとした専門家や知識人はいたはずだ。松本健一もそうだろうがその力を生かせなかった。