湘 北 拙 句 抄

日々の彼方に

ブルネイの 密林の奥 蘭ひらく

 

白鷺(しらさぎ)が 渚歩みて (つま)む魚

 

風紋に ()のひと歩みし 跡探し

 

飲み帰り 冴える星空 桜花(さくらばな)

 

夜叉(やしゃ)来たれ 桜吹雪に 姫と舞え

 

星空の 夜間飛行は 月の上

 

 

《変わる世に》

 

下り坂 何でも言える 国になり

 

平然と ナチに学べと 斜め口

 

街角で 笑む好好(こうこう)() 元はナチ

 

振り向けば せせら笑いの 神が立つ

 

「終戦」の 文字が 泰淳小説に

 

開高健 多弁も鈍る 「汝が母を!」

 

日軍の 地獄図 善衛 辺見庸

 

一直線 『もの食う人びと』 『1()9()3()7()』へ

飢餓線の 満洲難民 神も亡く

 

「満人」に 代わり石臼 引く「和人」

 

「物づくり」「民の掟」が 世を支え

 

独房で カントの仮象に 観る死霊

 

逝く友を アンドロメダの 愛で抱き

 

百合子逝き つぎは俺かと 茜雲

 

鐘降ろし 大砲造る 神が国

 

「母こそは 命の泉」 八重子戦歌

 

帰宅電 ぐずる子あやす 母強し

 

おひとりさん おふたりさんの 子が支え

 

男子産む 定めの(きさき) 九条国

 

昭和日に 米軍ジェット 西東京

 

真夜中に むつ核廃物が 揺れに揺れ

 

レストラン 食前合掌 老女ひとり

 

 

《記録映画「三里塚に生きる」を観て》

 

爆音下 種蒔く農婦 三里塚

 

敵来る 団結ドラム 強打せよ

 

昇り旗 君が代行進 高らかに

 

白ヘルで 団結小屋に 子が集う

 

ブルドーザ 老女の住処(すみか) 粉々に

 

髪乱だし 農婦が(ただ)す 機動隊

 

機動隊 三人死して 彼も自死

 

開港後 一人種播く 三里塚

 

 

《福島菊次郎 追悼句》

 

活写しぬ 「日本の嘘」 菊次郎

 

真実を暴かれ 暴漢送る 闇

 

闘えば 孤立する者 支え(びと)

 

闘いに 疲れてふたり 孤島住み

 

菊次郎 無念ならぬぞ 民うねる

 

 

《シネマの拙句》

 

「切腹」は わが傑作と 笑む達也

 

見えずとも 賊と闘う オードリ

 

すべて無に 巨星 接近 「メランコリア」

 

アジア号 「杉原()(うね)」を モスクワに 

 

細部まで 「対称」重ぬる ヒチ「めまい」

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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