社会理論学会第108回月例研究会のご案内

著者: 岡田一郎 : 社会理論学会事務局長

社会理論学会第108回月例研究会

<岡田一郎:社会理論学会事務局長>

日時:2014年9月20日(土) 14:00~17:00

 

場所:渋谷区笹塚区民会館4階会議室3号

 

【会場案内】

 

渋谷区笹塚区民会館

〒151-0073 東京都渋谷区笹塚 3-1-9

区民会館は催し物に関する質問にはお答えできませんので、会場への電話問い合わせはご遠慮ください。

案内図:https://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/kmkaikan/km_sasazuka.html

 

タイトル:モイシェ・ポストンの社会理論:〈労働〉と〈時間〉による支配に抗して

      

報告概要:本報告では、米国シカゴ大学における社会理論の泰斗、モイシェ・ポストン(Moishe Postone, 1942-)の学説を取り上げる。

 モイシェ・ポストンは現在、シカゴ大学トーマス・E・ドネリー講座教授(近現代史)を務め、大学院ドイツ研究コース、およびカレッジの社会科学部門で教鞭を執る。またシカゴ大学現代理論研究所の副顧問、ユダヤ問題委員などを務める。一九九三年に出版した‘Time, Labor and Social Domination’(邦訳『時間・労働・支配』筑摩書房、二〇一二年)は、資本の時間性とその社会的効果を主題としてマルクス解釈に新たな潮流をもたらし、ジョン・ホロウェイ(『革命:資本主義に亀裂を入れる』)などの思想にも影響を与えている。一九九四年頃からシカゴ大学にてポストンが主催しているSocial Theory Workshop は、二〇年間にわたり政治学、歴史学、社会学、文化人類学など多様な諸分野に人材を輩出している。たとえばハーバード大学大学院教授のニール・ブレナー(Neil Brenner, 都市理論)はこのワークショップの第一世代、ウィスコンシン大学教授のヴィレン・ムーティ(Viren Murthy, 近現代東アジアの政治思想)はより最近の卒業生である。

英Historical Materialism誌は、二〇〇四年にポストン特集号を組んでおり、これには一〇篇に及ぶ『時間・労働・社会支配』についての論文が掲載されている。

またポストンの思想は、ドイツにおける政治運動グループAnti-Germans [Antideutsche] (反米・反帝国主義左翼運動)やKrisisグループ(労働批判)にも間接的に影響を与えているとされる。

ポストンの思想は、マルクスをベースに近代社会批判を展開したフランクフルト学派第一世代(特にマルクーゼ)の問題意識に影響を受けた部分が見られる。

それは『時間・労働・支配』の副題が「マルクスによる批判理論の再解釈(A reinterpretation of Marx’s critical theory)」となっていることや、本書で数章を割いて、ホルクハイマーやハーバーマスらのマルクス解釈への批判を展開し、フランクフルト学派を批判的に乗り越えるという意味で、批判理論の後継者であることを彼自身が自負している様子からも伺える。思想形成的にはドイツにおける指導教授のイーリング・フェッチャーのヘーゲルおよびマルクス解釈(自由時間論)、アイザック・ルービン(商品フェティシズム)、ロマン・ロスドルスキー(資本論形成史)、アルフレッド・ゾーン=レーテル(精神労働と肉体労働)らの影響を受けていると見られる。しかし、『経済学批判要綱』から《時間論》を、また『資本論』から《資本の有機的構成の効果についての理論》を、独自の論理的一貫性をもって抽出し、社会理論化することに成功していることから、学術的にどの流派に属するというよりも、すぐれた理論形成力でオリジナルな解釈を打ち立てた理論家という評価が妥当であるように思われる。

『時間・労働・支配』においてポストンは「マルクスはプロレタリアートの廃絶を唱えた」「資本主義の矛盾は、流通領域と生産領域の矛盾なのではなく、生産領域内の矛盾である」「マルクスは資本主義的生産様式の基盤である《労働》を批判した」「廃絶すべきは、(交換)価値=抽象的人間労働=抽象的時間による支配である」といったテーゼを唱え、既存のマルクス解釈のほとんどすべてを「伝統的マルクス主義」のカテゴライズのもとに、一括して批判する視点を打ち出している。その骨子は、『経済学批判要綱』からマルクスの《時間論》を抽出し、それをもって『資本論』におけるマルクスの《カテゴリーによる批判》のもつ論理的な含意を明示的に取り出すことである。

それによってポストンは、自由放任主義、国家資本主義、新自由主義と三世紀をまたいで表層上の様態変化を遂げながら加速する資本主義のコアにある、変わらない社会支配と動態性のロジックを取り出し、その終焉を予見する。

本報告では、ポストン理論の核心を要約して紹介するとともに、ホロウェイやネグリらの思想との比較を通して、現代社会理論としての有効性の射程について論じる。

 

報告者:野尻英一(自治医科大学)

 

会場費:なし

 

13:10より編集委員会・理事会があります。(参加者は事前に昼食を済ませておいてください。開始時間が変更になりましたので、ご注意ください。)

 

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