広島県福山市に住むYさんが、医療機関で差別を受けた。福山市は、妊婦が風疹に罹り、胎児が先天性風しん症候群になることを防ぐために、市民に、無料で、妊婦や妊娠を希望する女性やその家族に、風疹抗体検査を行っている。http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/hokenyobo/135719.html
Yさんと夫は、7月25日、それぞれが同一の住所が記載された保険証(Yさんは社会保険、夫は国民健康保険)を持って、指定医療機関の一つで検査に臨んだ。以下がYさんから提供された経緯である。
先に夫が診察室に呼ばれ、私は後から呼ばれて入り、椅子に座る。
医師:「あなた税金は払っているの」
私:質問に驚き、言葉に詰まる
医師:「税金は払っているの」
私:「はい」
医師:「住民票はあるの」
私:「はい」
医師:「あなた、対象かどうか確認した?」私が答える前に、医師:「籍に入っているの」。「3年前に婚姻手続を行った」と答えるも、医師は夫に向き直り、同じ質問をする。
夫:「はい」
医師:「もう国籍は変えたの?」
私:「いいえ。変えていません」
医師:「韓国籍?朝鮮籍?」
私:「韓国籍ではありません。朝鮮籍です。日本の制度上、婚姻したからといって国籍が変わるわけではありません」
医師、これには答えず、夫に対し、「あなたは日本国籍?」
夫:「はい」
医師:「じゃあ、日本人だけど外国人と結婚しているということね。あなた(夫)は福山市の検査の対象だけど、あなた(私)はわからないから、今日は自費で出してもらって後で対象とわかったら返すということでいい?」
夫:「はい」
結局、自己負担はなかったということだ。
私はこれを読んで、悪質な在日朝鮮人差別であると思った。
1) 診察室に入っていきなり「税金を払っているの」。「税金を払っている」ことが公共サービスを受ける条件であるかの如くだ。検査に来る全員にいきなりこのような質問をしているとは思えない。これはYさんの名前が、いわゆる日本的な名前ではなく、朝鮮半島にゆかりのある人ではないかと思ったからこのような検査にも資格にも関係ない質問をしたのである。これは明白な差別だ。
2) 「住民票はあるの」という質問だが、保険証を見れば住民かどうかはわかるはずだ。これも、検査に来る人全員に聞いているはずはない。相手の名前を見て、在日朝鮮人のようだから、検査資格はないとでも言いたいのか、立て続けにこのような失礼な質問をする。全体を見て言葉のトーンも上から目線で、相手に対する敬意を欠くものだ。女性蔑視も入っているのではないかと感ずる。
3) 「あなた、対象かどうか確認した」か、と聞いた直後に「籍に入っているの」と聞いたことから、相手を検査の「対象」ではないという疑いの目で見ていることがわかる。「籍に入っているの」という質問は全く的外れである。そもそもこれは日本の人の多くが勘違いしているが法的に「籍に入る」という手続きはない。日本の法律では、結婚したら新たな戸籍ができるのであって、どちらかがどちらかの籍に「入る」のではない。いずれにせよそれは検査とは関係ない個人情報を要求するプライバシー侵害である。Yさんが一緒に来たパートナーと結婚していようとしていまいとこの検査を受ける資格はある(一人で来たって当然ある)。
4) 「もう国籍は変えたの」。これも検査とは全く関係のない質問である。私はカナダに25年間住んでいるが、妊娠・出産したときを含め、医療機関で国籍を問われたことなど一度もない。Yさんと同様に、自分の住む地域の公的健康保険に入っていれば十分であり、在留資格が何か、国籍があるかないかは関係ないし、そういうことを聞くこと自体が人権侵害なのである。
5) Yさんは答える必要もなかったが、「3年前に婚姻手続を行った」と答えた。この医師はその直後に夫のほうに同じ質問をするとは、Yさんの答えを信用していないからである。Yさんを嘘つきと言っているかの如く、Yさんの答えを無視して夫に同じ質問をするというのはこれも女性蔑視の入った人種差別、民族差別、「日本人」ではないように思われる人を差別する姿勢である。
6) 「もう国籍を変えたのか」。この医師の差別度は深まる一方のようだ。繰り返すが、この検査を行うのは福山市民であれば資格があるのであり、国籍は関係ない。ましてや、Yさんが結婚するにあたり国籍をどうするかといった個人的選択について詮索する権利はゼロ、ゼロ以下である。そもそも結婚によって国籍を変える必要などない。この医師の無知が露呈している場面でもある。
7) 「韓国籍?朝鮮籍?」この質問で、この医師の本性が現れたように思う。やはりこの医師は、Yさんが朝鮮半島にゆかりのある人の名前のように見えたから差別を始めたのではないか。在日朝鮮人を意図的にターゲットにした差別のように見える。「韓国籍?朝鮮籍?」という質問で何を知ろうとしたのかはわからないが、日本では「朝鮮籍=朝鮮民主主義人民共和国の国籍」と勘違いしている人が多いので、きっとこの医師もその部類で、「南なのか、北なのか」尋問するようなうつもりで問いただそうとしたのではないか(いずれにせよ検査とは全く関係のない差別、プライバシー侵害である)。
8) 当然ながら、夫に対し「日本国籍?」と聞くことも検査に何も関係がないしこの医師の職権で聞ける質問ではない。
9) このような差別発言を繰り返し挙句の果てにこの医師は、Yさんが検査の対象になるかわからないから実費で払ってもらって、対象とわかったらあとで返すとまで言っている。しかしこの日は結局請求されなかったということは、この会話と、請求の間の時点で「対象である」ということがわかったということなのだろうか。それともこの医師は、差別をしたいから差別を行っただけなのだろうか。「日本人」ではないものは一切の公共サービスを受ける資格がないとでも言うのだろうか。
Yさんは、7月29日、福山市の市民相談課にこの件を報告している。そのメールでYさんはこう書いた。
私が外国的な名前であったことから、このような対応をしたのだと思います。
この検査は市民ならば無料で受けられるものなので、所得税免除の場合の割引があるものではなく、医師の質問の流れから「外国人は税金を払っていないかもしれないから無料受診の対象ではないかもしれない」と考えたのではないかと推測します。また、「日本人と結婚しているから日本人に準じて対象になるかもしれない」と考えたのかもしれません。
納税、国籍、婚姻の有無など、本来受診資格の有無と無関係な質問の連続で不躾な対応であると感じましたし、私も日本で生まれ育った福山市民に違いはないのに大変な疎外感を感じました。
私は納税を怠っていませんが、民主主義社会では税金は公共サービスの原資であって条件ではないにも拘らず、税金を払っていないから公共サービスを受ける資格がないのではという発想自体、優生思想にも通じる危険なものと思いました。
受診した医院は実施機関として福山市で案内されているところなので、他の外国人市民が同じような思いをしないよう、お伝えしておこうと思いました。
Yさんのように、自分の生まれ育った国で、自分に市民としての資格がないかのように扱われるのはどれだけ悔しいことかと思う。この医師と、医療機関と、福山市はこれを差別行為と認め、Yさんに対して誠実な謝罪をするべきである。そして、Yさんや、すべての市民が今後このような屈辱的な差別を受けることがないような対策を具体的に講じるべきである。
このブログでは引き続きこの件の経緯を追っていく。
初出:「ピースフィロソフィー」2020.7.29より許可を得て転載
http://peacephilosophy.blogspot.com/2020/07/y.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion9990:200801〕