土曜日(4日)のちきゅう座・現代史研究会共催の研究会「フォトジャーナリストが見た、原発破局事故・破壊された市民生活」での広河隆一、綿井健陽両氏の報告は、さすがに福島の現場に何度も足を運び、実際に現場で働く労働者たちと親密に接触した人でないと知りえない情報と緊迫感にあふれていた。
この日は参加者は少なかった(90人弱)が、現場に密着した話を聞くことができたのは大変な収穫であった。また、お二人が、会場からのいろんな質問に丁寧に答えられていたのも印象的だ。心からお二人に敬意を表し、お礼を申し上げたい。
報告があまりに生々しく、取材対象の方々に迷惑が及ぶことが懸念されるため、一部はあらかじめ撮影、録音を控えることになった。動画での報告は広河隆一さんの講演部分だけとなることをお詫びしたい。
綿井さんの報告は、ビデオカメラでの撮影、特に現場で働く労働者たちとの実際のインタビューから成っていた。「ひょっとしたら10年後には癌を発症して死ぬことになるかもしれない」と言いながら、それでも食うためにはこんな危険な職場でも働かなければ地元には他に仕事がないという作業者はまた、原発などない方が良いとも言う。しかし、福島1号機の現場労働者の約60%が地元福島出身者だという事実もある。このことは、今日の日本社会における地域問題、過疎問題、都市と農村部の問題などを改めて考えさせられる。「原発問題」とは、ただ危険と隣り合わせというだけの問題ではなく、日本社会の在り方、産業の在り方などの問題でもある。
また地震の直後に作業者が集団で逃げまどう様子がインタビューで回想される。その時点ではもちろん、その後も、東電本社や安全・保安院などからからの具体的な情報はほとんど現場に伝わってこず、主な情報は控室のテレビなどで知るしかなかったという、3日ほど働いて、外で(例えば家に帰って)休憩しなければ、放射能汚染の許容値を越えて危険といわれていること、等々。
政治家や、東電幹部や、安全委員会、安全・保安院の幹部など、特に依然として「安全な原発建設を推進する」と言い続ける政府の「国家戦略室」の面々、これらの人々は一度でも現場作業を実際に経験すれば、認識も少し改まるのではないか。
その1
http://www.youtube.com/watch?v=YI2Ubyhdb3E
その2
http://www.youtube.com/watch?v=KD7paehn2Dk
その3
http://www.youtube.com/watch?v=WZUiYlb_rbQ
広河隆一さんの報告は、チェルノブイリ事故との比較に基づいたもので、画像を使いながらの極めて説得的なものだった
ここでは特に印象に残るものを2~3紹介させていただく。一つは、巷間伝わっていることとは逆に、チェルノブイリの事故に対するソ連の対応は真に素早いものであったということである。人命救助優先の立場から、事故発生後直ちに、住民避難用のバスが多数台用意され、5時間以内には避難が行われていたという事実。救急車や、医者や、技術者や学者、軍隊、消防隊等が緊急に招集され、事故のデータなども詳しく報告されたとこと。彼の説明では、日本のようにデータを隠しまくるようなこと(2ヶ月後の発表など)はほとんどなかったという。彼は、「住民の生命を守ろうとしない国家は、すでにして国家という責任を放棄している」と厳しく指弾する。二つ目は、そのことに関連して、日本から事故調査の名目で派遣された大学教授や医者たちが、その後の小児癌の汚染区域での大量発生にもかかわらず、「癌発生と放射能汚染との関係」を頑強に否定し続けている事実(『ネイチャー』誌の反論によって、やっと一部修正したが)。またそういう教授や医者たちが、今の福島原発事故で、あたかもその道の権威ででもあるかのように講演会や市民交流会などで、相変わらず「かなりの程度までの放射能は健康に無害である」と吹聴して回っているということ、誠にゾッとする話である。
三つ目は、広河さんなどのグループが事故直後に福島第一原発から20キロ以内のところで撮影した写真に基づいての話である。人物の横で、放射能計測機が振り切れているのがはっきり写っている。既に放射能は計測できないほどの量に達していることが分かる。未だ政府機関や東電が「安全声明」を出し続けていた時期と重なる時期にである。この写真が物議をかもしたのは当然だろう。しかし、こちらにはビデオ写真までもあったそうで、彼らはしぶしぶこの事実を追認せざるを得なくなったという。「データ隠し」は何を意味するのであろうか?ひょっとすると、新たな原発建設に障害になるかもしれないものは永久にこれを隠し通そうとしよう、との密約があるのかもしれない。このことこそ、市民生活にとってのパニックの大元ではないだろうか。
ふと漏らした言葉が気になった。「会津若松を除く、全福島県が避難対象区域になりかねないのではないだろうか」
懇親会でも更に興味深い話が聞けたのであるが、それはまた別の機会に紹介したい。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1448:110608〕