第二次トランプ政権を占う

        国際社会の変動に備えよう

畑違いの人物たち-人材のミスマッチ
 橋下大阪府政では、民間人校長なるものが任命された。学校現場に民間企業の効率性を持ち込むべきだと考えたのである。しかしその半数以上が任期を全うできずに職場を去った。ある校長は事務室にあった現金を「拝借」した。ある校長は、懇親会の席で隣り合った、児童の母親のお尻に触った。またある校長は教頭にパワハラを繰り返し、教頭は脳溢血で倒れ、その後任者も同様に倒れてしまった。彼らにとっては、以前の業界では許容される範囲の「些細な不始末」程度のものだったのであろうが、学校現場では許されなかった。

 社会にはそれぞれ業界文化がある。とくに用語である。英語では”technical term”あるいはjargon”という。警察小説に親しんだことのある人ならわかるが、ヤクザの世界には「タタキ」とか「鉄砲玉」などの特殊な用語があり、所作とか仕草とかにも独自の意味がある。それらを知ることなく、その世界に入っても「余所者」として居場所のない状況に置かれる。何らかの事情で馴染みのない業界に指導者として押し込まれても、よくて「役立たず」、悪ければ「厄介者」で終わる。民間人校長はその格好の事例である。 

トランプ氏への政権移行
 組閣作業が進行中のトランプ次期政権のニュースを聞いて、この話を思い出した。閣僚に指名されているうちの何人かは、それぞれ畑違いかそれに近い人物であることが指摘されている。司法省長官に指名された人物はすでに本人が辞退した。17歳の女子高生を買春した容疑を否定しきれなかった。アメリカでは日本以上に未成年相手の性行為は厳しく罰せられる。重罪の容疑がかかっている人物が司法省のトップというのはさすがに通用しなかったし、彼には、弁護士資格をもって検事を務めるなど、司法の世界での職務経験はなかったから当然の結論である。

 国防省長官に指名されたヘグセス氏も、性的暴行の容疑と酒癖の悪さなどから、指名から外される可能性が出ている。彼の軍務経験は州兵としてのものであり、この数年はトランプ氏を支持するテレビ局の司会者だった。アメリカの州兵とは連邦国軍の一部ではなく、州知事の指揮下にある警備兵組織でしかない。そのような人物が核兵器も含む世界最強の軍事組織の頂点に立つことは世界にとっても危険でしかない。彼が国防総省の長官の椅子に座って、部下たちの報告を受けても意味が分からず、仕事にはならないだろう。

 教育省長官に至っては、プロレス団体の元代表だった女性である。SNS上では彼女がリング上でふざけている様子が今でも見られる。トランプ氏は選挙中、教育省の廃止を主張していたから、彼女が必殺技を出して一気に組織を廃止に持ち込むことを期待しているのかもしれない。アメリカの教育省は日本の文科省と異なり、障害児教育など特別な教育プログラムを用意する教育委員会に予算をつけるなどの仕事をしているので、廃止されると社会的弱者の切り捨てになりかねない。

 またトランプ氏は親族を大使などに任命しようとしている。アメリカの大使ポストは、大統領選挙に多額の献金をした見返りに提供されることはよくあり、かつて任命された本人が国名を聞いて「その国って、何処にあるの?」と言ったという笑い話のような事例もある。親族を当てることは、トランプ氏の「人脈」の貧弱さを示しているといえよう。
 アメリカでは閣僚や大使の任命には上院の承認が必要である。強力な権限に基づいて調査され公開の聴聞も行われ適格性が厳しく追及される。過去にも指名された閣僚たち全員が無事に承認された例は少ない。トランプ氏の任命手続きは通常以上の困難が確実視されている。

 新設の政府効率化省長官にイーロン・マスク氏が指名され、ワシントンの官僚組織の効率化に取り組むのだそうだ。彼は旧ツイッター社を買収した際、約8割の社員を解雇した。多くのSNSは私企業によって運営されているが、それらは公共の広場になっているともいえる。なかには排泄物(ヘイトや差別的なメッセージ)を散らかす輩もいるから、せっせと掃除するなどの維持管理作業が必要である。

 人員整理後の現Xでは掃除が行き届かなくなり、不心得者たちが半ば野放しになっている。日本の同サイトでも、聞くに堪えない言辞が溢れ、先の兵庫県知事選挙でも、対立候補を攻撃するデマなどが拡散され、選挙結果に影響を与えたのではないかと言われている。
 もしもマスク氏が中央官庁の機械的な人員削減を提案し、トランプ氏がその通りに実行したとすれば、連邦政府の混乱と混迷を招来し、アメリカ自身の国力の衰退を招くことになる。アメリカと対立する国の指導者にとっては美味しい「敵失」となるであろう。

トランプ政権との交渉
 トランプ氏のゴルフは不正(ズル)することで知られている。スコアを誤魔化す、ボールを蹴って運んでしまうといった具合である。トランプ氏の辞書にフェアプレイという語はないようだ。彼にとってスポーツも交渉ごともすべては勝負であり、相手との間でウイン・ウインの関係が成り立つとは思っていない。多くの不動産業者の習性として、交渉とは「カモるか、カモられるか」でしかないと考えている。だから外交交渉においてもズルは許されると考えているはずだ。

 最近、隣国のカナダに対して25%の関税をかけると発言した。慌てたカナダのトルードー首相がフロリダのトランプ邸を訪問した。その際、トランプ氏は「関税を避けたければ、アメリカの51番目の州になってはどうか」と発言したといわれる。イギリス国王を名目上の元首に置き、アメリカにとって最も重要な同盟目の一つである国家に対して許されない非礼であるが、その後も、SNS上で「トルードーgovernor(知事)」と書いて投稿するなど、非礼を繰り返している。トランプ氏にしてみれば、挑発的な言辞を続けて交渉を有利にしたいのであろう。しかしカナダの議会では、かつてはトランプ氏に好意的だった議員も含め、一致して強く反発し、アメリカ中西部を中心に輸出している天然ガスの禁輸さえ議論されている。

 なお、安倍元首相はトランプ氏と良好な関係を維持した数少ない指導者と言われていたが、国際的にはそうは評価されていない。彼は交渉の場面では積極的に下手を打って速やかに負け、阿諛追従に徹することで攻撃を避けるように振る舞っただけである。第二期のトランプ政権との交渉では、先方の顔色を窺ってばかりいれば、安倍政権時代のような立場に置かれるだけである。

混乱する世界のなかで
 トランプ氏は先日、アメリカのテレビ局のインタビューに応じたが、質問者の鋭い質問に対して顔を紅潮させ、ほとんど無意味な言葉を繰り返していた。その様子を見ても、彼の知性や判断力は在任中にますます低下していくと感じられた。古来、そのような王の宮廷では佞臣たちが権勢を振って政治は機能不全に陥っていくのが常である。すでにアメリカの新聞の政治漫画では、トランプ氏の乗る車の彼の座席にハンドルがついているが、それはダミーで、実際には副大統領のバンス氏たちが握っているという様子が描かれたりしている。

 プーチン大統領のロシアはウクライナ戦争にかまけているうちに、中東の拠点として維持していたシリアの足場を失いかけている。中国の習近平政権は長引く不況からの脱出の見通しが立たずに不安定化している。隣国韓国では戒厳令騒ぎである。アメリカはトランプ政権のもとで混乱と衰退に向かう。先進国の仲間からすでに脱落している日本としては、このような世界と自身の足元を冷静に見つめながら次の進路選択を決めていく時に来ている。

初出;「リベラル21」2024.12.14より許可を得て転載

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