2017年 年の暮れードネツィクにて:砲撃で破壊された住宅建物を行き過ぎる人たち
[Source: UNICEF/Ashley Gilbertson(file)]
はじめに:ウクライナ紛争を巡る最近の情報
《国際司法裁判所がテロとMH17墜落事件について判決を下す》
2024年1月31日、国際司法裁判所(ICJ)は、ロシアはウクライナの分離主義者を擁護するためにテロリズムに資金を提供していないと裁定し、マレーシア航空17便撃墜の罪はロシアにあるというウクライナの告発に裁定を下すことを拒否した。
この訴訟は2017年にウクライナが国際司法裁判所に起していたものである。
国際司法裁判所 (ICJ) によるMH17便に関する判断は、欧州司法裁判所 (ECJ)が 「オランダ政府は事件に関する情報を公開する必要はない」と判断した2週間後に下された。この提訴は、オランダのニュースメディア『RTL Nieuws』によってなされたもので、RTLはオランダ政府がMH17便が撃墜された前に、ウクライナの領空についてどのような報告を受けていたのか、その情報の公開を求めていたのだが、オランダ政府はそのデータを開示することを拒否していた。 欧州司法裁判所は、オランダ政府は航空安全に関する情報を開示する必要はないとの判決を下していた。
《ドイツ人の64%がウクライナでの戦争は敗北したと考えている》
最近、ドイツのフォルサ社会調査・統計分析有限会社(Forsa Gesellschaft für Sozialforschung und statistische Analyse mbH)が行った世論調査によると、64%のドイツ人がウクライナは戦争に敗北したと考えている、とのことだ。一方、まだウクライナがロシアとの戦争に勝てると考えている人は、回答者の3分の1しかいなかったという。
米国のベテラン諜報専門家たちが「第三次大戦を避けよ」とバイデン大統領に警告
ウクライナが戦争に負けたと考えているのはドイツ市民だけではない。 米国のベテラン諜報専門家たちも同様に、彼らの場合は諜報専門家としての確信をもって、「ウクライナは戦争に負けたのです」とバイデン大統領にあてた覚え書きの中で言明している。
2024年1月25日、米国のベテラン諜報専門家たち”VIPS”は、バイデン大統領に「第三次世界大戦を避けよ」と警告する覚え書きを送った。覚え書きには「ロイド・オースティン米国防長官が『ウクライナにおける米国の目標のひとつは、弱体化したロシアを見ることであり、米国は、ウクライナがロシアとの戦争に勝利するのを助けるために天地を動かす準備ができている』と述べたことに言及し、米国は核兵器の使用なしにロシアを敗北させることができない、とバイデン大統領に警告している。
【*注】VIPSとは: ヴェテラン・インテリジェンス・プロフェッショナルズ・フォー・サニテ(Veteran Intelligence Professionals for Sanity -VIPS ー仮訳: 健全を目指すベテラン諜報専門家たち)。 米国インテリジェンス・コミュニティーに属する元インテリジェンス・オフィサーから成る小さなグループ。グループは、2003年1月、「米国/英国のイラク侵入」に基づき、誤った情報の使用に抗議するために、「太平洋岸から大西洋岸までのエンタープライズ」として形成された。
このVIPSの覚え書きを和訳してご紹介させていただく。 原文へのリンクは:
https://consortiumnews.com/2024/01/25/vips-memo-to-biden-avoiding-a-third-world-war/
ー なお2014年に、VIPSがウクライナ危機に関して、オバマ大統領およびメルケル首相に出した公開書簡の和訳がちきゅう座に掲載されてありますので、興味のある方は下のリンクでご参照なさってください:
➀ 米国のベテラン諜報専門家達が、オバマ大統領に「ウクライナの証拠を公開せよ」と要求
➁ 米国のベテラン諜報専門家達が、メルケル独首相に公開書簡を提出: 「ロシアの侵入に関する情報」について警告
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VIPSの覚え書き:バイデン大統領へー第三次世界大戦を避けるために
たとえ対外冒険が国庫を枯渇させて帝国の衰退をもたらしたとしても、いかなる政策失敗の経験も、その卓越性に対する信念を揺るがすことはできない。
2023年2月20日、キエフにて: ジョー・バイデン米大統領と ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領 (White House/Adam Schultz, CC BY-ND 2.0)
2024年1月25日
警報メモ:大統領へ
差出人:Veteran Intelligence Professionals for Sanity -VIPS (ヴェテラン・インテリジェンス・プロフェッショナルズ・フォー・サニティー )
題目:損の上塗り ー 情報空白状態での決定
親愛なるバイデン大統領へ
我々は、2023年1月26日付の閣下にあてた覚え書きで、アヴリル・ヘインズ国家情報長官が、ロシア軍には、ウクライナによる来るべき攻撃に対する準備が充分に整っているのかどうか疑わしいとの懐疑的見解を示したということについて、とくに言及しました。彼女は、ロシアが ”驚くほど急速に” 弾薬を使い果たしていて、使い尽くしただけの弾薬を自国で生産することができないでいる、と述べました。
閣下はウクライナにエイブラムス戦車 [M1エイブラムス」を送ることを承認したばかりでした。 我々はこう書きました:
『新に約束された兵器類のどれも、ロシアがウクライナ軍の残存勢力を打ち負かすのを阻止するものにはならないでしょう。 もし閣下が、そんなことはないと告げられていたのでしたら、諜報機関顧問や軍事顧問を有能な専門家たちに代えてください。– 早ければ早いほど良いです。』
ロシアはすでに負けてはいない
2023年7月13日、閣下は、「プーチンは ”もうすでに戦争に負けたのだ” 」と述べました。 閣下は、その一週間前に、ウィリアム・バーンズCIA長官が、ワシントン・ポストに寄稿した論説の中で、「プーチンの戦争はロシアにとって、すでに戦略的失敗であり、ロシアは軍事的弱点を露呈した」と書いたことから、そのヒントを得たのかもしれません。どちらのステートメントも間違っています。 また、ジェイク・サリバン[国家安全保障担当補佐官] が最近、主張したように「戦争は “膠着状態”である」ということも正しくありません。
ウクライナが戦争に負けたのです。 そして、このことは今後数週間できわめて明らかになるでしょう。 交渉への見通しがないとすれば、核兵器以外、ロシア軍の慎重だが容赦ない進撃を阻止することはできないでしょう 閣下は、第三次世界大戦を避けたいと述べました。 それが核兵器 (”小型”核兵器も含めて)の意味するところなのです。
杓子定規的な愚鈍さ
この歴史的な岐路において、我々は歴史家がどのような英知を呈してくれるものか、模索するかもしれません。ここで、バーバラ・タックマンの大いに関連性のある著書『The March of Folly: From Troy to Vietnam [愚行の世界史――トロイアからヴェトナムまで〕』を紹介します:
『杓子定規的な愚鈍さとは【*訳注】….. 不利な兆候を無視または否定しながら、固定された先入観に基づいて状況を評価することである。それは、事実によって方向を変えさせることを許さず、願望に従って行動することである。』
その一例として、タックマンは16世紀のスペインのフェリペ二世を挙げました:
『彼の政策失敗の経験は、その【訳注:政策の】本質的な卓越性に対する彼の信念を揺るがすことができなかった。』 結局、フェリペは権力を蓄えすぎ、海外での冒険に失敗することで国家歳入を流出させ、スペインの衰退をもたらしました。
ロイド・オースティン米国防長官は火曜日、 ウクライナにもっと多くの兵器を供与するために、米国の同盟国に対して『深く掘り下げよ』と訴えました。これは、『穴に嵌ったと気づいたら掘るのを止めろ』という、より口語的な警句を思い出させるものです。
オバマの見解
我々は、フェリペ二世まで5世紀も遡る必要はありません。ご記憶される通り、オバマ大統領はウクライナに兵器を送るという超党派の圧力と対決しました。 ニューヨーク・タイムズによれば、彼は側近に「ウクライナ人を武装させるということは、彼らに、もっとはるかに強力なロシア人を実際に倒すことができるのだという考えを持たせることを助長することになり、そのためにモスクワから、より強力な反応を引き起こす可能性がある」と警告したということです。
最後に、ウラジーミル・プーチン大統領を偏執症として退けようとする試みは嗅覚テストに合格しません。 プーチンはオースティン長官の口から次のことを聞きました:
『ウクライナにおける米国の目標のひとつは、弱体化したロシアを見ることだ…米国は、ウクライナがロシアとの戦争に勝利するのを助けるために天地を動かす準備ができている。』
我々の一年前の締め括り警告は繰り返す価値があるようです:
『米国はオースティンの目標を達成できるでしょうか? 核兵器の使用なくして達成することはできません。
このように、概念的に ー 非常に危険な ー 大きな分断があるのです。 簡単に言えば、「ロシアとの戦争に勝つこと」そして「第三次世界大戦を回避すること」 は不可能なことのです。我々の国防長官・オースティン氏が、これが可能であると考えているかもしれないということは、実に恐ろしいことであります。 いずれにせよ、クレムリンはオースティン長官がそう考えているものと推測せざるを得ないでいます。 したがって、これは非常に危険なファンタジーなのであります。
進んでお役に立ちます
最後に、我々は4年に一度、すべての大統領候補者たちに助力提供することを再度発表しようとしています。これには、もちろん、あなたも含まれます。
VIPSステアリング・グループ (VIPS Steering Group)
ボグダン・ザコビッチ、 元連邦航空保安官および連邦航空保安局レッドチームのチームリーダー、FAAセキュリティ(退役)(準VIPS)
グラーム・E・フラー、国家情報会議副議長(退任)
フィリップ・ジラルド一世、C.I.A.、オペレーション・オフィサー(退役)
マシュー・ホー、元米海兵隊大佐(イラク)、海外勤務職員(アフガニスタン)(準VIPS)
ラリー・C・ジョンソン、元CIAおよび/国務省テロ対策担当官
ジョン・キリアコウ、元CIAテロ対策担当官、元上院外交委員会上級調査官
カレン・クウィアトコウスキー 、元米空軍中佐(退役)、2001年から2003年まで国防長官室にて、イラクに関する嘘の捏造を注意深く見守ってきた。
リンダ・ルイス、アメリカ合衆国農務省・大量破壊兵器対策政策アナリスト(退官)
レイ・マクガヴァン、元米陸軍歩兵/情報将校、CIAアナリスト;CIA大統領ブリーファー(退役)
エリザベス・マレー、元国家情報会議・副国家情報将校(近東担当)、CIA政治アナリスト(退役)
トッド・E・ピアース、少佐、米陸軍法務官(退役)
ペドロ・イスラエル・オルタ、元CIAおよび諜報機関(監察総監)職員
スコット・リッター、元米海兵隊少佐、元国連兵器査察官(イラク)
コリーン・ラウリー、FBI特別捜査官、元ミネアポリス支部法律顧問(退官)
ローレンス・ウィルカーソン、大佐(米国、退役軍人)、ウイリアム・アンド・メアリー大学・特別客員教授 (準VIPS)
サラ・G・ウィルトン、米海軍大将(退役)、国防情報局(退役)
アン・ライト、引退した米陸軍予備役大佐、2003年にイラク戦争に反対して辞任した元外交官
ー翻訳終わりー
以上
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【*訳注】杓子定規的な愚鈍さ (Wooden-Headedness ):Wooden-Headednessという言葉について: 英和辞書には、”愚鈍さ、頓馬さ、間抜けさ”などという訳がありますが、AI翻訳ソフトウェアーをチェックしますと、「唐変木」とか「木偶の坊」といった訳が出てきます。
訳者(グローガー理恵)は、これらの訳は”Wooden-headedness”という言葉が含意するものを充分に表現していないと考え、これを”杓子定規的な愚鈍さ”と訳しました。 ちなみに英英辞典には、Wooden-headednessのコノテーションが次のように説明されています:
「柔軟性のない硬い木片のように、強情で愚かで、融通が利かず、自分の考えや行動を適応させたり変えたりすることができない人のことを指す。この言葉は、知性の欠如や頑固さを象徴する蔑称として使われることが多い。」
すなわち、”Wooden-headedness”という言葉は、単なる愚鈍さという意味だけではなく、柔軟性がなく融通の利かない杓子定規のような愚かさを含意した表現であるということです。
参考にした情報:
国連ホームページ:https://news.un.org/en/story/2024/01/114610
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13556:240215〕