米国歴史協会が安倍政権の歴史歪曲を批判

米国歴史学会の月報『パースペクティブ・オン・ヒストリー(歴史展望)』の2015年3月号に「日本の歴史家たちを支持する」と題したアレクシス・ダディン署名の「編集者への書簡」が公表された。同書簡には20名の歴史学者が名を連ねている。

第2次安倍政権成立以後、安倍政権の歴史歪曲主義については、世界中のメディアが警戒感を示しているが、米国の歴史学者たちは、安倍政権が、歴史学的業績について、国内外の歴史教科書を直接標的にし始めたことに「驚愕と失望(dismay)」を表明している。

以下に全文を拙訳でお届けする。

 

http://www.historians.org/publications-and-directories/perspectives-on-history/march-2015/letter-to-the-editor-japan

 

日本の歴史家たちを支持する

アレクシス・ダディン

2015年3月、編集者への書簡

米国歴史学会月報『パースペクティブ・オン・ヒストリー(歴史展望)』2015年3月号

 

歴史家として我々は、婉曲的に「慰安婦」と名づけられた人々に関する、日本と他国における歴史教科書の記述を抑圧しようとする日本政府による最近の試みに対し、驚愕と失望を表明する。これらの人々は、第2次世界大戦中の日本帝国陸軍における野蛮な性的搾取制度の下で被害を受けた人たちである。歴史家たちは、搾取された女性の数が数万人であったのかそれとも数十万人であったのかについて、また、軍隊が彼女たちの調達において果たした正確な役割は何であったかについて、論争を続けている。しかしながら、歴史家である吉見義明による日本政府の保管する公文書の慎重な調査や、アジア中の生存被害者の証言によって、国家主導の性奴隷制に等しい制度の本質的特徴については、異論の余地がない。生存被害者たちは、将兵によって強姦されたことや、逃げようとして殴打された経験などを語ってきた。

安倍晋三首相の現政権は、愛国的教育を推進しようとする努力の一環として、慰安婦に関する立証済みの歴史を声高に疑問視し、教科書における慰安婦への言及を排除しようと努めている。日本の保守派の政治家たちのうち、ある者は、国家の責任を否認するため、法律万能主義的議論を展開し、またある者は生存被害者たちを中傷してきた。右翼の急進主義者たちは、慰安婦制度や被害者の話を記録しようとしているジャーナリストや学者たちを脅迫し、恫喝している。

我々は、自国のために歴史を物語ろうとしているのが日本政府だけではないことを承知している。米国においても、州や地方の教育委員会が、例えば、アフリカ系アメリカ人に対する奴隷制の説明を曖昧にしたり、ベトナム戦争に関する「非愛国的な」言及を削除するよう、教科書を書き換えようとしてきた。2014年、ロシアは、第2次世界大戦中のソ連の活動に関して政府が誤った情報と見なすものの拡散を処罰する法律を可決した。アルメニア人大虐殺から100周年の今年、トルコ政府に責任があると主張したトルコ国民は投獄される恐れがある。しかしながら、日本政府は今や、国内外の双方において、歴史家の業績を直接標的にしている。

2014年11月7日、日本の外務省はニューヨーク総領事に対し、歴史家であるハーバート・ジーグラーとジェリー・ベントリー共著による世界史の教科書『伝統と遭遇――過去への地球的視座』における慰安婦の記述を修正するようマグロウヒル社に要請するよう指示を行った。

2015年1月15日、ウォール・ストリート・ジャーナルは、昨年12月に日本の外交官とマグロウヒル社の代表との間で行われた会談について報じた。出版社側は、2つの段落の削除を求める日本政府の要請を拒否した。学者たちは慰安婦に関する歴史的事実を立証しているというのがその理由である。

2015年1月29日、さらにニューヨーク・タイムズは、安倍首相が国会で、彼の政府が「事態を修正できなかった」と知り、「ショックを受けた」と語ったと述べ、その教科書を直接標的にしていると報じた。

我々は出版社を支持し、いかなる政府も歴史を検閲する権利を持つべきではないとする点で、著者のハーバート・ジーグラーに同意する。我々は、第2次世界大戦中に起きた様々な事実を明るみに出すことに努めてきた、日本やその他の国々の多くの歴史家たちを支持する。

我々は過去から学ぶために歴史を実践し生み出している。それゆえ我々は、政治的目的のために、研究結果を変えさせようと出版社や歴史家に圧力を加えようとする国家や特殊利益の努力に反対する。

 

ジェレミー・エイデルマン、プリンストン大学

ジェラニ・コッブ、コネティカット大学

アレクシス・ダディン、コネティカット大学

サビーネ・フリューシュテュック、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校

シェルドン・ガロン、プリンストン大学

キャロル・グラック、コロンビア大学

アンドリュー・ゴードン、ハーヴァード大学

マーク・ヒーリー、コネティカット大学

ミリアム・キングズバーグ、コロラド大学

ニコライ・コポソフ、ジョージア技術研究所

ピーター・クズニック、アメリカン大学

パトリック・マニング、ピッツバーグ大学

デヴィン・ペンダス、ボストン・カレッジ

マーク・セルデン、コーネル大学

フランジスカ・セラフィム、ボストン・カレッジ

ステファン・タナカ、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校

ジュリア・アデニー・トーマス、ノートルダム大学

ジェフリー・ワッサーストロム、カリフォルニア大学アーヴァイン校

セオドア・ジュン・ユー、ハワイ大学

ハーバート・ジーグラー、ハワイ大学

 

編集部注:この書簡は、2015年1月2日、ニューヨーク市で開かれた米国歴史学会年次会合での非公式会合がもとになっている。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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