総選挙の後に:2017年長崎原爆朝鮮人犠牲者追悼早朝集会メッセージ A message for Korean victims of the Nagasaki Atomic Bomb, August 9, 2017

日本の植民地支配、侵略戦争、朝鮮人被爆への責任に真摯に向き合うための歴史を展示する「岡まさはる記念長崎平和資料館」理事長の高實康稔氏は今年の4月、亡くなられました。高實さんは毎年8月9日、長崎原爆の朝鮮人被爆者を追悼するための早朝集会でメッセージを読んでいましたが、今年は、「長崎在日朝鮮人の人権を守る会」の柴田利明さんがメッセージを読みました。ここに紹介します。日本は、安倍首相が初めて改憲を公約に掲げたとする総選挙で自公連立政権が3分の2の議席を再び確保しました。日本の侵略戦争の歴史を否定する動きも止まる気配がありません。「北朝鮮」の脅威を煽り憎しみと戦争への欲望を駆り立てる政府やメディアの風潮も収まる気配がありません。この12月は、南京大虐殺の80周年を迎える年でもあります。総選挙の暗澹たる結果を受けて、いまここに歴史を心に刻み隣国の人々との友情を築き、再び戦争をさせないための役割を果たしていくことを誓いたいと思います。どんなに少数派となっても、自分の子どもに恥じない生き方をしたい。 @PeacePhilosophy 乗松聡子

2017
年長崎原爆朝鮮人犠牲者追悼早朝集会メッセージ

早朝集会メッセージを読み上げる柴田利明さん

岡正治先生が長崎原爆朝鮮人犠牲者を追悼する碑を建立されたのは1979年8月9日でした。その時以来、長崎在日朝鮮人の人権を守る会は、朝鮮人犠牲者を追悼する早朝集会を開催して参りました。そして、1994年に岡先生が急逝されたあと、私たちは高實康稔先生と共に追悼碑とこの早朝集会を引き継いで参りましたが、非情にも高實先生は既にここにはおられません。
まず、追悼碑が周囲の碑に比べ特に小さく、平和公園の片隅に建てた理由について、皆さまに申し上げます。
朝鮮人民は日本帝国主義の朝鮮侵略と1910年の植民地化によって、祖国を奪われ、土地を奪われ、生活の糧まで奪われ、敵地である日本に渡ってこざるを得ませんでした。さらに日本帝国主義は中国侵略戦争、アジア・太平洋戦争へと戦場を拡大し、労働力不足、兵士不足が露わになると、朝鮮人への戦時強制動員、徴用、徴兵を進め、朝鮮民族全体を日本の帝国主義戦争に引きずり込みました。1945年当時、長崎市とその周辺には約3万人の朝鮮人が居住することになりました。長崎市では三菱財閥系、川南工業系の軍需工場と、それに付随する土木作業に朝鮮人労働者とその家族が動員されました。1945年8月9日、アメリカ軍の原爆投下によって長崎市が惨劇の街となったとき、約2万人の朝鮮人が被爆し、そのうち1万人が非業の死を遂げたのです。戦後さらに、日本政府は朝鮮人被爆者に対して差別抑圧の政策を続けました。政府及び長崎市は戦時強制動員ゆえの被爆である事実を認めようとせず、あまつさえ、長崎原爆死者数を1200人と実数から大幅に減じた数を公表しています。岡正治先生は、理不尽極まる朝鮮人被爆者の非業の死を前にして、日本帝国主義足下に生きる一日本人としての責任を自らに課し、市民からの募金を得て、贖罪の思いを込めて、この追悼碑を建立しました。
一昨年より、韓国を始め世界各地から追悼碑を訪れる方が増加しております。その中に碑の場所と小ささを韓国・朝鮮人に対する差別ではないかという疑念が生じるのはやむを得ないことです。しかし、追悼碑は建立後に公園整備の関係で、数度移動と立て替えを行いましたが、その都度、岡先生と高實先生は、日本人としての贖罪の思いは目立たず密やかであるべきだとのお考えで、このような小規模な形となっております。
昨今、日本政府に煽られた一部の人間による差別排外主義が高まっております。この小さな碑にも撤去を求める蠢動が出ております。それに対してきょうのように、世界各地から自主的に集まられた皆さんがこの小さな碑を囲み、朝鮮人原爆犠牲者の追悼のひとときを共有しているのは希有なことには違いありません。その上で、日本の過去の侵略と戦争に対する深く正確な歴史認識に基づいた名もなき市民一人一人の贖罪の意志こそが、一見孤立し小さく見えるようとも、歴史の逆流に対峙したとき堅い防波堤の連なりになるというのが岡、高實両先生のお考えであり、私たちも続いていきたいと思います。
高實先生は、端島=軍艦島の世界文化遺産化問題にたいして、安倍内閣は近代日本の優越性を内外に誇示しようとする狙いがあり、さらに日本近代史が朝鮮侵略と戦争そして長崎原爆投下にまで行き着いた歴史は隠蔽しようとすることに本質があることを見抜き、端島に強制連行された朝鮮人・中国人の歴史の真実を明らかにすべく「軍艦島に耳を澄ませば」の編集に渾身の力を注ぎました。そして昨年秋に「軍艦島に耳を澄ませば」の韓国語訳出版の提案があり、意義深いことだと感激し、病床にありながら韓国での出版を心待ちにされました。韓国語版「軍艦島に耳を澄ませば」が、映画「軍艦島」の柳昇完(リュ・スンワン)監督からの推薦も受け、二人の翻訳者によって7月31日に出版されたことをご報告いたします。
アメリカ軍が長崎に投下した原子爆弾は防御不可能な無差別大量殺戮兵器でした。核兵器廃絶は世界人類にとって絶対的課題であるべきことは何者も否定できません。2017年7月7日、国連本部で「核兵器禁止条約」が採択されましたが、日本政府は核兵器保有国とともに条約参加を拒否しました。広島・長崎の被爆者から安倍首相への非難が一層強まったのは当然のことです。
日本政府は唯一の被爆国という仮象を国際外交で謳ってきました。一方で韓国人被爆者にたいして厚生労働省の指導を通して手帳の交付申請を却下する姿勢を強めています。韓国・朝鮮人被爆者の存在を否定する排外主義の強まりを懸念せざるを得ません。「原爆と朝鮮人」第7集に三菱長崎造船所に動員され被爆した韓国人の証言を掲載しました。その証言も添えて被爆者手帳交付申請をしましたが却下されました。結局韓国人被爆者は裁判を起こしましたが、長崎市は却下理由の資料として1981年6月に作成した「朝鮮人被爆者一覧表」に原告の名前がないという荒唐無稽な弁論をしてきました。この「朝鮮人被爆者一覧表」という文書は長崎市(本島市長当時)が朝鮮人被爆死者数を1200人以下に留めたいという思惑のために捏造した文書であり、高實先生が壊滅的批判を加えてきたものでした。長崎市は韓国・朝鮮人被爆者に対して、恥ずべき民族差別の罪悪を重ねています。
朝鮮学校に対する高校無償化をめぐって、7月19日広島地裁は無償化からの適用除外を認めました。ところが7月28日大阪地裁では除外処分を取り消し、無償化の適用を命じる全く相反する判決が出されました。高校無償化の法の趣旨に即せば広島地裁の判決は不当であるばかりではなく、地裁の訴訟指揮自体が偏見と民族差別に満ちていたことが指摘されています。政府は大阪地裁判決に従い、朝鮮学校に対する無償化を果たさなければなりません。
安倍政権の発足から韓国・朝鮮人への差別排外行政が強まったのは確かです。ヘイトスピーチなどの民間における民族差別思想、排外行為の横行も安倍政権が勢いづかせたのは間違いないことです。民族差別、排外主義を安倍政権と共に終わらせなければなりません。
最後になりましたが、早朝にもかかわらず、多数ご参集くださいましたことに厚く御礼を申上げます。
2017年8月9日

長崎在日朝鮮人の人権を守る会 柴田利明

初出:「ピースフィロソフィー」2017.10.24より許可を得て転載

http://peacephilosophy.blogspot.jp/2017/10/2017-message-for-korean-victims-of.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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