6月下旬、東京近郊で「原発事故とエネルギーシフトを考えるシンポジウム」が開催された。200人ほど収容できるホールがいっぱいになるほどの盛況だった。原発事故に関する市民の感心の高さを感じさせた。
シンポジウムは4部構成で第1部は井野博満・東京大学名誉教授による「技術でない技術・原子力発電」という報告である。原発事故については、大量の報道や解説がされているが、改めて井野氏の話を聞くと、知識が整理される。
原子力発電は核分裂を利用する平和利用とされているが、原爆として軍事利用するは簡単だが、平和利用のほうが複雑なシステムと制御を要求されるので、より困難である。現在では原子力発電の技術が確立されていないので、原子力発電は一刻も早く止めるべきだ、というのが井野氏の結論である。筆者も同感である。
第2部では環境エネルギー政策研究所(ISEP)の研究員が、太陽光発電や風力発電を中心にした「分散型自然エネルギー社会の転換に向けて」という内容の報告を行った。
この研究員の立場は自然エネルギーを普及させるには、欧州の先進例を見習って、①電力供給に占める自然エネルギーの目標(比率)設定、②電力会社が自然エネルギーを全量固定価格で買い取る制度の導入が必要としたうえで、今後は新築マンションなどに太陽光パネルを取り付けることを義務化する方向で建築規制を強化すべきだという補論も唱えた。
筆者はこうした脱原発をするには自然エネルギーを拡大しなければならない、という議論には与しない。近藤邦明氏の議論のほうが、論理的、実証的に整合性があると考える。
ところが、世の中の動きが脱原発と自然エネルギー拡大をセットで促進して、政治的、経済的利益を得ようとする勢力が力を増している。管直人首相やその周辺の孫正義氏、京セラ、シャープ、東芝、GE(風車の大手)などが相当するだろう。残念なことに近藤邦明氏のように正論を唱える人々は少数派である。
全額固定価格買取制度は、消費者がより高い電力料金を払うことで、自然エネルギー推進派に経済的利益が移転することである。消費者は「脱原発」「地球温暖化防止」のためには、高い電力料金も仕方ないと納得する可能性が高いが、現在の原発利権に置換するものというと言い過ぎか。
脱原発派が自然エネルギー派に加担することは将来に禍根を残すと考える。
全国に米国やドイツ、韓国のようにガスパイプラインを敷設して、ガスをより安く供給し、同時に分散型(地産地消型)のLNG火力発電を拡大することで、簡単に解決できる問題をなぜ不安定で高コストなうえ、新たな公害(風力発電による低周波音問題)を懸念される「迂回方式」の自然エネルギーを拡大する必然性があるのか。
誤解のないように補足すれば、ISEPに属する研究員の話は、豊富な事例を紹介した興味深い、真摯な内容だった。しかし、自然エネルギー拡大=善という信仰や洗脳が浸透している。それだけに「将来がこわい」のである。
太陽光発電高値買取りに反対する 近藤邦明氏
http://www.env01.net/ss02/ss022/takanekaitori.pdf#n390
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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