新著を上梓して:春名幹男著『ロッキード疑獄』(角川書店)
アメリカのトランプ政権とは、一体何だったのか。あんな乱暴な政権に対して、安倍前政権は何ができたのか。日本は既に巨額の在日米軍駐留経費を支払っているのに、米国が平気で「80億ドル出せ」と要求しても、何も反論しない。令和初の国賓に招いて「おもてなし」をしたのに、言われっぱなしだった。
トランプ大統領は2017年、安倍晋三夫妻をフロリダの別荘に招いた。別荘と言っても、実は自分が経営するリゾートホテルだ。そこでもてなし、億単位の費用を米国政府に請求、米政府はトランプの会社に支払った。
首脳会談では水を出したが、「グラス1杯の水で3ドルを請求した」(ワシントン・ポスト)。ケチな話だ。大統領は日本を利益誘導の道具に使っていたのだ。日本政府はその事実を知らなかったに違いない。日本はいつも、米国政府側の事情にうとい。
あのロッキード事件の時もそうだった。
▽独自外交を展開した角栄を葬る
私はロッキード事件を徹底取材して、この本を上梓した。米国は、独自外交を展開した田中角栄をひどく嫌悪し、最後は政治的に葬った事実が浮かんだ。
取材のきっかけは2005年。米民間調査機関「国家安全保障文書館」のアナリスト、畏友のウィリアム・バーが、重要な文書を発見した。その文書は「日中国交正常化」の4週間前、ヘンリー・キッシンジャー補佐官が「ジャップは上前をはねやがった」と田中の対中外交に怒りを露わにしたと記録している。
▽取材結果の概要
私はそれから15年間、取材と執筆を重ねた。
ワシントン郊外の米国立公文書館、カリフォルニア州のニクソン大統領図書館、ミシガン州のフォード大統領図書館などで文書を渉猟し、事件に関わった関係者に直接会って取材した。
本書の構成は次の通り。
第1部 田中を逮捕した事件の真相
第2部 田中外交と米国の対立
第3部 真の「巨悪」の正体を追及
プラス 「陰謀説」を各部で解明
最初に判明した事実は、田中と米国が対立していたことだ。「日中国交正常化」、「日ソ北方領土問題」、「石油ショックに伴う日本の中東外交転換」と、いずれの問題でも、日米間に深刻な溝ができた。アメリカは田中を蛇蝎のように嫌っていたのだ。
第2の事実は、「Tanaka」などと記したロッキード社の資料が、同社から米証券取引委員会(SEC)、米司法省を経て、最終的に東京地検特捜部に提供されていたことだ。外交で対立した田中を嫌悪し、葬ったのだ。
▽『角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』(副題)
第3の事実は、「巨悪」が訴追を免れていたことだ。事件当時「首相の犯罪」が「巨悪」とみられていたが、本当の巨悪は日米安保関係の根幹に絡む利権に群がった「紳士」たちだ。児玉誉士夫と有力政治家らである。
アメリカは田中を訴追するための資料は日本に提供したが、「巨悪」を立件するのに必要な資料は提供しなかったのだ。本書は巨悪の正体に迫った。
それだけでは、日本の読者は満足しない。いくつもの陰謀説が未解明のまま流布しているからだ。本書は陰謀説を1つずつ解き明かし、その真偽に決着を付けた。「ロッキード資料の誤配説」も田原総一朗氏の「米国の虎の尾を踏んだ説」も、全く真実ではない、と証拠を挙げて証明している。
▽筆者自身が驚いた真実
この本は当時の歴史を記したが、未知の重大な新事実が多々判明したことに、筆者自身が非常に驚いた。
田中角栄をロッキード事件で逮捕・起訴し、実刑判決が言い渡されたのは、「Tanaka」あるいは「PM(首相のこと)」と明記された文書が東京地検特捜部に提供され、特捜部が困難な捜査をやり抜いたからだ。
それら文書の提供を可能にしたのは米政府高官Kだった。
当時、そうした文書の日本への提供は難しいと報道されていたが、現実には米国は日本に文書をくれた。舞台裏で、Kが文書提供を可能にする「仕掛け」をしていたのだ。かくして、田中訴追を可能にした証拠文書が日本側に届けられた。
Kは「田中は逮捕されてもかまわない」と考えたに違いない。Kは自主外交を進めた田中を蛇蝎の如く嫌い、米政府内の会議で「ウソつき」と繰り返し非難している。
田中の外交を嫌悪した高官と、田中逮捕につながる文書の日本側への提供を可能にした高官は実は、同一人物だったのだ。
高官Kはだれか。お察しが付いたでしょうか。続きは、本書でお読みいただきたい。#
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10276:201111〕