菅首相談話はもっと踏み込むべきであった

著者: 三上 治 みかみおさむ : 社会運動家・評論家
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 韓国併合100年を前にして菅首相が談話を発表した。日本の韓国併合(朝鮮半島の植民地化)を「民族的誇りを傷つけた行為として痛切な反省をする」としたものである。この談話に対して谷垣自民党総裁は「後ろ向きのもの」として批判している。また、元首相・安倍信三の批判は支離滅裂で何を言っているのか分からない代物であった。総じて保守派はこの談話に批判的であるが、アメリカとの関係や沖縄問題は要心深く避け、韓国や中国問題になると神経過敏な反応をする右翼や保守の傾向を現わしている。こういう連中が横行するのは戦後の日本が日本の近代におけるアジア諸国との関係や中国大陸での戦争(侵略戦争)についてまともな反省もきちんとした認識もしてこなかった結果である。僕はこの談話は痛切に反省しているという割には踏み込みが足らないと思う。具体的には従軍慰安婦問題への言及が欠落しているし、1965年の日韓条約で解決しているとされる戦時賠償請求権問題の見直しをしていないことである。この談話には中身が欠けているという印象が強いのはそのためである。

 これは菅首相や閣僚たちに日本近代のアジア政策や中国大陸での戦争についての見識(歴史的な反省や認識)が深くないためだと思われる。アメリカは冷戦構造の激化の中で対日占領政策を転換した。日本をアジアでの有力な軍事パートナーにする政策であり、具体的には日本での軍隊の再建と復活政策であった。これに抵抗した吉田茂は旧軍人たちを使って暗殺させる画策をした。アメリカに協力的な旧軍人や官僚の政治的復活を図った。岸信介はその象徴的存在であった。この政策転換は日本の近代におけるアジア政策や中国大陸での戦争を追及することを止めることであり、曖昧にすることを許すものだった。中国では戦後の内戦があり、朝鮮半島では朝鮮戦争があり、中国や韓国などが日本の戦争行為を追及する力を持つのは困難であるという事情があった。この二つの条件は日本近代のアジア政策(例えば韓国併合)や中国大陸での戦争に対する反省やその歴史認識を曖昧にしておくことを結果的に許した。これは日本がアジアで政治的に信頼されず、政府の靖国神社参拝問題で反発を招いたりする要因になっている。だから、こうした談話で穴埋めをしているが村山談話も菅談話も踏み込みが足らない。従軍慰安婦問題などは明瞭にすべきであり、戦時賠償など1965年の日韓条約にとわれずに見直し必要とされるものには払えばいい。これを孫の代までやっていいのである。こういうことになるとケチくさいところが出るのは嫌なことだ。国家の品性(?)としても許されないことだ。

(8月10日)

 〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/

〔opinion088:100811〕